【毒書の時間】『ほたるいしマジカルランド』 寺地 はるな

(photo AC)


大阪の問屋と本屋が選ぶ『ほんまに読んで欲しい1冊』、「大阪ほんま本大賞」も数えて12回。振り返れば、1回目からずっと選出作品を読んでいる。「受賞作品の売上の一部で、大阪府下の児童養護施設に対し図書寄贈を実施」という点がすごく気に入ったからだ。もちろん、大阪を舞台にした作品というのもあるけど。今年は寺地はるなの『ほたるいしマジカルランド』が選出された。初読み作家さんだが、「読書メーター」なんぞのレビューを見たら、なかなか根強い人気のある作家さんのようで、ちょっと楽しみ。こういう機会をきっかけに、これから読み続ける作家さんになるかもわからない。これはもう「ご縁」である。さて、良いご縁となるかどうか…。

『ほたるいしマジカルランド』 寺地 はるな

ポプラ文庫 ¥792
2023年8月5日 第1刷発行
2024年7月23日 第2刷発行
令和6年12月19日読了
※価格は令和6年12月20日時点税込

帯に「舞台のモデルはひらかたパーク」とある。帯で「種明かし」してしまう本も珍しい(笑)。で、小生はその時点で「ひらかた大菊人形展」が脳内でぐるぐるする。それくらい「ひらかたパーク=菊人形」なのである。解散してしまったが、女流漫才コンビのハイツ友の会がネタにしてたのには爆笑してしまった(笑)。まあ、最近の人は、きっと「ひらかたパーク=岡田准一(超ひらパー兄さん、「園長」)」なのかもしれないけど、いややっぱり、菊人形でしょ(笑)。

考えてみれば、電鉄系の遊園地で大阪府下で残っているのは、このひらかたパークだけになってしまった。みさき公園(南海)、さやま遊園(南海)、玉手山遊園地(近鉄)はすでに閉園した。大阪近郊でも、あやめ池遊園地(近鉄)、伏見桃山キャッスルランド(近鉄)、宝塚ファミリーランド(阪急)、阪神パーク(阪神)も閉園してしまった。大阪近郊で現存する電鉄系遊園地は、生駒山上遊園地(近鉄)、須磨浦山上遊園(山陽)だけか…。どの電鉄系遊園地も、幼いころの思い出があり、閉園のニュースは残念でならなかった。時の流れの残酷さを思ったものだ。「USJに全部持って行かれた」と言えば、そうかもしれないし、そうとも言いきれないものもあるはずだ。そんな中で、ひらかたパークはまさに「最後の孤塁」を守ってくれているのだと思う。

ひらパーこと、ひらかたパーク

さて、物語だが。

月曜日から日曜日まで7つの章立てで、大阪北部・蛍石市の「ほたるいしマジカルランド」で働く6人の人を描く。それぞれがこの遊園地でどんな仕事をしているのか、その人となり、抱える問題などが綴られる。そして特徴的なキャラで、大阪の誰もが知る存在の社長の市子さん。働く人たちの物語と同時に、この社長の後継者問題も物語の柱である。実子の佐門か、それとも実の子同様に育ててきた前社長の孫である佑なのか。

突き放した言い方をすれば、まあそれだけの話なんだが、人によっては結構シリアスな人生を背負っている人もおり、そういうのを読むと、日常的に顔を合わす職場の人たちの人生ってどんな人生なんだろうとか、何かとんでもない問題を抱えていたりするのかな…。なんて感じで眺めてしまう。いけないね、こういう「物語入り込み」傾向は(笑)。「普通に仕事しとき」と自分に言い聞かせる(笑)。

共感できる人物、「いや、それはあかんで」と言いたくなる人物、様々だが、ちょっと感動したのは、系列の園芸会社の山田さん、定年退職の日の話。奥さんの「アトラクション」に山田さん同様、思わずウルウルしてしまった。おもろい奥さんやけど、旦那さんを心底愛してはるんやね。ええ夫婦やなと、ほわ~んとした気分になった。

色々抱えていてしんどいけど、ちょっとだけでも穏やかな気持ちになりたい!って人には、おススメの一冊。でも、そういう場合は、まず区役所とかに相談してみて(笑)。

さて、「大阪ほんま本大賞」の第4回から制定されている「特別賞」。今回は岸政彦、柴崎友香共著の『大阪』(河出文庫)が選出された。今年の5月に読んだ本である。自分が先に読んでいた本がナントカ賞に選ばれると「俺の目は確かやろ!」と、ちょっと威張ってみたくなる(笑)。

 


コメントを残す