<この子役がめっちゃよかったの。小生の感覚としては、子役がいい映画はヒットする。で、この映画、今年の中国夏休み作品で、記録的ヒットとなった。ほらな、子役よ、子役!>
映画の前に…。
アジア作品を中心に楽しませてくれたアメリカ村はBIGSTEP内のミニシアター、「シネマート心斎橋」が、この日をもって閉館となる。数か月前に「X」で告知を知った時は、愕然としたものだ。ここでどれだけ多くの香港映画、台湾映画を観てきたことか。恐らく、帰国後に映画を観た回数が一番多かったのは、ここではなかったやろうか…。この先、俺はどないしたらええんやろ…。
確かに、映画館、特にミニシアターを取り巻く状況は、COVID-19以降、激変した。配信による映画鑑賞がすっかり定着し、思ったようには映画館に客足は戻っていないのが現実。それは映画館へ比較的よく行く小生は痛感していた。今回のシネマート心斎橋の閉館が皮切りとなって、他のミニシアターが続々と…。とならないことを祈るばかりである。
そんなシネマート心斎橋、正真正銘最後の日となった10月24日、ギリギリ滑り込みセーフで、この夏、中国最大のヒット作を観てきた。シネマートの最後に華語片というのも、なかなか小生らしくってよろしいかなと(笑)。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
抓娃娃 邦題:抓娃娃(じゅあわわ) ー後継者養成計画ー
中題『抓娃娃』
英題『Successor』
邦題『抓娃娃(じゅあわわ) ー後継者養成計画ー』
公開年 2024年 製作地 中国
言語:普通話 上映時間:133分
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):閻非(イェン・フェイ) 、彭大魔(ポン・ダーモー)
編劇(脚本):彭大魔、閻非 、林炳寶
監制(プロデューサー):章樂斌
攝影(撮影):孫明 剪輯(編集):周肖林
配樂(音楽):彭飛
領銜主演(主演):瀋騰(シェン・トン)、馬麗(マー・リー)
主演(出演):史彭元(シー・ポンユアン)、薩日娜(サリナー) 、肖帛辰(シャオ・ボーチェン)、張子棟、李嘉琦(リー・ジアチー)、趙鳳霞、馬文波、孫貴權、楊文哲、駱佳、陳冰、屈爽
特別出演(特別出演):魏翔、賈冰、于洋、李宗恆
友情出演(友情出演):劉鑒、丁柳元 、王成思、張一鳴、陶亮
※現地資料は簡体字表記だが、文字化け防止のためすべて繁体字に改めた。
《作品概要》
貧しい家庭で生まれ育った少年ジーイェは、貧乏から抜け出すため、名門大学進学を目標に日々勉強に勤しんでいた。しかし成長するにつれ親や隣人たちに対する違和感は膨らみ、ついにあることがきっかけで、その違和感は確信へと変化する……。<引用:映画『抓娃娃(じゅあわわ) ー後継者養成計画ー』公式サイト>
中国で累計観客動員数7500万人超え、興行収入RMB32.54億(約715億8,800万円)という超絶大ヒットを記録した、コメディ映画。人口が多いから、ヒットしたらこれくらいの額にはなるよな。その辺は冷静に数字を見る必要がある。“『飛馳人生(邦:ペガサス 飛馳人生)』の瀋騰(シェン・トン)と『這個殺手不太冷靜(邦:トゥ・クール・トゥ・キル 殺せない殺し屋)』の馬麗(マー・リー)という中国の人気コメディアン2人が共演”という触れ込みだが、どっちの映画も観てないし、どっちの俳優も今作で初めて観たので、この説明ではさっぱりわからんよね(笑)。
