【毒書の時間】『越境』 東山彰良

<この道の先、数キロほどで中国・ラオスの国境という辺境の地。2003年3月、1週間休みをとって5年ぶりに雲南省西双版納(シーサンバンナ)の村々を訪ね歩いた。しばし香港を離れ大陸奥地にまで来ると、本当に「越境」したと実感する。そして、この旅を終え香港へ戻るや否や、SARSの感染が一気に爆発した… (筆者撮影 西双版納・勐龍鎮)>


遅ればせながら、新年快樂!

本年も、たま~にでよろしいですので、お立ち寄りいただければ幸いに存じます!

というわけで、今年の一発目は《毒書の時間》から。いつの間にやら、読書ブログになってしまってますが、ちょいちょい香港ネタや文楽、歌舞伎ネタ、映画ネタも挟んでますよ、見逃してませんか~?

東山彰良が『越境』というタイトルで、エッセイ集を出した。わりとよく読んでいる作家だが、エッセイは初めて。台湾生まれ、日本育ち、その後も両地を行ったり来たりという作者。まさに越境の人生を送ってきたわけだが、それだけを綴った一冊ではなさそうだ。年末から読み始めたこの本。年末年始の、本を読むという雰囲気ではない日々にあって、さらに元日から北陸の大地震、2日の羽田の航空機事故と落ち着かないことが続き、本読みどころではなかった。そんなこともあって、読み終わるまでに結構時間がかかったなぁ…。

『越境』 東山彰良

集英社文庫 ¥770
2023年10月25日 第1刷
読了日:令和6年1月9日
*価格は1月9日時点税込

今でも目にするが、小生が小学生のころは「越境入学」とか「越境通学」は普通にあった。近隣の評判のいい小学校・中学校へ校区外から入学、通学するというもの。「しない、させない越境入学」と大書した啓発ポスターをよく目にしたものだ。実際、小生の出身小学校へ「越境」していた児童は、そこそこいたと思う。数年前、隣の区の三つ四つ年上のお姐さんは「私らの近所でもLeslieさんの小学校へ通ってた子、かなりいましたよ」と話していたほどだから。

前置きが長くなったが、タイトルを見て、すぐさま「越境入学」のことを思い出してしまった(笑)。本書はもちろん「越境入学」をルポした本ではなく、東山彰良の経験や日常などから様々な「越境」を綴ったエッセイ集である。一冊の大半が「西日本新聞」での連載だったためか、一つのエピソードが頃合いのええ長さになっており、読みやすい。

「両親は中国人、台湾生まれ、日本育ち、その後も両地を行ったり来たり」という著者の生い立ちそのものが、まず「越境」と呼ぶにふさわしいのだが、それだけが語られているわけではない。「なるほど言われてみれば、これも『越境』と言えるな」というエピソードも多々あって、多角的に「越境」というものを筆者特有の飄々としたタッチで語っていて面白し。

福岡在住の著者らしく、その著作には度々「ホークス」の4文字を見かける。本書にも「ホークス」ネタがある。当時のヤフオクドーム(現・Pay Payドーム)で開催されたオールスターゲームを息子さんと観戦した時の息子さんの発言が、小生的にはツボだった。「ギータは中洲でめっちゃ遊んどって球団に怒られとるらしいよ」(笑)。全然「越境」なネタではないけど(笑)。この辺は「西日本新聞」に連載していた文章だからだろうが、こういう話題を福岡県民は微笑ましく思うのだろう、きっと。「柳田もそういう時代があったよなぁ…」と、あの頃を思い出す…。

これもまた「越境」に通じるような話題ではなかったが、「台湾新電影論」と題する一節がよかった。小生もかねがね感じていたこと「台湾新電影(台湾ニューシネマ)のテンポの悪さやストーリーの単調さ」を指摘していて、思わず「同志!」と声を張り上げたい気分になった。いや~、ホントそれよ。世間は崇め奉るけど、「もうちょっと手短に、シャキシャキと進めてもらえんかね?」と思うこともしばしば。東山くんはそんな台湾ニューシネマの価値を見出すべく、筆を進めている。最後はちょっと強引に「台湾新電影」の存在意義を挙げているところがなんとも、好ましい。

「コロナ禍にて 読書と猫」という章では、こんな本を読んだ、あんな本が面白いなど、いくつかの作品が紹介されていたが…。う~ん、ほとんど読まないだろうな(笑)。そんな中で唯一、余華の二作品『兄弟』と『活きる』について綴られた一文だけは、自分が読んだ作品を凡そ小生と同じような感覚で論じていたので、これはまたもや「同志!」と叫びたい気持ちにさせてくれた。気が合うねぇ、東山くん!

リービ英雄金原ひとみとの対談2篇も中身が濃いものだった。どちらかと言えば本文よりも、この二つの対談に「越境」の匂いがプンプン漂っていた。

あまりエッセイというジャンルを手にしないのだが、こんな具合に一冊に数か所でも、著者の思いと自分の思いが合致する箇所があれば、「俺も満更ではないな」って気にさせてくれるもんだ。そういうところがいいのかなぁ、エッセイ集ってのは…。知らんけど(笑)。

東山彰良と言えば、やっぱりこれかな。ぜひともお読みいただきたい!

 


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