【毒書の時間】『酔いどれの鉄腕。 野球と酒を愛した鷹のクローザーの回顧録』 佐藤道郎

<昭和48年(1973)10月31日、巨人との日本シリーズ第4戦で力投する佐藤道郎。よもや、これが南海ホークスとしては最後の日本シリーズになろうとは、この時は夢にも思っていなかった…。時に、小生は小学4年生(笑)=後楽園球場 Ⓒ時事通信社>


今年はホークスの球団創設85周年。南海ホークスが大阪を去ったのが昭和63年(1988)のこと。実に、35年前のことである。俺も年を取るはずよ(笑)。昭和40年代には大阪球場で走り回ってた子が、今年は還暦なんやからねぇ…。南海ホークスも随分昔の話になってしまった。それでも、現在のホークスは一軍監督の藤本博史君、一軍ヘッドコーチの森浩之君、三軍打撃コーチの大道典良君、そして今シーズンから始まる四軍の初代監督の小川史っさんと、緑の戦士が首脳陣に並んでいるのが嬉しい。

と、前置きが長くなったが、野村監督が「考える野球、シンキングベースボール」で勇者・阪急に挑んでいた時代(これはホークスの長い歴史の中で小生が一番好きな時代でもある)に選手として野村監督の下で活躍したOBが、あの頃のホークスを語ってくれるのが嬉しい。そんな語り部の一人、リリーフに先発に大車輪の活躍だった佐藤道郎の著書と言うか、聞き語りと言うか、まあそういう本。当時の南海ファンは、この頼りになる大黒柱を愛情込めて「みっちゃん」と呼んでいた。

 

 

 

 

 

『酔いどれの鉄腕。 野球と酒を愛した鷹のクローザーの回顧録 佐藤道郎

ベースボール・マガジン社 ¥1,760

みっちゃんは、先日亡くなった門田博光と同級生。昭和44年(1969)、ドラフト1位がみっちゃんで、2位がカドさん。みっちゃんはまだまだ元気そうで何より。子供の頃、すなわち昭和45年に始まる野村捕手兼任監督時代、「来る日も来る日もみっちゃん出て来るなぁ」って思ってた。本書にも書かれているが、実際リリーフエース、今で言う「クローザー」でありながらも、先発ローテの谷間には先発して、完投ということもわりとあったようで、今の感覚で言うと「随分と酷使されてたんやな」と言うところだが、まあ先発ローテンション投手がせいぜい4~5人だから、中4日とか5日で回してゆくんだから、谷間と言うよりは「1回休ませよか」ということも多々あって、「ほな、みっちゃん、投げて」となるわいな(笑)。リーグ最多登板5度、リーグ最多交代完了6度という記録が「来る日も来る日も~」を物語ってますわな。

帯にも「いくら投げても、いくら飲んでもつぶれない男」とあるが、もうそのまんま。子供心にも「この人は酒飲みなんやろな」と感じたもん、醸し出す雰囲気がそうやってん。漫画『あぶさん』での描かれ方の影響もあったかもしれんけど(笑)。でも、みっちゃんが出て来たら、まず負けないから安心。そう、安心感、信頼感にあふれる投手だった。どんなピンチで出て来ても、本人はケロッと投げ抜いて、さっさとミナミの飲屋へ出かけて行く(笑)。いやもう、小生はいい時代の南海ホークスを見てきたもんだ。

恐らく昭和50年のファン感謝デー。運動会などファンとの交流イベント終了後、グラウンドで選手に自由にサインをもらえた時代。ちびっこファンに囲まれるみっちゃん (小学6年生だった筆者撮影w)

野村監督やあの「おばはん」(みっちゃんはマミーと呼ぶw)とは意外とうまくやっており、同時代の先発の柱だった江本とは違う関係を築いていたようだ。まだ現役だった杉浦、皆川の伝説の二大投手にも可愛がられるなど、新人時代からチームに溶け込んでいたのがよくわかる。ここらへんは、同期のカドさんとは正反対。南海、大洋での現役時代のエピソードも面白いが、コーチ稼業での話は人柄が滲み出ている。ロッテの稲尾監督、中日の星野監督、落合監督に重用されたのは、野村監督時代の南海での経験が大きいのだろう。独特の表現で若い投手を指導しているのが、この人らしい。

最初にも記したように、まだまだ元気なみっちゃん。コロナで経営が厳しいという会員制スナック「野球小僧」で、みっちゃんと野村時代の南海思い出話がしたいなぁ…。そういう思いに駆り立ててくれる、南海愛、ノムさん愛、そして野球愛に満ち溢れた良書であった。球団創設85周年にふさわしい1冊。惜しむらくは、ベースボール・マガジン社の本なのに、写真が本人所蔵の十日戎「宝恵かご」巡行くらいという点。これは勿体ない!

追記:みっちゃんが、いかにすごい投手だったかということを少しでも知ってもらいたく、タイトル歴などを記しておきます。どや!すごいやろ!

《タイトル》
最優秀防御率:2回(1970年、74年)
最高勝率:1回 (1972年)
最多セーブ投手:2回(1974年、76年)※74年はパ・リーグ初の獲得

《表彰》
新人王 (1970年)
パ・リーグプレーオフMVP:1回 (1973年)

(令和5年3月2日読了)

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