【睇戲】小雁與吳愛麗 <日本プレミア上映>

<モノクロ作品でよかったわ(笑)。いきなり冒頭で血まみれやねんもん、総天然色やったらビビるわ(笑)>


小雁與吳愛麗(邦:イェンとアイリー)』を観に来たわけだが、その前に「TAIWAN NIGHT」のイベントが行われる。どうせ台湾映画関係のゲストが壇上にずらっと並んで紹介されるだけのことだろうから、これ自体は見ても見なくてもいいんだが、一応セットになっているので(笑)。

で、想像通り、台湾映画関係者がずらっと並んだ(笑)。まあ、好きな人は胸アツだろうけど、小生はせいぜい「ああ、こんな顔してはんねんや」「トム・リン、ちょっと老けた?」みたいな感じで(笑)。一応ご紹介しておきましょうね。

『小雁與吳愛麗』監督:林書宇(トム・リン)
我家的事(邦:我が家の事)」監督:潘客印(パン・カーイン)、出演者:曾敬驊(ツェン・ジンホア)
失明(邦:ブラインド・ラブ 失明)』監督:周美豫(ジュリアン・チョウ)
晩風(邦:晩風)』監督:江宗傑(チャン・ゾンジェ)
寂寞貓蛋糕(邦:寂しい猫とカップケーキ)』監督:楊羚(ヤン・リン)

一応、撮っておきました(笑)。小生的には、推しの曾敬驊(ツェン・ジンホア)の来阪が嬉しかったね

出演俳優は曾敬驊(ツェン・ジンホア)のみ。客側の勝手を言わせていただくと、俳優がもう2~3人来てくれていたらなぁと思う。ってわけで、いささか華やかさに欠ける「TAIWAN NIGHT」となった。で、『小雁與吳愛麗』の始まりと相成りし候。

睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

コンペティション部門特集企画 <台湾:電影ルネッサンス2025>
小雁與吳愛麗
 
邦題:イェンとアイリー <日本プレミア上映> 

台題『小雁與吳愛麗』
英題『Yen and Ai-Lee』 邦題『イェンとアイリー』
公開年:2024年 製作地:台湾
言語:普通話、台湾語、客家語 上映時間:106分
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):林書宇(トム・リン)
監製(製作):苗華川(クリフォード・ミウ)、張林翰(チャン・リンハン)
編劇(脚本):林書宇
攝影(撮影):卡迪克·維傑(カルティク・ビジェイ)
剪接(編集):林欣民(トム・シンミン・リン)
美術指導(プロダクション・デザイナー):蔡珮玲(ペニー・ツァイ)
造型指導(衣裳デザイナー):葉嘉茵(カレン・イップ)
聲音指導(サウンド・デザイナー):郭禮杞(グォ・リーチー)
原創音樂(オリジナル楽曲):林正樹(はやし まさき)

領銜主(主演):夏于喬(キミ・シア)、楊貴媚(ヤン・グイメイ)、曾國城(サム・ツェン)、黃奇斌(ン・キーピン)、張詩盈(ウィニー・チャン)、謝以樂(シエ・イーラー)、張捷(チャン・チエ)、徐裕傑(ユー・シエシュウ)
友情演出(友情出演):謝章穎(シエ・ジャンイン)、范瑞君(レイ・ファン)
特別演出(特別出演):葉全真(イップ・チュンチャン)

《作品概要》

同じ顔を持つふたりの女性。イェンは母を守るために父親を殺し、アイリーは演技のレッスンを通して自分の生き方を模索する。母と娘の運命を主軸に、静謐なモノクロ映像がふたつの時間軸を交錯させていく。キミ・シア、ヤン・グイメイ主演。<引用:第20回大阪アジアン映画祭公式サイト

実の父親殺しで血まみれの姿で警察に自首した小雁(イェン 演:夏于喬/キミ・シア)。このシーンから始まるので、きっと凄惨な父親殺しの場面が続くんだと思っていたら、すぐさま場面は出所後の小雁が、母が営む雑貨店に戻ってきたシーンに切り替わる。なんか面倒くさそうに小雁と話す中年女が、実の母親、吳愛麗(演:楊貴媚/ヤン・グイメイ)だとわかるには、少し時間がかかった。それほどに「親子」を感じさせない二人の会話だった。

