【睇戲】无名 / 無名

梁朝偉(トニー・レオン)の圧倒的存在感は、今更説明するまでもないが、今作で共演した王一博(ワン・イーボー)の存在感も見逃せない。すでに日本にも熱狂的なファンがたくさんいるようで、グッズ売り切れの上映館が続出>


この作品もまた、近場で上映されている期間に観に行くことができず、そういう人間に手を差し延べてくれる心優しき塚口サンサン劇場にお世話になった(笑)。ほんとありがたい映画館である。

无名 邦題:無名

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

中題(簡体)『无名』(繁体)『無名』
英題『Hidden Blade』 邦題『無名』
公開年:2023年 製作地 中国
言語:普通話、上海語、広東語、日本語
上映時間:131分
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演、編劇 (監督、脚本):程耳(チェン・アル)
總製片人、監製(製作総指揮 、製作):于冬(ユー・ドン)
攝影(撮影):蔡濤(ツァイ・タオ)、廖擬(リャオ・ニー)
剪接(編集):程耳

領銜主演(主演):梁朝偉(トニー・レオン)、王一博(ワン・イーボー)
特別出演(特別出演):周迅(ジョウ・シュン)、黃磊(ホアン・レイ)
主演(出演):森博之、大鵬(ダー・ポン)、王傳君(エリック・ワン)、江疏影(ジャン・シューイン)、張婧儀(チャン・ジンイー)

《作品概略》

1941年、上海。汪兆銘政権の諜報員フー(梁朝偉)と部下のイエ(王一博)は、日中戦争勝利に向け、日々諜報活動に明け暮れていた。第二次世界大戦が激化する中、フーは、任務に失敗して処刑されるはずだった国民党の女スパイ(江疏影)を密かに助けたことで、代わりに上海に住む日本人要人リストを手に入れることに成功。また、イエにはファン(チャン・ジンイー)という婚約者がいて…<引用:「無名」公式サイト

一言で言うと「おしゃれな映画」。登場人物すべてが非常にスタイリッシュ。映画のトーンも抑え気味で、大人の映画という感じ。それだけに、こねくり回したストーリー展開にちょっと「無駄」を感じもしたが…。監督は『羅曼蒂克消亡史(邦:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海)』の程耳(チェン・アル)。昨年の春節映画の目玉作品でもある。

CGを駆使した当時の上海の街並再現など、細部にわたって時代考証が行き届いた作品だった。ただ、後述するが芸者さんが…

1941年とあるから、第一次近衛声明国民政府を対手とせず」に始まる3回の近衛声明から3年後くらいかな。大戦下、抗日戦争を戦っていた国民党だが、蒋介石の「容共抗日」路線と汪兆銘の「反共親日」路線の対立があり、その中でうごめく諜報員、すなわちスパイも多くいた。まさにこの作品が描くような奴らが蠢いていたのだろう。

汪兆銘 ©關鍵評論

主人公二人が諜報員という「建前」になっている汪兆銘政権について、あらかじめ知識があったほうがこの作品をより深く堪能できるのは言うまでもないが、知らなくても問題はないと思われる。「スパイ映画」としてお楽しみになればいい。その汪兆銘だが、汪兆銘と聞いてパッと頭に浮かぶのが「君は安易な道を行け、我は苦難の道を行く」だろうな。この名言?なんてのは、まさに蒋介石との決裂を象徴している。反日気運がヒートアップする中、案の定、汪兆銘は漢奸、売国奴と汚名を着せられる。汪兆銘自身については、この辺で止めておく。何よりも、この作品に汪兆銘は登場しない。

汪兆銘政権政治保衛部主任の何(フー)を演じた梁朝偉(トニー・レオン)。眼神だの電眼だのと称される、男ですらころっといかれるあの眼差しは、還暦を過ぎても健在で、最初からこの電眼で場面を支配する。普通話が苦手な梁朝偉だが、今作では若干の広東訛りもあるものの、すらすらと普通話をしゃべっていてびっくり。やればできる!(笑)

