深圳を紹介した前回のエントリーに関して、マルコおいちゃんさんから、
「見かけはどうあれ実質的生活の質では香港に及びもつかないと思いますが、いかがでしょう?それでも香港人たちは大陸へと移住するでしょうか?」
とのご質問を受けました。
あれこれ考え、香港人にも話しを聞きましたが、やはり香港人は
「大陸を目指している」
ようです。
手元にあった香港日本人商工会議所の『香港経済の回顧と展望』(07年7月発行)にいくつかの注目すべきデータがありましたので、それを元に、香港人が大陸を目指すわけをさぐってみました。
返還後の香港は、政治面では「1国2制度」は堅持されていますが、経済・社会・暮らしに関しては、急速な一体化が進んでいます。その背景に、香港人女性の「高学歴化、キャリア志向、未婚率の高さ」は女性の社会進出を促進する一方で、香港内での男性の就業機会を減少させている、という現象があります。
■香港における女性の社会進出率の高さ
1)労働力人口の男女比率(06年)
男/54%:女/46%
2)15歳以上の男女別就業率(100人中)(06年)
男/69.2%、女/52.4%(日本=41%)
3)男子の失業率の高さ
男/5.1%、女/3.3%
4)高い大学進学率
大学生男女比 男/45%、女/55%
理系男女比 男/70%、女/30%(99年=20%)
⇒男子の香港での就職機会が減少している ⇒ 大陸に職を求める男子が急増 ⇒ 女性の結婚難(大陸人に伴侶を求める傾向強まる)
■結婚による一体化
1)香港男子と大陸女子の結婚件数
96年:2215件 06年:18000件
2)香港女子と大陸男子の結婚件数
96年:269件 06年:3400件
3)06年、香港の結婚件数5万件のうち、4割が香港人と大陸人の結婚
■北上工作
1)見逃せないCEPAの効果
中国本土と香港の貿易経済緊密化協定=CEPAの締結により、香港人の大陸での事業展開が容易になった。それにより「香港人のための」多くの雇用が大陸で創出されている。同時に積極的に大陸ビジネスを展開しようという動きが活発化している。それに合わせて、かなりのビジネスの場が大陸に移っている=北上工作
2)増える大陸への移住者
返還前に中共支配を恐れ、欧米への移住者が急増したが、それらの多くは香港に戻っており、上述のような社会の動きを敏感に察知し、新たなビジネスチャンスをつかむため、かつて欧米へ逃れようとした連中もすでに大陸へシフトしている=北上工作拡大
■高齢化社会の到来
元来、移民で成り立った香港。60~70年代の高度経済成長を支えた世代がリタイアを迎えるのがここ数年。香港である程度成功し、子供も巣立った元・移民層がリタイア後に故郷=大陸へ戻って、余生を過ごすというパターンが増えると思われる
以上のような状況は返還後加速度を増しており、今後も継続して加速してゆくと予測されます。
前エントリーで
「深圳では次々と高層マンションの建設が進み、いずれ多くの香港人が移り住むだろう」
と書きました。いま、深圳は香港の不動産価格急騰のあおりで、香港人による分譲物件購入が急増中とのこと。ただし、香港人の不動産購入はあくまで投機であり、「住むための家を買う」というわけではありません。とは言え、上に挙げたような社会の変化がさらに進めば、いずれそれらの物件は「自分たちが住むための」ものになるのわけで、それはそんなに遠くない日のことだと思われます。
余談ながら、人材斡旋会社数社に聞くと、「最近、『この人は!』というような優秀な人材が香港で減っている」と声をそろえます。香港人はもとより日本人もそうだと。優秀な人材はやはり大陸へ相当数流出しているようで、広州の商売のほうが香港を上回っている人材会社も増えています。小生の業界でも返還後5年目あたりから香港人の優秀な人材が広州あたりに流出してしまいました。結果として、香港の業界の「質の低下」は誰の目にも明らか。
ある香港人経営者はかなり前から「香港のビジネスに将来を期待していない」と言い、大陸でのビジネスを拡充してそれなりの成果を上げています。彼もまた月のうち20日ほどを大陸で過ごす「北上組」です。
香港人は政治面では「民主化」を叫びながらも、経済面ではむしろ本土との「一体化」、もっと言えば「香港の中国化」を歓迎している、というのが実情です。そのあたりの「機を見て敏」な嗅覚と言うのはさすがです。それは裏を返せば「経済」と言う手段で、いかに中共が返還後の香港を懐柔してきたかということでしょう。反面、天安門事件のような中共政権を揺るがす大事に至れば、この流れは一瞬にして止まってしまうのは、言うまでもありません。
いずれにしろ、今の流れは「北上」であるのは間違いありません。
以上、回答になったでしょうか??
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COMMENT:
AUTHOR: 丸山光三
DATE: 08/21/2007 03:35:57
ふうむ、由々しき事態というべきでしょうね。
香港の空洞化
大陸の香港化
これ自体は鄧小平の狙いどおりでしょうが、かっての香港を愛する(ほどじゃあありませんが、まあ大陸よりは好ましく思っていた)者として残念です。
時の流ればかりとはいえない中共の戦略による人為的なものだけに口惜しい思いです。
わたしが夢想千一夜で述べておいた廃墟としての香港がまもなく実現してしまうのでしょうか?
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COMMENT:
AUTHOR: leslieyoshi
DATE: 08/21/2007 18:00:42
To マルコおいちゃんさん
まことにもって由々しき事態ではありますが、この流れは香港と香港人が選んだもの。我々在住外国人もここでビジネスをする以上、むやみに流れに逆らうことはできません。
おっしゃるように、「中共の戦略による人為的なものだけに口惜しい思いです。」
>わたしが夢想千一夜で述べておいた廃墟としての香港がまもなく実現してしまうのでしょうか?
そうですね。そうならないためには中共の崩壊しかないのでしょうか…。それはそれで難民の大量流入など、不安要素がいっぱいです…。
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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