(photo AC)
大人気『へんろ宿』シリーズの第二弾が、昨秋発刊された。「早く読まねば」と思いつつも、「積ん読本」もええ加減、御開帳していかないと本が溜まってゆく一方である。というわけで、年を越してしまった。
江戸回向院前の「へんろ宿」が舞台。宿を営む市兵衛、佐和の夫婦に女中のおとらの人柄にじみ出る宿である。主人に市兵衛は元旗本の嫡男で剣の達人。女将は京都の産で一弦琴の名手、佐和。働き者の女中、おとら。今作も心傷ついた訳ありの泊り客が、宿を訪れる。
『冬の霧 へんろ宿 巻二』 藤原緋沙子
新潮文庫 ¥649
3年前の年末に読んだ本書の<巻一>にあたる『へんろ宿』は、読んでいて程よい心地よさ、緩やかさを感じた。その心地よさから、「早く続巻が読みたい!」と待っていた。それゆえに、満を持して<巻二>を読んだ。前作同様に、今回も「訳あり」の泊り客の「訳」の解決に力を貸す、「へんろ宿」の面々。
別に江戸を揺るがすような大事件が勃発してどうのこうの、ってのはないので、あっさりと淡々と「ああ、こういうハナシもあるわなぁ」って感じで、物語は進んで行く。この辺はもしかしたら、女将の佐和が京都の出身ということで、物語も「薄口」なのかもしれない。が、薄口の料理は「出汁」でしっかり味をつけるように、物語もまた、味わい深い4篇から成り立っている。薄口の料理が食材の本来の味や色合いを際立たせるように、いずれの登場人物も人間的な魅力が際立つ。このあたりの人物造形が非常にいい塩梅だなと思う。さすが、売れっ子の時代作家である。
それぞれの「訳あり」客の抱える問題解決に、へんろ宿の夫婦は尽力する。ただし、「この宿は見ない、聞かないだ。お客が話してくれれば応じるが、こちらからは詮索は無用だ」と市兵衛が女中のおとらに言ったポリシーは一貫している。そこがこの宿の、物語の居心地の良さでもある。
4篇いずれも、深い余韻を味わえる作品だが、敲きの刑の末、へんろ宿に転がり込んできた男、伊佐吉をめぐる物語『こほろぎ』、幼い頃に生き別れになった母親を探すため江戸に出てきた娘、おいちの物語『ほととぎす』に一層それを感じた。
さて、女将の佐和が泊り客へのサービスとして奏でる一弦琴(いちげんきん)。長さ約110cm、幅約11cmの桐製の胴に1本の絃を張った琴である。二弦の八雲琴は文楽で時折聴くことがあるが、一弦琴の音色は本を読んだだけでは想像できない。どんな音色かとYouTubeを検索してみたら、非常に素朴な、かつ哀感のある音色だった。なるほど、訳ありの泊り客が、音色に心を動かされるはずだ。
剣豪の活躍に胸ときめかせたり、長屋の人情話にジーンとしたりする時代小説の王道路線もいいが、本作のような「しんみりしみじみ系」の時代小説も、非常に心地がいい。そんなわけで早い機会での第三弾を期待するが、なにせ売れっ子さんなので、そこは今度も二、三年先のことと、気長に待つとしよう…。
(令和5年2月9日読了)
*価格はamazon.co.jpの2月10日時点の表示価格
こちら、シリーズ1作目。まずこれ読んでみて、気に入ったら2作目もぜひ!
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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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