黃磊(ホアン・レイ)にはもう少し出番がほしかったところ

とあるホテルに赴き、張(演:黃磊/ホアン・レイ)を訪ねる何。めっちゃ緊張している張とあくまで微笑み穏やかに話す何の態度、表情の強烈なコントラスト。共産党員だが何の組織へ鞍替えを希望している張は、現在、陳という女性のもに5年間、身を潜めている…。陳小姐とは何者なのか…。そしてこの後の張の運命は…。と、それだけでも、面白そうな映画が撮れそうなのに、これはほんの序の口の伏線だから、さあこれからが大変(笑)。

そして何の部下の葉(イエ)。実態は日本軍の工作員。演じたのは王一博(ワン・イーボー)。 中韓混成男性アイドルグループ、UNIQのメンバーでメインダンサー、リードラッパーを担当。2014年9月15日に男性アイドルグループUNIQのメンバーとしてデビュー後、19年放送のドラマ『陳情令』 で主演の一人を務めたことでブレイク。今作が映画初出演にして主演。大抜擢だけど、なるほど納得の演技の連続で、大物感を醸し出していた。引き続いて。夏と秋に主演作が日本公開予定なので、注目したい。

この葉、日本軍人の渡部(演:森博之)に気に入られている。葉は日本語も流暢に話す。中国映画ながら、渡部登場シーンも多いことから日本語会話で進むパートも割と長いんだが、残念なことにこの日本語が上手く聞き取れない。恐らく、小生の補聴器がその帯域への反応が鈍かったからだろうけど…。渡部が語る日本語パートは、単なるセリフではなく、戦局を語ることで時代背景を解説する役目も果たしていたので、ここが聞き取りにくかったのは、辛い…。その渡部と会話するシーンが一番多かった葉を演じた王一博は、撮影にあたって、日本語を必死で覚えたらしい。おまけの「メイキング映像」で、合間に森博之に日本語を教わるシーンがあったが、その健気なことよ!

葉、渡部に何も交えて、上海の料亭で密談のシーンが何度もあり、そこで芸者さんが酌をしたり舞踊を披露するんだが、「ナマ足」ニョキーなのには失笑を禁じ得なかった。

「楽しい曲はないんか!」と渡辺に怒鳴られ、「はい~」と一旦離れる芸者さんたちは、見事にナマ足だったww

で、この渡部がどうにも楽観主義者で、甚だ心配になる。満州へのあこがれと言うか、野望と言うか、希望と言うか…。そういうのが非常に強い軍人。挙句の果てに、葉に満州の関東軍配置図なんかを見せちゃったりするんだから、「銃後の民」の立場としてはたっまたもんじゃない。まあ、自称「石原派」だから満州への思いが強く、反東条英機という立場だからねぇ…。

女優陣もよかった。何の妻、チェン(陳小姐)の周迅(ジョウ・シュン)。梁朝偉との共演は『赫马赫马:我等待你为我唱的那首歌(邦=ヘマヘマ:待っている時に歌を)』以来か。あれは不思議な映画でした(笑)。

この陳小姐、最初に出てきた張とは衡山路で5年間同居しているのだが、張は何に会ったことで一刻も早く上海を離れたかったのだろう、一緒に故郷の広西に行こうと言い出す。そしてついに陳小姐は「実は…」と張にとっては衝撃的な告白…。そういえば、「あれ」は伏線だったか、って場面が最初にあったね…。

張婧儀(チャン・ジンイー)が演じたファン(方小姐)は葉のフィアンセで、ガチガチの共産主義者。運命とはこういうものか。方や共産党工作員、方や汪兆銘政権工作員に身を扮した日本の工作員。葉は方小姐に別れを切り出すことに。この関係さえも、「二人は本当に愛し合っていたのか?」と思えるほど、何から何まで疑心暗鬼に陥る。

終盤になって、クライマックスは、終盤に怒涛の如く重ねられていく。「どのシーンをクライマックスとするか」。これは、人によって感じる場面は違うと思うけど、やっぱり一番は何と葉のバトルファイトだろうな。やっぱり、そうなるよな、と思うけど、どうかな?

