<「香港の看板」と言えば、佐敦(Jordan)の裕華の交差点あたりが最も華やかだった。夜総会やカラオケなど「おねーちゃん関係」の店の看板が多かったけど。屋根なしの二階建てバスで、看板の下を行くツアーが人気だったが、そのツアーこそ「燈火闌珊」状態やね (AM730)>
「来年はいっぱい映画見るぞ!」と息巻いた年末の《今年観た映画》の稿だが、いきなり出遅れているではないかえ(笑)。最初の映画が1月の末とは、どういうことや(笑)。土日はもちろん、正月休みは何してたんや、というところだが、まあねぇ、色々とありますわな(笑)。というわけで、今年も大して中身のない映画鑑賞記が始まりまする。
燈火闌珊 邦題:燈火 (ネオン) は消えず
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
港題『燈火闌珊』
英題『A Light Never Goes Out』
邦題『燈火 (ネオン) は消えず』
公開年 2022年 製作地 香港
言語:広東語
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):曾憲寧(アナスタシア・ツァン)
監制(プロデューサー): 陳心遙(サヴィル・チャン)
編劇(脚本):曾憲寧、蔡素文(チョイ・ソーマン)
配樂(音楽):黃艾倫(アラン・ウォン)、翁瑋盈(ジャネット・ユン)
攝影(撮影監督): 梁銘佳(リョン・ミンカイ)
剪接(編集):陳序慶(ノーズ・チャン)
領銜主演(主演):張艾嘉(シルヴィア・チャン)、任達華(サイモン・ヤム)、周漢寧(ヘニック・チャウ)、蔡思韵(セシリア・チョイ)
主演(出演):郭爾君(アルマ・クオック)、唐浩然(ジャッキー・トン)、麥秋成(マーベリック・マック)、袁富華(ベン・ユェン)
友情客串(友情ゲスト出演):龔慈恩(ミミ・クン)、梁雍婷(レイチェル・リョン)、陳圖安(ジャッキー・トン)
《作品概要》
腕ききのネオン職人だった夫ビルが亡くなった。古き佳き時代のガラス管のネオンを愛した夫。妻メイヒョンは後悔していた。 かつてSARSが香港を襲ったとき、夫にネオンの仕事を廃業させたことを。ある日メイヒョンは、「ビルのネオン工房」と書かれた鍵を見つける。 もう10年前に廃業したはずなのに。 昔の工房へ行ってみると、そこには見知らぬ青年がいた…… <引用:『燈火 (ネオン) は消えず』公式サイト>
タイトルの『燈火阑珊』は、まさに「灯火が尽きようとしている」という意味。だから第35回東京国際映画祭で上映された時の『消えゆく燈火』という邦題が、直訳として正解で、ロードショーにあたって改題された『燈火 (ネオン) は消えず』というのは、真逆の意味となる。ま、そこは昨今の潮流としての「香港映画の灯は消えてないぞ!」だの「香港は負けないぞ!」な流れに沿っての改題ということだろう。知らんけど(笑)。英題は「消えず」になってるから、どっちでもええちゅうことか(笑)。
子の映画もまた、例の「首部劇情電影計劃(First Feature Film Initiative)」の支援を受けた作品。このプログラムで支援される作品の殆どが、日本で何らかの形で上映されている。確かに良作ぞろいではあるよな。
大体、予想はついてたけど、ストーリーとしては、大して面白くもなんともない。
もっとも、香港に一度も行ったことないのに「道路まで突き出た看板が煌めいていた頃の香港が懐かしいです!」なんて言っちゃう人たちにとっては、最高の映画だったかもしれないね(笑)。小生の大型看板やネオン式の看板に対する見解は、以前記した通り。(【香港!HONG KONG! Feb.2023】香港看板考察)「あんな危なっかしいもの、とっとと無くしてしまえばええのに!」という考えの香港居民だったから、香港の看板には何の郷愁も抱かない。茶餐廳チェーンの「翠華餐廳」の巨大ネオンが撤去される実際の映像が流れたが、「そりゃこんな大きいの、外さなあかんわな、危険や!」と思ったくらいだ(笑)。
なので、この映画も面白くもなんともない。「じゃ、なんで観たんだよ!」と言われれば、それはもうひとえに、「大好きな張艾嘉(シルヴィア・チャン)が出てるから」。そこに尽きるのであります。本作での演技が評価され、金馬獎で最優秀主演女優賞に輝いたのは、まことに喜ばしい。
