【毒書の時間】『大阪・関西万博 「失敗」の本質』 松本 創(編著)

<大阪・関西万博のイメージを検索したら、こんな画像に行き当たった。まあ、これに気色の悪いイメージキャラ、メタンガス爆発なんぞがあれば、さらにええ感じになる(笑) (Photo AC)>


いやまあしかし、気運の盛り上がらない万博である。1970年の万博は小学校1年生ということもあってか、もっとわくわく感があったし、実際、行けば興奮したし、凄く楽しかった。もう、キラキラの思い出しかないのだ。すでに還暦も過ぎたのに、今でもあれほどの体験はないと思っている。どんなでっかい木造リンクを作ろうが、豪華で高価な便所を作ろうが、足元にも及ばないと思う。此度の万博は、実に不憫な万博である。現状を見る限りは「上手くいかない」と多くの人の目には映っているんじゃないだろうか。「万博」そのものには罪は無いのに、そういう目で見られてしまうという不憫さ。その背景を具にルポしたのが今回読んだ『大阪・関西万博 「失敗」の本質』。

『大阪・関西万博 「失敗」の本質』 松本 創(編著)

ちくま新書 ¥990
二〇二四年八月一〇日 第一刷発行
令和6年8月22日読了
※価格は令和6年8月25日時点税込

今も本棚に燦然と輝く赤い背表紙の『日本万国博覧会公式ガイド』。言うまでもなく、70年の大阪万博のガイドブックである。会場で実際に持ち歩いたので、汗ジミやら日焼けがひどく、さらに経年劣化で、かなりボロボロだが、一たび本を開けば、訪れたパビリオンにはスタンプやコンパニオンのサインがあり、懐かしい。中には、通りすがりの外人さんにもらったサインも(笑)。あの時代の子は、外人さんにやたら「サインプリーズ!」と言っていたもんだ(俺だけかもしれないがww)。ホンマに素晴らしい思い出、最高の体験をありがとう!と70年の大阪万博に感謝したい。

大阪万博と言えば、太陽の塔! こういうのが、今度の万博には無い。木造リンクに、このインパクトは全く感じない (2014年9月14日 筆者撮影)

さて、来年に迫った「大阪・関西万博」。

本書では、5つの視点からこの万博“失敗の本質”を明らかにしてゆく。大阪では、日々報じられてきた問題を鋭くえぐっている。この万博の大阪開催が決定した時、旗振り役が大阪維新なんで気乗りはしなかったが、「決まった以上は、大阪市民の一人として成功してほしい」と思ったが、どうも何かと問題が多すぎて、「もう、どうでもええわ」と思うようになり、今では「無理してやらんでもええんちゃう?」と思うようになった。なぜ、そうなったのか? 本書を読めば、「ああ、そうそう!」とか「それな、それアカンよな」と、なるほどと納得する“失敗の本質”がずらっと並んでいる。

1)維新「政官一体」体制が覆い隠すリスク 木下功
2)都市の孤島「夢洲」という悪夢の選択 森山高至
3)「電通・吉本」依存が招いた混乱と迷走 西岡研介
4)検証「経済効果3兆円」の実態と問題点 吉弘憲介
5)大阪の「成功体験」と「失敗の記憶」 松本創

当方、数字にはめっぽう弱いので、4)は難しかったけど(笑)、その他については、どれも響く内容となっていた。とりわけ「電通・吉本」依存に関する検証が強く響く。先の万博のガイドブックをよく見れば、あちこちに電通の名が見える。要するに電通がしっかり仕切っていたのだ。今回、東京五輪での電通の「失敗」により、しっかり仕切れる存在がなくなったことでの迷走ぶりは痛々しくさえある。

そして「成功体験」というものも、スタート時点からつきまとっている。「夢よもう一度」ではないが、成功体験のある誰かさんのほとんど「思い付き」のような発想が、失敗の始まりなのではないか。

今また、開催中はIRの工事はしないだの、聞いてないよそんな話、という新たな問題が噴出している。よくまあ、次々と問題が起きるなあと感心する。取材の中で橋爪伸也が言う。

国際条約に基づいて政府が誘致し、各国に開催を約束した国際博覧会です。来年4月になれば始まるんです。パビリオンが全部できていなくても、参加を見送る国があっても、展示に目玉がないと言われても、それが大阪・関西万博の開幕なんです。(p.240)

もはや、大阪の悲劇であり喜劇である。それを確かなことと感じさせる一冊であった。

もう一つ、検証本。併せて読むといいかも。


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