【睇戲】成功補習班


昨年の「東京国際映画祭」で上映され、割と評判の良かった作品。「劇場公開あるのかな?」と少々期待していたところ、今夏、めでたく陽の目を見ることに。何度も記してきたが<ナントカ映画祭>で上映された華語片は、あまり劇場公開されないんで、本作も諦め半分だったが、よかったよかった。小生的には、それぞれ『行動代號:孫中山(邦:コードネームは孫中山)』以来となる詹懷雲(ジャン・ファァイユン)、『共犯(邦:共犯)』以来となる巫建和(ウー・ジエンハー)が気になるところ。

成功補習班 邦題:台北アフタースクール

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

台題『成功補習班』 英題『After School』
邦題『台北アフタースクール』
公開年:2023年 製作地 台湾 言語:普通話
上映時間:118分
評価 ★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):藍正龍(ラン・ジェンロン)
編劇(脚本):王靖惇(ダニエル・ワン)、藍正龍
監製(製作):吳明憲(デニース・ウー)、曾瀚賢(ハンク・ツェン)、藍正龍

領銜主演(主演):詹懷雲(ジャン・ファァイユン)、邱以太(チウ・イータイ)、巫建和(ウー・ジエンハー)、侯彥西(ホウ・イェンシー)、林奕嵐(シャーリーズ・ラム)
主演(出演):鍾欣凌(チョン・シンリン)、嚴藝文(イェン・イーウェン)、王自強(ジョニー・ワン)、王明台(ワン・ミンタイ)、百白(パイ・チンイー)
特別出演(特別出演):陳柏霖(チェン・ボーリン)、謝欣穎(ニッキー・シエ)

《作品概略》

1994年、台北の予備校「成功補習班」に通った3人組、チャン・ジェンハン、チェン・シャン、ワン・シャンハー。イタズラ好きな彼らは、予備校で“成功三剣士”と呼ばれた問題児。卒業後それぞれの人生を送っていた3人は、入院中の恩師、シャオジー先生のお見舞いを機に久しぶりの再会を果たす。先生の言葉をきっかけにかつての予備校へ足を踏み入れると、そこに残された青春に触れ、懐かしい日々が次々と蘇ってくるのだった——。<引用:『台北アフタースクール』公式サイト

問題児三人組「成功三劍客=成功三剣士」

まあ最初に総括的なことを言っておくと、日本人にとっては「たまらん」台湾の青春物語ってところ。もちろん、天邪鬼な小生はそんなこと微塵も感じなかったんだけど(笑)。今ではLGBTQ+に最も理解のある地と言われる台湾だが、この時代の台湾って、性的サービスを売りにする「散髪屋」が大通りで堂々と商売していたんだから、あまり浪漫主義に走らない方がいいよ(笑)。

成功補習班のレセプション。このPCのタイプが時代ですねぇ…

ところで、タイトルの『成功補習班』。検索したら、同名の塾やら予備校がいっぱい出てくる。それだけ塾、予備校としては典型的な校名なのかもしれない。まあわかるよな、「成功」やもんね。

本作の成功補習班があった台北の南陽街は、台北火車站の南側一帯で、実際に予備校や塾が林立するエリア。最近はどうなんか知らない。一角のとある小さな編集プロダクションへ打ち合わせに行った記憶がある。90年代も終わりの頃だったから、この作品が描く時代の少し後くらい。

すっかり大人になった成功三劍客だが、数年でこんなにも別人にはならんと思うのだが…。大いなる疑問ではあった

成功三劍客が予備校時代の恩師、劉先生(演:侯彥西/ホウ・イェンシー)を見舞うシーンから始まる。元来俳優で今作の監督でもある藍正龍(ラン・ジェンロン)演じる張正恆(チャン・ジェンハン)、陳柏霖(チェン・ボーリン)演じる程翔(チェン・シャン)、そして謝欣穎(ニッキー・シエ)演じる王尚禾(ワン・シャンハー)の3人。すっかり大人になった3人、王尚禾は性転換して女性になっている…。シーンはいつの間にかかつての「成功補習班」に…。