Wiki(中国語版)によれば、“該片是閆非與彭大魔繼《夏洛特煩惱》《西虹市首富》後第三次合作的電影長片”とあり、「もしや続き物?」と一瞬思うも、7年前に第12回大阪アジアン映画祭で観た『令伯特煩惱(邦:負け犬の大いなる煩悩)』の『夏洛特煩惱』のマレーシア版だということで、映画タイトルだけは記憶にあった。なので「ああ、あの映画の元ネタか!」というところ。ちなみに『令伯特煩惱』は、あまりにも小生のツボにはまりすぎたため、2回上映を2回とも観た(笑)。これは小生の大阪アジアン映画祭史上でも、この作品だけじゃないだろうか…。
で、この「三部作」はいずれも閻非(イェン・フェイ) 、彭大魔(ポン・ダーモー)コンビが監督を務め、瀋騰が主役を張っている。そういう意味で、3人による「集大成」とでも言える位置づけになるのかもしれない。さらに瀋騰と馬麗は『夏洛特煩惱』の主演コンビであり、今を時めくコメディ集団と言うか舞台劇集団「開心麻花」の人気俳優でもある。なら、間違いなく面白いはずだという、中国人民の期待を集めての夏休み映画ということだ。そして上映が始まるや否や「期待以上」の面白さで、人気大爆発となったということがわかる。ここまで解説しなきゃあきませんよ(笑)。
前置きがめっちゃ長くなってしまったが、そろそろ映画のことを書いておかねば(笑)。
中国映画っぽくない軽く明るいロック調の歌に乗せて、映画は始まる。舞台は架空の都市、西虹市。『夏洛特煩惱』『西虹市首富』と同様。三部作と言われる所以だろう。「もうこんな場所ないやろ~」みたいな昔風の集合住宅の俯瞰。上海あたりで以前はよく見かけたが、今はどうなんでしょね。元気よく通学する少年は駆け足で学校を目指す。自転車通学の年上の子をどんどん追い抜いてゆく。トップに掲げた画像のようなかわいい少年。だが、あの集合住宅に住んでいるということは、どちらかと言うと、貧しい家の子なんだろう。
この子役の少年が、ほんといい演技をするわけで、おじちゃんはくぎ付けだったわいな。主人公の一人、継業(ジーイェ)の少年期を演じたのは肖帛辰(シャオ・ボーチェン)という子役。「こういうヒット作は子役がいいのよ!」というのは小生の持論だが、彼の演技は明らかに期待を上回るものだった。何より、役への理解が素晴らしい。感情表現も気取らず、リアルで自然。「演じている」というイメージを観客に与えないのが素晴らしい。俳優活動を始めてまだ3年だが、これまでに出演した作品や役柄も多岐にわたるという売れっ子子役だ。間違いなく将来の有望株であり、可能性は無限。いやはや、末恐ろしい!
継業は勉強もできて素直すぎるくらい素直に育って、めっちゃええお子さんなんだが、いかんせん、家が貧乏で、クラスメイトの格好のいじめの対象にもなる。でもなんかおかしい…。貧乏なはずの家だが、この子が登校した後に両親は車で「出勤?」するのだ。「ええ??」っと思うも、そこがこの映画の「隠し絵」みたいな部分で、その隠し絵の中でこの子をいかに優秀な人物に育てるかという計画が進められていたのだ。継業自身も貧乏から抜け出すため、名門大学進学を目標に日々勉強に勤しむ。その姿のなんともまあ健気なことよ!