その張艾嘉、旦那を喪った悲しみから、なかなか脱することができないる年配の美香というおばちゃん役。ま、彼女も年輪を重ねたというわけですな、こういう役がピタッとはまっているのだから。そうなると回想シーンが苦しい。旦那のBill役の任達華(サイモン・ヤム)とて同じこと。そこで結婚する前の二人を若い俳優に任せた。郭爾君(アルマ・クオック)、唐浩然(ジャッキー・トン)。顔、ツヤツヤですな(笑)。二人とも初めて見るな~、なんて思ってたら唐浩然は『深宵閃避球(邦:深夜のドッジボール)に出てたようだ。ごめん、知らんかったわ(笑)。
このおばちゃんを本気にさせた要因はいくつかあったけど、自称「Billの弟子」のLeoの存在も大きかったと思う。その出会いは、彼がBillの工房で自殺を図るところに、偶然、工房の整理に美香が訪れた、というシーン。実は美香はその時、まさか彼が自殺寸前だったとは知らず…。Leoは美香に「師匠はやり残した仕事があると言っていた」と言い、そのためにも工房は継続させなければならないと力説し、クラウドファンディングによる資金集めを提案。美香もかつてBillに教わったネオン管作りを思い出しながら、Leoとともにネオン管作りを始める。
Leo役の周漢寧(ヘニック・チャウ)、なかなかいい味わいのある役者。Viu TVのドラマ『教束』がデビュー作。映画は初めてかと思いきや、これまた『深宵閃避球』に出てるらしい(笑)。彼の役どころは、美香と亡きBillをつなぐ役で、演じる本人もそれをよくわきまえていたのか、主演の張艾嘉と双璧の存在感を示していたのは、瞠目に値する。
一方で、小生は実は、こっちの話の方が美香のストーリーのメーンじゃないかと思うんだが、娘の彩虹(演:蔡思韵/セシリア・チョイ)との関係がしっくりこない。母の知らないところで、フィアンセとのオーストラリア移住を決めていたことに母の心は乱れる…。娘は娘で、SARS禍の折に、母がネオンの受注が激減する中で、父親にタクシー運転手への転職を勧めたことへのわだかまりがある。母と娘の間には、大きな溝があるのだ。ネオンの煌めきの後ろにある、母と娘の不和、苦い物語というものだろう。
蔡思韵は『盜命師(邦:盗命師)』『返校(邦:返校 言葉が消えた日)』『濁水漂流(邦:香港の流れ者たち)』と、これまで見てきたが、今回も役者としての幅の広さを印象付ける。次回作ではどんな顔を見せてくれるか楽しみな一人である。
母と娘の物語が、割とわかりやすいのに、肝心の妻と亡き夫の物語が、ちょいと不完全燃焼に感じた。そんな中で印象に残ったのは、若き日の二人が「白花油」のネオンに腰かけて語り合うシーン。あのネオンは、昔はあちこちで見かけたものだが、今となってはねぇ…。
それともう一つ。Billが美香の髪を染めてあげるシーン「共に白髪の生えるまで」と、Billが美香にやさしく語り掛ける。小生的には、今作、最高の画だと思う。
ネオン管がどうやって作られてゆくのか。我々香港市民は、いつも身近に見てきたネオンなのに、意外とその過程を知らない。作中では、ネオン管そのものの成形はもちろんのこと、スケッチ、書体、色の選定など多岐にわたる作成の過程が描かれている。広告代理店が介在するケースも多いと思うが、本作ではそこは描かれず、あくまで「職人の技」を紹介する。これは貴重なドキュメントでもある。本作がデビュー作となる監督の曾憲寧(アナスタシア・ツァン)は、いい映像を残した。
ラストは「まあ、こうなるよな」という展開だが、恐らくネオン管職人はこの先、「こんな風に生き残っていくのかな」ということも感じさせる。広告宣伝媒体としてのネオンサインではなく、美術品としてのネオンサイン…。もひとつ、ラストで感じたのは「この母娘の関係も少しずつ、いい方向にむかうんだろうな」ということ。この場面に至るまでに娘とフィアンセは、何かと労を取ったのがわかる。
エンドロールで、数人のネオン管職人が紹介された。彼らもまた、香港の歴史を彩ってきた人たちであるということを印象付ける、いい終わり方だった。
《受賞など》
■第59屆金馬獎
・最優秀主演女優賞:張艾嘉(シルヴィア・チャン)
他1部門でノミネート
■第29屆香港電影評論學會大獎
1部門でノミネート
■第16屆亞洲電影大獎
1部門でノミネート
■2022年度香港電影編劇家協會大獎
1部門でノミネート
■第41屆香港電影金像獎
2部門でノミネート
電影《燈火闌珊》正式預告片
(令和6年1月27日 シネ・リーブル梅田)
←香港の看板好きな人におすすめの一品!
『香港 G.O.D.香港限定 ドアマット ネオン柄』
(amazon.co.jp)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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