主任(校長)席に爆竹を仕掛ける成功三劍客

予備校時代の成功三劍客は、張正恆を詹懷雲(ジャン・ファァイユン)、程翔を邱以太(チウ・イータイ)、王尚禾を巫建和(ウー・ジエンハー)がそれぞれ演じる。詹懷雲と巫建和は小生的にはホント久し振り。邱以太(チウ・イータイ)は初めてだが、小生が見逃した『下半場(邦:運命のマッチアップ)』に出てたのね…。3人の中では巫建和が年齢も芸歴も一番上だけど、一番おどおどした役どころだったのは、父親(演:王自強/ジョニー・ワン)が成功補習班の主任(校長みたいなもんか?)だからだろう。この3人に前髪パッツンの女子、陳思(演:林奕嵐/シャーリーズ・ラム)も加わっての青春ストーリー。

張正恆は陳思が好きで、陳思は王尚禾のことが好き。でも王尚禾は女性は恋愛対象でなく「なりたい」対象。で、程翔は…。と入り組んでいる(笑)。そこへ現れたのが新任の英語講師、劉先生。

いきなり受付嬢へのいたずら電話をオネエ言葉で撃退する劉先生。電話の主は…(笑)

この作品は、監督の藍正龍が通った塾の英語教師で、彼の恩師でもあり、後にドキュメンタリー監督として活躍する陳俊志(ミッキー・チェン 1967~2018)との思い出をベースとしている。陳俊志は藍正龍に英語だけでなく、LGBTQ+の世界のことや、「LOVE is LOVE」の意味を教えてくれたという。

陳俊志は映画監督、作家に加え、性的マイノリティの人権活動家としても大きな足跡を残している。彼の監督作品は「同志三部曲」と呼ばれる同性愛者のライフストーリーに焦点を当てたものなど、台湾の同性愛者運動の歴史においても非常に重要な作品が多い。演じた侯彥西は役どころをよく理解して、いい演技を見せていたと思う。映画デビューは『那些年,我們一起追的女孩(邦:あの頃、君を追いかけた)』だから、そろそろ中堅からベテランへという段階だ。

劉先生の愛についての講義に感銘を受けた張正恆と程翔。夜の浜辺へ三人で出かける。流れる曲は張國榮(レスリー・チャン)の『MONICA』。しばらく脳内エンドレスで困ったよww

「気になる作品」と言っておきながら、いざ観てみると、さほど心動かされる作品ではなかった、というのが正直なところ。Xなんぞではやたら称賛の嵐だったが、台湾の評判なんかを覗いてみたら、称賛どころか酷評がいっぱいあって、「へ~」ってな感じだ。とりあえずは、役者について記してゆきましょうか。

本作のアイコン的シーンやな。「エロビデオのモザイクが消える」という特殊なメガネをかけて、カップ麺食いながらエロビデをを観ていた張正恆。「うぉ~~!」ってなった瞬間に、熱々のカップ麺を股間にこぼしてしまうという「大惨事」に(笑)。両親やこの家にある事情から預かられている友人の程翔の呆れた視線が投げかけられる。演じた詹懷雲は『行動代號:孫中山』以来だが、16歳だったあの頃の素人っぽさが抜け、俳優として成長してるなという印象。彼も今作では前髪パッツンだが、その分、ちょっとイモっぽくなったという印象も。

事情があって預かられている友人の程翔とは、当然寝食を共にする。毎晩のように二人はふざけ合い、語り合う。張正恆は陳思に思いを馳せるが、程翔は一緒に生活するうちに張正恆に男友達以上の感情を抱く…。程翔を演じた邱以太(チウ・イータイ)は、『下半場(邦:運命のマッチアップ)』に続いてこれが二作目の長編映画出演。二作目にして主役級に抜擢。期待の大きさがうかがわれる。これから何度となく目にするであろう「台湾的イケメン」の若手俳優の一人である。

