ちょうど『シン・仮面ライダー』の公開初日。これ目当ての人で梅田ブルク7は大賑わい。ちなみに、梅田ブルク7は、4月1日より「T・ジョイ梅田」に名称が変わる。この2日間は、小生にとってはひとまず「最後の梅田ブルク7」になる。
さて、本日の二本目は香港映画『窄路微塵』。邦題も同じく『窄路微塵』だが後ろに、わざわざ(きょうろみじん)とかな書きが入っている。「さくろみじん」ではなく、あえて「きょうろ」としたのは、「狭い」という意味を出したかったからだろう。なんせ英題が『The Narrow Road』だから。配給も早々に付いているが、実際に一般上映となった場合、どういうタイトルになるのか、ちょいと興味のあるところ。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
コンペティション部門
窄路微塵 邦題:窄路微塵(きょうろみじん) <日本プレミア上映>
港題『窄路微塵』 英題『The Narrow Road』
邦題『窄路微塵(きょうろみじん)』
公開年 2022年 製作地 香港 言語:広東語
評価:★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):林森(ラム・サム)
編劇(脚本):鍾柱鋒(フィーン・チョン)
監製(プロデューサー):文佩卿(マン・プイヒン)
配樂(音楽):黃衍仁(ウォン・ヒンヤン)
摄影指導(撮影監督):張宇翰(流星)
領銜主演(主演):張繼聰(ルイス・チョン)、袁澧林(アンジェラ・ユン)
主演(出演):區嘉雯(パトラ・アウ)、朱栢康(ジュー・パクホン)、朱栢謙(チュ・パクヒン)、董安娜(アンナ・トン)
《作品概要》
停滞する経済や人口流出により厳しい状況にある香港に、新型コロナウイルスの流行が襲いかかる。清掃会社を経営するチャク(ルイス・チョン)は、仕事が減り、消毒液が不足するなか、会社の維持に苦労している。盗みを働いて生きのびてきたシングルマザーのキャンディ(アンジェラ・ユン)は、娘のためにまともな金を稼ごうと、チャクの下で仕事をするようになる。二人は徐々に絆を深め、会社を軌道に乗せていくが、キャンディのかつての悪習がすべてを危うくする。<引用:大阪アジアン映画祭2023 作品紹介ページ>
日本で話題となった『少年(邦:少年たちの時代革命)』で任侠(レックス・レン)と共同監督を務めた林森(ラム・サム)の長編デビュー作。各国・地域の様々なコンペティションで高評価を得ているこの作品が、香港で公開される見込みは、まずない。しかし、本作『窄路微塵』は、COVID-19の感染拡大のさ中における香港の人たちの生活をテーマにしており、「香港亜洲電影節(香港アジア映画祭)」で香港の観客向けに上映された。
そもそも、脚本は2018年から立案されていたが、撮影開始と時同じくして、世界的な感染拡大が始まったため、COVID-19感染拡大下の香港を描くような形になったと言う。それだけに、香港人の心に訴えるものがあると思うのだが、昨年末にスタートした一般上映は、実際のところ興行成績はさっぱりだったようだ。まあなあ、一般大衆を引き付けるスターが出ているわけでなく、地味に淡々と進む物語なんで、こうなるよな…。しかしながら、昨年の台湾の「金馬獎」をはじめ、今年の「香港電影金像獎」などで非常に高い評価を得ている。通好みと言うか、映画人には強く響くものがあるんだろう。それを、三流の小生が、どこまで解釈できるかどうか…。
物語は、小さな清掃会社「小飛俠清潔公司(アトム清掃会社)」を一人で切り盛りする、窄哥こと陳漢發(演:張繼聰/ルイス・チョン)を中心展開する。ただでさえ、人手の足りない職業だが、それに輪をかけての疫病下、薬剤不足もあって、経営は困難を増してゆく。
ある日、コンビニで万引きをする若い母親と幼い娘を見かける。なんと、その若い母親、キャンディが雇ってほしいと現れる。
シングルマザーのキャンディ(演:袁澧林/アンジェラ・ユン)は、いざ仕事をやらせてみると、なかなかやり手で、現場作業こそまだまだ覚束ないが、受注など事務的な作業では、欠かせない存在となってゆく。