小雁を演じた夏于喬(キミ・シア)は、監督の林書宇(トム・リン)の奥さん。上映後のQ&Aでは「実際、私の妻はとても美しいのですが」だのと、やたら「美しい妻」を強調していたのが微笑ましい。母親・吳愛麗を演じた楊貴媚(ヤン・グイメイ)は、金馬獎主演女優賞の常連。この役で第61屆金馬獎の助演女優賞に輝く。

刑期を終え、故郷の美濃に戻った小雁だったが…

小雁が父親殺害の罪で投獄されたのは25歳の時。8年後に釈放され、故郷の美濃に戻ったものの、どうやって出所後の生活を始めればいいのか、また他人の親切をどう受け止めればいいのかが分からない。それにしても、この美濃という街はいいところだな。高雄の郊外らしい。街を流れる川というか幅広の用水路というか「美濃水圳」というらしいけど、何とも言えぬ情緒を醸し出している。本作の大部分は美濃で撮影されている。

スッポンポンで家の中を歩き回っている母親の恋人、仁哥(演:曾國城/サム・ツェン)を見て、小雁は「ああ、母はまた同じ過ちを繰り返し、暴力を受け入れることを選んだのだ」と悟った。母はまた同じ轍を踏もうとしていたことへの失望、憤り…。その権化たるべき仁哥を曾國城が実にいやらしく好演。彼の言葉は、普通話でも台湾語でもないような…。客家語なのかな? それがまた、効果的だったのかな、ほんといやらしい奴って感じだった。

同じ頃、小雁にそっくりな若い女性アイリーが、演技の授業を受けるためにコミュニティカレッジに参加した。彼女は徐々に他の参加者と親しくなり、パフォーマンスも優秀で、自信を深めてゆく。

演技教室で衣裳選びをするアイリー。二役やとばっかし思ってたら…

しばし、この二人のタイムラインに迷惑わされる。え、惑わないって? じゃ、小生が愚かなる観客と言うだけの話です(笑)。ま、その愚かなる観客視線で進めてゆくと、小雁とアイリーは同時に存在した二人の人間であり、二人の間には同期性があるように思っていたんだが…。後半、「吳愛麗」は小雁が高雄の都心部に住んでいたときに使っていた偽名であり、この偽名は小雁の母親の本名でもある、っていう段取りでおました。この巧妙なシナリオにより、小雁の心理的変化を間接的に理解することができたのだから、上手いよな。

冒頭から主人公は常に小雁だった。釈放後、小雁が故郷で不安やもどかしさを感じている様子を見ていると、ムショ帰りの人間が社会復帰することへの不安や恐怖を感じることができる。社会の目や態度がどれほど友好的であっても、父親を殺したという事実は隠し切れないからだ。そのため、不安げなしかめっ面が小雁の最も一般的な表情だった。

前半、母と娘は、常にこの距離で撮影されていた

小雁は母親の名前「吳愛麗」を偽名として使うことで、本来の自分から逃れようとしたのだろうが、同時に母親を感じ、母親を憎み、そしてついには母親の名前を通して母親を理解するに至る。小雁が母親に対して強い憎しみを抱いているのは、母親が父親から家庭内暴力を受けた屈辱に耐えきれず、小雁が父を殺めたにもかかわらず、母親は再び同じ轍を踏もうとしている…。そんな母親の選択が、小雁に苦痛とフラストレーションを感じさせたのだろうな、と。

小雁の前に突然、父の愛人だった女(演:葉全真/イップ・チュンチャン)が現れ、「1か月ほど留守にするからこの子を預かって」と、小雁の異母弟にあたるの小偉(演:謝以樂/シエ・イーラー)を押し付けられる。随分と一方的な女だなと思った。要は子供を捨てに来たのだ。

バイクで小偉の学校の 送り迎えをすることになった小雁

吳愛麗の恋人、仁哥と手下どもが吳愛麗の雑貨屋に来て、絶対当たらない偽造スクラッチくじ を売るように指図した。小雁は、娘の仮釈放中に偽のスクラッチくじを売っていることを激しく非難し、そのまま怒りに任せて荷物をまとめて家を出てゆく…。ここで映画の主人公は、小雁から母親の吳愛麗に交代してゆくのが、わかる