いくら寝食を共にと言っても、若い男子が一つのベッドで寝てるのはおかしいやろ、それも裸でww そりゃ、友達以上の感情が芽生えても不思議じゃないなw
二人の通学シーンが青春どすなぁ~。高校は電車通学だった小生は憧れるねww

そしてこちらは、和尚こと王尚禾を演じた巫建和(ウー・ジエンハー)。『共犯』以来だが、それよりも『小孩(邦:The Kids)』が演技も作品も印象深い。日本での公開作品があまりにも少なすぎるが、非常にいい俳優なんで、これからも注目していきたい。で、この和尚くん、成功三劍客の一人なんだが、彼自身は内向的でいつもおどおどしている。どういうわけか張正恆と程翔のいたずらに巻き込まれている。父親は成功補習班の主任だから家庭のしつけも厳しい。ある日、陳思が家に来て「女装」という彼の望みを叶えてやるのだが、その現場を父親に見つかってしまう。烈火のごとく怒りまくる父親だが、それを身を挺してかばうのが母親(演:鍾欣凌/チョン・シンリン)。

もうねえ、まさに「The母親」って感じでいいすねぇ。『我的少女時代(邦:私の少女時代-OUR TIMES-)』でも主人公のお母さん役だった。陳思を演じた林奕嵐(シャーリーズ・ラム)は、これが初めての映画出演。これから色々と見かけるのだと思う。前髪パッツンでない彼女を見たいもんだ(笑)。

ゲイコミュニティーのドキュメント映像を撮っている劉先生に同行し、ゲイバーなる場所を「初体験」した張正恆と程翔だが、ここで事件勃発! 程翔は「ほんの冗談」と言うが、いやいや、思いが極まったんだろう。張正恆に熱い口づけ。これは大変なことですよ~、と思っていたら、案の定、ゲイバーの外でとっつかみ合いとなり、警察沙汰に発展してしまう…。

これがきっかけで、程翔は放り出されてしまい、実家にひとまず戻る。さっき「事情があって預かられている」と記したけど、ここで事情がなんとなく明らかになる。実家の外ではダウン症の弟が程翔に言う。「ここに戻って来るな」と。家の中では彼らの両親らしき男女の諍いの声が…。そういう環境を見かねて、張正恆の父親が引き取ったんだろう。なんか切ないシーンだった。

この弟を演じたのは、蔡佳宏(レオ・ツァン)という俳優で、藍正龍の監督デビュー作『傻傻愛你,傻傻愛我(日本未公開)』に主役級で出演している。

最終的には、この二人は「友情以上恋愛未満」の関係を続けていこうぜ!となるんだが、それでも程翔は愛情が勝っているような雰囲気ありあり…。張正恆と陳思の結婚式で、張正恆を優しく介添えする程翔が、やっぱり切ない。陳思が警官になってるのは、「ああ、なるほどね」と思ったけど(笑)。そして陳思の姉妹團には、女装した和尚くんも。彼はこの後、性転換することになる。

青春コメディに実話をベースとした、台湾のLGBTQ+前夜のストーリーも織り交ぜた作品に仕上がっていたが、いまひとつ心が動されなかったのはなぜだろう。絶賛の嵐なのに、おかしいねぇ(笑)。

台湾の制服って、校名だけでなく生徒の名前も胸ポケに刺繍されてるよね。学校帰りなんぞに悪いことできまへんな(笑)。しかし、こんなにたくさん塾生いたか??

エンディングは、レスリーの『MONICA』に乗せて、総踊りの様相となり、ストーリーとは関係なく、ご陽気に幕となる。これも一見楽しげなんだが、終わり方の処置に困った挙句に、って感じがしないでもない。まあ、ええか。

♪Thanks thanks thanks thanks Monica
誰能代替你地位~

が頭の中で繰り返すのよ(笑)

【成功補習班】正式預告

(令和6年8月14日 シネマート心斎橋)

大人になった程翔を演じた陳柏霖(チェン・ボーリン)のデビュー作『藍色夏恋』。台湾映画の入門編としていかがでしょうか?


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