【毒書の時間】『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』 町田康


昨年まで、年に1回「毒書の時間」として、その年に読んだ本の一覧を上げて、お薦めしたい本には感想文なんぞを付記していたんだけど、なんか長ったらしいなと思い、今年からは読み終わる度に、感想文をアップすることにした。「読書メーター」では255字と字数制限があって、言いたいことの半分も書けない。ただ、字数制限の中で文章を書くというのは、小生の職業柄、日常的に起きることなのでそれはそれで訓練の一環として継続するけど、時々、作家さんからお礼を言われることもあり、嬉しい以上に「こんなグダグダ感想で申し訳ない!」とすら思ってしまう…。

その点、ここは自分のブログなんで、好き勝手に言いたいことを言えるし、255字に縛られないのもいい。

あ、「毒書の時間」の毒は、毒のような悪い本という意味ではない。色んな意味を込めてのことだが、そこらも追々と明らかにしていければ、と。

ってことで、今年最初の一冊はこの人から。

『私の文学史 なぜ俺はこんな人間になったのか?』  町田康

NHK出版新書 968円

かっこええ表紙ですな。アラーキー撮影。1992年リリースのアルバム「腹ふり」のジャッケト。この写真を二重カバーとして売るなんて、NHK出版も気が利いてると言うか、商魂たくましいと言うか(笑)。

町田康の大ファンというわけではないけど、年に2,3回はあの文体に触れないと禁断症状を起こしてしまう(笑)。いわゆる「クセになる」ってやつ。そんな町田康が、なんとNHKカルチャーで講義をし、その話を収録した本が出たのが昨夏のこと。「早いこと読まなあかんのとちゃうの?」と思いながら年を越してしまった(笑)。

知ってはる人は知ってはる思うけど、あの奇妙奇天烈な文章スタイル、ストーリーの発想はどこからくるものなのか、マチーダせんせの頭の中はどないなってはんの?と、興味は尽きない。副題に「なぜ俺はこんな人間になったのか?」とある以上、そういうのが明らかにされるはずやと読む前から期待は膨らむ。と、言いながら、小生と1歳違い、生まれ育ったのも大阪市内の南の方で、当然、幼いころに見ていたテレビ番組、特に大阪ローカルのアクの強いのんばっかり、演芸好きですねん、落語や浪曲もよう聴きますねん、などなど共通項が非常に多いので、大体そうやろな~と察しがつく。そうした「察し」が、本書で次々「いや、ほんまそうですねん」となってゆくので面白い。「町田康の町田康たる所以」の数々が明らかにされてゆくのが、一々「ああ、そういうことか」「そりゃまあ、そうなるわな」と納得づくめで、きっといい友人になれることでしょう(笑)。

「ああ!」と目から鱗だったのは「今は昔」という説話集の書き出しの解釈。中学校から大学の国文科に至ってもなお「今となっては昔のことだが」と訳していたのが、奴によると「この物語の『今』は『昔』のことだが」となる。そりゃその方が絶対しっくりくる。

最初に熱中したという『物語日本史』、実は小生も全巻読破している。近所にシャープ創業者の早川徳次さんが建てはった「早川福祉会館」というのがあって、そこの図書館は子供向けの本が大半なんで、夏休みには子供が涼みに行く場所と化していた。涼みに行ってるうちに全部読んでしまったという展開(笑)。実際あの本は面白かったなあ。

「自分語りはカッコ悪い」と思っていたマチーダせんせ、初めての自分語りという好著なのだが、惜しむらくは出版社側の問題と思うが、六代目松鶴師匠のフリガナが「しょうかく」となっていたことと、巻末の書籍紹介で「太平洋戦争」とあるべきところが「大敗用戦争」になっているというとんでもない大ミスを犯している。校閲校正、外注丸投げやろ、ってところ…。NHK出版に「おたく、大きなミスしてはりますよ!」とメールしたのは言うまでもない(笑)。

(令和5年1月14日読了)

*価格はamazon.co.jpの1月14日時点の表示価格


←これなど聴きながらお読みなるのはどうでせう?

「腹ふり」 Machizo Machida 町田町蔵 CD:¥2,096

町田康が町田町蔵名義で発売したアルバム。「イスラエル」「僕と共鳴せえへんか?」「言うてるやんか」他を収録。(amazon.co.jp)

 


1件のコメント

コメントを残す