しかし、随分と浮世離れした恰好のシングルマザーだな…。というのが第一印象。色々ワケありなんだろうけど、あの恰好で「清掃に来ました!」って来られたら、小生だったらドキッとするよ(笑)。袁澧林は、モデル出身の若手注目株で、今映画祭ではこの後観る『過時·過節』にも出演している。初めて見た女優だが、これからを感じさせるものを持っているような気がする。金馬獎、香港電影評論學會大獎では最優秀主演女優にノミネートされ、香港電影金像獎でも最優秀主演女優賞候補に名前が挙がっている。
子役の董安娜(アンナ・トン)も頑張っていた。時に「子どもがこんなこと言わんやろ~」みたいなセリフもあったが、そこはご愛嬌ということで(笑)。今年は、子役が重要なポジションを占める作品が目に付く。
順風満帆に進んでいると思いきや…。キャンディに悪い「クセ」がつい出てしまう。折しもマスク不足の世の中。作業に訪れた先でマスクが大量にストックされているのを見つけてしまい、娘のためにとマスクを盗んでしまう。これが窄哥の知るところとなり、クビになってしまう。
キャンディの置かれた状況を考慮し、窄哥はキャンディを再雇用する。キャンディ自身も「今度こそ」の思いで、仕事に励み、以前にも増して窄哥の片腕として頑張りを見せる。果たして、これですべてが上手く回っていくのか…。映画は、そんなことは容赦しないよな、普通は…。
窄哥には、古い公営団地、石硤尾邨(Shek Kip Mei Estate)に暮らす母親(演:區嘉雯/パトラ・アウ)がいる。區嘉雯はベテランの舞台俳優だが、映画出演は『叔.叔』が初めてだったはず。あの強烈な「目の演技」がよかったのだろう、以降も映画出演が続いているようだ。今回も、素晴らしい演技を見せていた。
普段は母親想いの窄哥だが、受注が増えて、母親を一人にすることが増えてしまう。そんな中、母親はひっそりと息を引き取ったのだ。野辺送りの間、清掃会社はキャンディに任せることにしたが、予期せぬことが起こる…。この事件で、窄哥は社会的信用を失い、商売もあきらめざるを得なくなってしまう。原因はキャンディの「悪いクセ」であった…。盗みをしたわけではないけど、ああいうことをすると、どうなるのか、その辺の判断力が非常に弱い子だなと思った。お互いに、いいビジネスパートナー、もしかしたら人生のパートナーにもなり得るかもという信頼関係を築いていけていたのにねぇ…。
さて『窄路微塵』というタイトルだが、劇中、窄哥がキャンディにこんなことを言うシーンがある。「あれ、何て言ってたんかな?」と気になって、香港メディアを漁っていたら、あったわ(笑)。
「我地啲一粒塵都唔係嘅,個天唔係成日睇到我地嘅,不過唔緊要吖,我地睇到對方咪得囉」
訳せば、「俺らは塵みたいなもんや。神さんもいつも見てくれへんし。けど、かまへんやん。俺らが相手を見えてたら、そんでええやんか」って感じかな。
いやはや、タイトルの意味と言うか。作品テーマを主役に言わせるか~、って思ったけど、まあ、言ってくれたので、小生がここでつべこべ言う必要もなくなったわけやけど(笑)。「窄路=狭い道」、先行きのわからない道で生きる、塵のような存在でしかない俺ら…。窄哥というニックネームからして、そこですな。
作風は、あくまで淡々と。疫病下の二人の主人公と言うか、二組の親子にスポットを当て、困難な時世を描く映画にありがちな、「そんなん、いくらなんでもありえへんし!」みたいな過度のセンセーショナルさは無く、それ故に、観る者は物足りなさを感じるかもしれない。だが一方で、疫病下の香港の記録し映画としては、一見の価値ある仕上がりだった。林森が監督ということで、政府の防疫対策への不満を声高に叫ぶような展開を期待していた向きには、いささか肩透かしの作品だったかもしれないが、だからこそ「あの頃の香港」をより多くの人がこの作品で共有できるのではないかと感じた。そういう意味では、良作と言えよう。
正式預告片
《受賞など》
■第59屆金馬獎
・最優秀映画音楽賞:黃衍仁(ウォン・ヒンヤン)
・他2部門でノミネート
■第29屆香港電影評論學會大獎
・最優秀監督賞:林森(ラム・サム)
・最優秀主演男優賞:張繼聰(ルイス・チョン)
・推薦作品:『窄路微塵』
・他3部門でノミネート
■2022年度香港電影編劇家協會大獎
・1部門でノミネート
■第41屆香港電影金像獎 *3月18日時点、結果待ち
・10部門でノミネート
(令和5年3月18日 梅田ブルク7)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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