アクションシーンでの王一博の頑張りを収録したメイキング映像は、エンドロールが終わった後に流されるので、香港人みたいにエンドロール前に退場したらあきませんよ(笑)。それにしても、どこまでも優しく気遣いの梁朝偉と、熱心に学ぶ姿勢に好感が持てる王一博である。

小生的には、終戦を迎え、戦犯として連行される渡部と葉が、釈放された何をトラックの上から挑発するシーンがゾゾっときた。

そして拘置所内での出来事。あれは印象深い。特に、事を終えて、煙草を一服する葉の横顔は印象深い。って、チョイ待てよ…。そう言えばだな、あの葉の表情って、冒頭のシーンではなかったかぇ?。こういう「からくり」が随所に仕掛けられていて、それまあ、「上手いな!」と言うものの、せっかちな小生なんぞは「いっぺんにやってくれ!」と思わないでもない(笑)。

きっとこの世代の子、たばこは吸わないんだろうな。とすれば、がんばったな、王一博!

脇役二人も手堅い演技で印象付けた。

王隊長と呼ばれていた、葉の上司を演じた王傳君(エリック・ワン)。葉のフィアンセである何に気があり、ある日、思いを告白するが…。両親は餐廳を営む。戦後、家族は香港へ逃れ、やはり餐廳を営んでいた。やはり香港で活路を見出そうとする何が訪れる。母が「息子は上海で頑張っているんです」と語るシーンも印象深い。息子の末路を知らない家族が痛ましい…。

政治保衛部の部長でフーの従弟、タン(唐部長)は大鵬(ダー・ポン)が演じる。大鵬は王一博の新作映画『熱烈』の監督でもある。共産党工作員のジャン(江小姐)に命を狙わるも、逮捕された江小姐を何は逃し、代わりに上海在住日本人要人リストを江小姐から手に入れる。

その江小姐を演じたのは、江疏影(ジャン・シューイン)。「初めまして」と思っていら、かつて小生がボロクソに酷評した『冰封俠:時空行者(邦=アイスマン 宇宙最速の戦士)』に出演していた。何の役だったかは記憶にない(笑)。

まだまだ色々あって、書き尽くせないのだが、この辺で止めておく。もっと上手く短くまとめている人、いくらでもいてるので、そっちを見てください(笑)。小生としても、再確認しておきたいシーンも山ほどあるわけで。そう遠くない将来には、恐らく映像ソフトも発売されると思うし、国内でのネット配信も解禁になると思うので、もう一度、じっくり鑑賞したいと思う。一つ言えるのは、王一博という、未来の宝石を予感させる俳優に出会えたのは大きい。彼にとっても、忘れえぬ一作となったはずだ。

↑↑「予告」と言うには、「ちょっとこれないわ~」な映像だけど、香港で披露された予告を貼っておく。

《受賞など》==================================

■第18屆中國長春電影節金鹿獎
3部門にノミネート

■第36屆中國電影金雞獎
・最優秀監督賞:程耳
・最優秀主演男優賞:梁朝偉
・最優秀編集賞:程耳
他5部門にノミネート

■第十五屆澳門國際電影節
・最優秀作品賞:『無名』
・最優秀監督賞:程耳
他8部門にノミネート

■第17屆亞洲電影大獎
1部門にノミネート

■中國電影導演協會2020年至2023年度表彰大會
3部門にノミネート

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(令和6年6月25日 塚口サンサン劇場)

最近、お世話になりっぱなしの塚口サンサン劇場のこれまでの足取りや、ファンを引き付ける様々な取り組みが紹介されている本。読めば、必ず行きたくなるはず!

 


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