先ほど「隠し絵」と言ったが、実は継業の父親の馬成剛(演:瀋騰)と母親の春蘭(演:馬麗)は、西虹市の大企業を経営する大富豪。夫婦は意図的に、そして秘密裡に息子の継業に貧乏を強いたのだ。
長男の馬大俊(演:張子棟)を甘やかせて育てた結果、自分たちの後継者にはふさわしくない人間に育ってしまったという過ちを繰り返さないため、長期的な計画を策定する。馬成剛自身の貧しい生い立ちや体験をもとに「後継者育成計画」をプランニングし、継業が良識ある人間となるよう、倹約生活を送り、物欲から遠ざける。そして最終成長目標はただ一つ、清華大学か北京大学に入学すること。そのため、継業は「隠し絵」と言うか「育成計画」の中で育てられているのだ。
馬成剛は、貧しい環境で息子を「育てる」ために、多くの人的資源、物的資源、財政的資源を惜しみなく投入し、表面的には荒れ果てた集合住宅を「改装」した。実際、秘密機関が存在し、継業のあらゆる行動を監視するカメラに加えて、隣人や業者を装った秘密チームを結成させた。教育専門家の李老師(リー先生 演:薩日娜/サリナー)は、同居する祖母に扮して、常に教育的および道徳的な指導を提供していた。なるほど、妙に芝居臭いおばあさんだったもんな(笑)。
ボロッちい集合住宅内には大規模な司令センターが設置されていて、ここで継業の行動や成績がすべて管理されている。なんかもう、奇想天外を超えた、一方でアホらしい、一方で真剣な「後継者育成計画」に笑ってまうんだが、まあ、そこは娯楽映画なんで、気楽に観ればええでしょ(笑)。で、この指令センター、両親の寝室の洋服ダンスにエレベーターが隠されていて、ここから夫婦は指令センターに入って行く。めっちゃ前時代的なからくり(笑)。
継業は、物心ついた時から貧乏暮らしだったので、その環境に文句を言うことはなかったが、成長するにつれて、漠然と何かがおかしいと感じ始める。例えば、なぜ集合住宅の住民らはいつも自分を取り囲んでいるのか、など…。そりゃまあそうだろう。あの状況はどう考えても、な~んかおかしい。頭のいい継業のこと、なおさらだ。
そんなある日、継業は病気で早退した帰り道、普段は足が悪くて寝ていることが多い祖母が、近所の人たちと元気にバスケットボールをしているのを見てしまう。計画がバレてしまう瞬間であるが、そこで両親はどう対処したか…。これは笑ってしまうけど、一つ一つほころびていく発端が、計画の中心的人物の一人だった教育専門家の李老師のヘマだとは、ねぇ(笑)。
継業はいよいよ大学入試の日を迎える。前日、馬成剛は「手動バリカン」で継業をスポーツ刈りにしていたが、そういうゲン担ぎみたいなことをする親子は多いのかな?すっきりした頭になった継業だが、同時に貧乏臭くなってしまった(笑)。
他の家庭同様に、両親に見送られて試験場へ向かう継業だったが、試験場から忽然と消える。そうとは知らず、試験終了の継業を迎えるため試験場の入り口で待ち続ける両親。待てど暮らせど継業は現れない。実は…。
と、まあ、こういうことになるのであった。そりゃいつかばれるよな。仮に、この期に及んでもばれずに計画は進行していたとして、両親はどこかのタイミングで継業に計画を打ち明けただろうか? いや、打ち明けないよな。そんなことしたらすべては水の泡だもんな。それならば、こういう形で継業自身がすべてを暴いた方がよかったと言えるかな。この先の展開は、笑っちゃう場面もあるけど、継業にとっては最良とも言える進路に進むことになる。長男も大きなことをやり遂げて「どうだ!」と父親に叫ぶシーンがあって、長男の小生としては、こっちの方が実は感動的だったりする(笑)。
この映画の描く世界は、このポスターに凝縮されていると思う。「抓娃娃」という言葉はクレーンゲームをするという意味で使われるので、最初は「どういう関係が?」と思っていたが、ポスターを見る限りでは、子供を操り人形のように思いのままに育てていく、みたいな意味だったようだ。「ネタバレ」ポスターですな(笑)。
Joysideが歌う挿入歌『小小少年』、Sir Deerによるエンディング曲『我想當風』など、彭飛の音楽アレンジもよく、ストーリー自体も面白い映画だったけど、133分は長すぎる。涼しくなってきて、事前に飲み物は控えているにもかかわらず、終盤は尿意との戦いで、エンドロール半ばで席を立たざるを得なかった(笑)。
《受賞など》==================================
■第19屆中國長春電影節金鹿獎
・審査員賞:『抓娃娃』
今年の夏休み映画ということで、受賞関係はこれからということろ。
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抓娃娃|正式预告片
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そして…
再見、シネマート心斎橋!
(令和6年10月24日 シネマート心斎橋)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。