偽スクラッチくじをめぐる仁哥の暴力的な態度に、小雁は父への恐怖を思い起こす…

さて、1か月後、「今日はお母さんが迎えに来る」と言って、吳愛麗の雑貨屋の前で朝から夜遅くまで待つ小偉が、あまりにも可哀そうだ。きっとこの子は「母は自分を捨てた」と知っていたんだろう。それでも母を信じる気持ちもあったわけだが…。惨たらしいね、まったく…。

待てど暮らせど約束の日に母は来ず…。涙を流す小偉。子役の涙はキッツいね…

吳愛麗は昔的な中年女性なんだろうな。男性との恋愛を切望する一方で、男性の非情さにも耐えることができる。しかし、夫の妾に対しては恋愛を容認せず、厳しく非情な態度を取る。妾の息子にも容赦はないはずだったのだが…。小偉が母親の帰りを待つも、母親が現れずに落ち込んで涙を流していた時、吳愛麗は情(じょう)に傾く。このシーン、よかったなぁ。「おばちゃん、優しいやん!」。

吳愛麗は小偉の父親のことを語り始める

クライマックスは、小雁と吳愛麗に同時に起こる。小雁は演技クラスで孝娘白琴(葬儀の哭き女)の衣裳を纏うことになってしまい戸惑う。自分が殺害した父親に対する憎しみを表現しながらも、一片の愛情も感じ、涙を流す。

一方、小雁を家に帰すために、吳愛麗は偽造スクラッチくじの販売をやめると、仁哥に伝えたことで、怒った仁哥は暴力を振るい、吳愛麗を絞殺しようとする。そのとき健気にも小偉は仁哥のケツにペンだったか錐だったか失念したけど、突き刺す。「やったぜ、お前、男の子やな!」と思うが、ごっつい仁哥はお構いなしに吳愛麗の首を締め上げる! 「もはやこれまでか!」と思った瞬間、巡回中の警官が!

吳愛麗を思いきり張り倒す仁哥

エンディングから判断すると、吳愛麗は仁哥との有害な関係を断ち切り、娘の信頼を取り戻したように見える。二人の関係修復に希望を感じる結末ではあったけど…。

小雁は母親の保釈のため、警察へ向かい、母を連れ戻す。二人の距離が前半と全く違う!

本作は母娘の関係が見事に描かれているほか、モノクロ撮影も非常に素晴らしい効果を発揮している。悲しみはより悲しく、暴力はより激しく再現されただけでなく、登場人物の表情や行動もより力強く映り、これらの効果により、家族の感情のもつれや息苦しさをより深く理解できた。

林書宇(トム・リン)監督は上映後のQ&Aでモノクロ撮影について、「一度はモノクロの映画を撮ってみたかった」と言い、「脚本を書いているときに、この物語はモノクロがふさわしいのではと思った」と言う。狙い通りだったな、というところ。なお、例によって話の内容は席を立った瞬間に、どこかへ行ってしまうので、ここでこれ以上は再現できないこと、敬請諒解。『アジアンパラダイス』さんが詳しく書いておられるので、ご一読を!

■ 受賞など ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

○ 第44屆優良電影劇本
・優等獎:『小雁與吳愛麗』

○第29回釜山国際映画祭
・金智奭獎(キムジソクアワード):『小雁與吳愛麗』

○第61屆金馬獎
・最優秀助演女優賞:楊貴媚(ヤン・グイメイ)
他7部門でノミネート

○第19回アジアフィルムアワード
・最優秀助演女優賞:楊貴媚(ヤン・グイメイ)

○第40回サンタバーバラ国際映画祭
・最優秀国際長編映画賞:『小雁與吳愛麗』

○第19回アジアン・ポップアップシネマ(シカゴ)
・長編部門審査員特別賞受賞作品:『小雁與吳愛麗』

■ 正式預告 ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

(令和7年3月21日 ABCホール)

トム・リンの作品では、これがお気に入り。
かなりの希少品になってしまっており、お値段もびっくらこきますが、一家に一枚ぜひ!


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