<元・奈良少年刑務所の正面。かつてあった遊園地「奈良ドリームランド」と間違えて訪れる人も少なくなかったというのもわかる佇まい phtoAC>
2年前の春…。自宅最寄り駅のポスターに(最寄り駅は近鉄電車なんで、基本的に自社広しかないww)の告知で、「近鉄電車で行く『旧奈良監獄』ツアーを開催!」ってのがあって、興味津々だったんだけど、たしかお値段が1万円近くしたもんだから、あっさり参加を見送ったのを思い出す。ちょうどその2年前、すなわち4年前に前作の『空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集』を読んでいたこともあって、余計にビビッと来るものがあったんだろう。あれから歳月も流れ、すでに奈良少年刑務所は廃庁となり、現在は星野リゾートが「監獄ホテル」としての開業を目指している。その間の経緯も本書には書かれている。
『名前で呼ばれたこともなかったから 奈良少年刑務所詩集』 寮 美千子 編
新潮文庫 ¥649
令和6年2月1日 発行
令和6年10月16日読了
※価格は令和6年10月17日時点税込
前巻の『空が青いから白をえらんだのです』同様に、奈良少年刑務所の「社会性涵養プログラム」の授業で、少年受刑者たちが発表した詩が集められている。いずれの作品も、詩としては大したものではない。中には「ほー!」という出来栄えのものもあるが「実はこれ…」といういわく付きの作品だったりもする。しかし、いずれの作品も一たび、その少年がこれまで置かれてきた背景を知れば「う~ん、そんなことが…」と唸ってしまい、「よく勇気を出して詩にしてくれたね」と言ってあげたいものばかりになる。編者による「解説」に次の一文がある。
このプログラムは当然ながら、詩の出来栄えを競い合うためのものではなく、この一文にあるように、心の鎧をはずしてもらうためにある。それぞれの詩には、その子の背景のほかに、その詩がもたらす教室の変化も付記されている。徐々に、ゆっくりではあるが、お互いがお互いを知り合うことで、教室に喜怒哀楽が生まれ行く様子がわかる。さらには「A君がそう言う気持ちはわかるけど、僕はそうは思わない。僕の場合はこうだった…」というような、ちょっとした議論も生まれていく…。なんか「理想の教育現場」みたいだけど、実際には、そう簡単にいく場合だけではなさそうで…。随所に編者の困った顔も覗く。
タイトルになっている「名前で呼ばれたこともなかったから」について。
なかなか詩が思いつかず「詩が思いつかない」「詩が思いつかない まさかのパート2」と、編者をやきもきさせていたD君が、3回目に書いた「涙」という詩の一節である。会話すらない父。名前で呼ばれたこともなかった父。警察官に「子どもを漢字一文字で例えるなら」と質問されて、白い紙に大きく書いたのが「宝」。D君はその時、おさえられない何かを感じ、数秒後にキレイな涙を流した、と…。いやもう、ガツンとやられました…。長い助走の末、心を開き、こんな綺麗な詩を書き上げたD君の気持ち、お父さんにも届いてほしいな…。
こんな具合に、ガツンと来る詩、作者の少年と共に涙を流したくなる詩、「う~ん、そうかな??」と思ってしまう詩など、色々な作品が収められている。彼らの表情や、発表された時の教室の雰囲気などが、それぞれから伝わってくる立派な「詩集」である。
[付録]の元・奈良少年刑務所の専門官お二人による「子どもを追い詰めない育て方」と題するお話は、子育てや学級運営でヒントになる事柄がいっぱいあって、一々「なるほど~」と感心しながら読み進めた。
「詩」というジャンルにまったく興味を示さなかった小生が、偶然、「まあなんと綺麗な写真」と、表紙カバーの写真に惹かれて買った前巻。そこから、奈良少年刑務所で実施されていた「社会性涵養プログラム」を知り、この建物、刑務所の沿革を知り、何より少年たちの心に触れることができ、自分の世界を広めることができたのは、大きな収穫であった。
詩を書いた少年たちに感謝である。前巻ともども、一人でも多くの人に手にしていただきたい詩集である。
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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。