【上方芸能な日々 文楽】令和4年4月公演 第一部

アイキャッチ画像:桜花咲き誇る文楽劇場前。年々、満開の時期が早まっているような気がしていたが、今年は丁度満開の頃に来れてよかった(4月3日、筆者撮影)>


今公演は久々に2回見物に行った。3部とも好演で2日目に行って「あともう1回は観ておきたい!」と思ったから千秋楽にも行ってきた。最近では珍しい。以前は1公演中に3回も4回も行ってたもんだが、そこまで体力もなくなってきたし、他の事に時間も使いたいし。ということで、2日目と千秋楽の雑感を。

人形浄瑠璃文楽
令和4年4月公演 第一部

第一部は季節にぴったりの『義経千本桜』。本来なら通しでやってほしいところ。2年前、そのはずだったのがCOVID-19の感染拡大で公演中止。あれはショックだったなぁ。「もう千本桜の通しなんて観られないんだろな」と思っていたら「やりまっせ」ということで凄く楽しみにしてたんだが…。今回は鳥居前&四段目。ま、春ですから(笑)。

さて、今公演より、切語り太夫が一挙に3人増えた。呂、錣、千歳が昇格した。ようやく、と言うよりも「遅い!」という感の方が強い。今回は咲を加えた4人全員が切場を語るわけでなく、錣さんは道行に並ぶことに。こういう感じで3人が切を語り、1人が切を外れるという形でいくのかな…。いずれにしろ、目出度いことであると同時に、3人には切語りとしての重責を果たす浄瑠璃を聴かせていただきたいと思う。

4月3日のお席
千秋楽のお席。前回とほぼ同じ。違う方から観ればいいのにねぇw

義経千本桜

 「伏見稲荷の段」

靖 清志郎

「なんや!見てたんかい!」って段(笑)。そりゃないわ、義経さん、ってハナシだが。でもまあ、それにより忠信がさっそうと登場と相成るわけだが。四段目は「忠信物語」でもあるので、忠信登場譚となるのが二段目のこの場。とは言え、義経、静御前、弁慶が中心でとりあえずは「忠信、覚えといてね」ってところか。そのわりには、勘十郎さんが遣っていることもあって、注目度は断トツなんだが(笑)。靖は相変わらずよい。ただ、ここのところ同様のことをよく記してきたと思うが、数年前に一気にブレークした時のようなワクワク感がちょいと薄れているような…。

「道行初音旅」

静御前 
狐忠信 織 ツレ 小住、碩、文字栄
宗助、勝平、寛太郎、清公、清允

錣さんは静御前、織さんが忠信。この舞台はやはり人形に目が行くね、どうしても。まず、なんと言うても舞台が明るい。伏見稲荷前で満開だった梅の花はいつしか桜咲き誇り、パーっと春爛漫に。この季節の移ろいだけで、まずお客さんの目を釘付けにしてしまう。人形も勘十郎さんの忠信は、さっきの鳥居前から継続して足取り、動きが文句のつけようなく、これぞ至芸。極上品であります。「妖気の漂う」狐の化身ではなく、「人間の情味」があふれる狐の化身としての忠信像を一貫して見せてくれる。

「川連法眼館の段」

中:呂勢 錦糸

いわゆる「八幡山崎」。ここがしっかり出来上がっておれば、「四ノ切」も俄然、際立つから重要。安心の呂勢と信頼の錦糸さんだから大丈夫かと言うと、そんな優しいものでもないだろう。果たしてご両人は実に艶のある語りと三味線を聴かせてくれた。静御前が「そう言えば、お供の忠信さんってなんかヘンでしたわ」以下の忠信に奇行の描写が面白いし、この先の展開に大いに興味が沸き立つというもの。まあ、うまいこと出来てますな、浄瑠璃というものは…。

切:咲 燕三

番付のインタビューで「『これが最後』の思いで勤めます」と語る咲太夫、まさに「一世一代」の「四ノ切」である。新たに3人の切語りが誕生したことで、少しばかり肩の荷が下りたというところかもしれないが、咲さんでなければならない段というのは少なくないので、まだまだ太夫陣の先頭に立って引っ張って行ってもらいたい。

忠信のあの長台詞、それもややトーンが上がっての「狐詞」を織り交て、さらには両親を思い慕う気持ちもしっかり込めながら、語りそして伝える…。これこそが「切語り」というものだと、感動せずにはおれなかった。その語りを引っ張り、時には引っ張られて勤めあげる燕三さんも極上の音色を聴かせてくれた。言うまでもなく、「切語り」は太夫だけで成り立つもんでなく、三味線の力量もまた「切」の名にふさわしいものでなくてはならない。それを改めて思い知らされた「四ノ切」でもあった。

この極上の「四ノ切」をも一度観たい、聴きたいということで千秋楽のチケットを取ったのだが、残念ながら咲さんは休演。代演で織さんが勤めた。織さんも師の技をよく受け継ぎ、織さんなりの「四ノ切」を好演したが、「まあ、置き張りやす!」というところ。

人形は上述の勘十郎さんのほか、簑二郎さんの静がよかったんだが「道行」がどうしても忠信にばかり目が行ってしまい、割を食ってしまったようで、その点は気の毒ですらあった。まあ、しゃーないわな、あの忠信の相方なら。で、本物の(笑)佐藤忠信を遣った清五郎さんが、案外印象深かったのは「そりゃ、人間ならこうやよね~」って思いが当方にあったからかも…。

いずれにしろ、最近の四段目では格段の出来栄えだったんじゃないかと思う。ご見物の反応もすこぶる良かった。久々に、舞台、床、客席がスイングしていると感じた。

二部制の頃は、初日の幕間に「国立劇場文楽賞」「文楽協会賞」の表彰があったから、それ目当てで初日に行ったのだが、三部制になって表彰式がなくなったのは残念。弁当食べながら表彰を拝見するのがよかったんやけどねぇ…。今回の受賞者は以下の皆さん。毎年「よう頑張ってはるな~」と思った方たちが受賞しているので、納得のメンバーではあるが、「持ち回り感」も否めない。ま、限られた人数の中でのことだから仕方ないか…。

(令和4年4月3日、24日 日本橋国立文楽劇場)


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