第17回大阪アジアン映画祭、今宵は21時30分からの上映作品を観る。明日は在宅勤務日なんで、鞄には社給PCで少々重いよぅ。翌朝は少しだけゆっくりできるけど、かと言って始業時は通常勤務日と同じだから、寝過ごすわけにもいかない…。でも映画はこんな遅い時間から。「遅くなっても観た甲斐があった!」っていう作品であることを願うばかり…。さてさて。
特集企画《台湾:電影ルネッサンス2022》
修行 邦:修行 <日本プレミア上映>
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
台題『修行』 英題『Increasing Echo』
邦題『修行』
公開年 2021年 製作地 台湾 言語:標準中国語
評価 ★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):錢翔(チエン・シャン)
編劇(脚本):錢翔
主演(出演):陳湘琪(チェン・シャンチー)、陳以文(チェン・イーウェン)、黃柔閩(ホアン・ロウミン)、樊光耀(ファン・グァンヤオ)、丁寧(ディン・ニン)、莊益增(ジュアン・イーヅァン)
<作品導入>
一人息子の結婚式を目前に控えた中年夫婦。妻のイエン夫人は模範的な妻を演じつつも、心の安らぎを新興宗教に求めている。無気力な夫イエン・フーシェンは、会社では仕事をせず、退社後はコンビニで時間をつぶして帰宅もしない。辛い修行のような日々を送りながら、ゆっくりと家庭崩壊が進んでいったある日、イエン夫人は一本の国際電話を受け取る。それは、夫の元秘書であり、愛人でもあったスー・クーユンの姉からの電話であった…。<引用:「第17回大阪アジアン映画祭」作品紹介ページ>
いや~、なんとも、なんとも…。とにかく終始「笑顔」のない映画である。嚴(イエン)家の飼い犬でよく訓練された「タレント犬?」のテリーの愛くるしい「笑顔」と、気のふれた蘇小姐(演:黃柔閩/ホアン・ロウミン)のインパクト強すぎる「笑顔」くらいなもんで、主役の嚴夫妻にはまったく笑顔がない。そういう関係になってしまったから仕方ないのだけど、そのためにどちらも「孤独」な日々を送っていたのだ。一つ屋根の下で暮らしながら、これはきついだろう。息子の結婚も目前だというのに…。ああ、そう言えば息子と嫁さん、彼らの取り巻き連中はすごく楽しげだった。しかし、この若夫婦の笑顔も両親の年代になっても続いているのかと言えば、そんな保証はないよな。
オープニングから実に怪しげだった。嚴太(イエン夫人-演:陳湘琪/チェン・シャンチー)が安らぎを求める新興宗教の「修行」なんだろうけど、木に触って涙を流すというシーン。「なんかようわからんけど、この人ちょっと心を病んでるのかもね」と思わせる。ただ、いきなりのこのシーンには戸惑った。「え?どういう映画なの?これから何が始まるの?」というもんだ(笑)。中盤あたりの激しく身を震わせる祈り?修行?のシーンは圧巻。新興宗教を決して全否定はしないけど、ああいうのを見るとやっぱりドン引きだわな…。
一方、夫の嚴先生(イエン氏-演:陳以文/チェン・イーウェン)は、仕事は適当にこなして、帰宅時にはコンビニで時間つぶし。仕方なしにって感じで帰宅するも、晩飯もつまらなさそうに食べ、途中で切り上げで犬のテリーを連れて公園で一人飲み。「これが俺にとって一日で一番の安らぎの時間」という雰囲気でくつろいでいる。「壊れてるな、この夫婦」ってのがよくわかる。なんとか二人をつないでいるのは、息子の結婚を間近に控えているということだけ。まあ、でもわからんでもないけどな…。
この危機感いっぱいの夫婦を演じた二人は、古くは『牯嶺街少年殺人事件』で共演している。ってことでベテランの二人である。陳湘琪は第51屆金馬獎で主演女優賞(『迴光奏鳴曲(邦:EXIT-エグジット-)』を獲得。陳以文は第56屆金馬獎で主演男優賞(『陽光普照(邦:ひとつの太陽)』)に輝いているほか、俳優として監督として数多くの受賞歴を誇る。ポスターにあるように、まさに「金馬影后」と「金馬影帝」の競演となっている。あの何とも言えない空気はこの二人だからこそ作り出せたのではないだろうか。
今年の大阪アジアン映画祭で見た作品では、断トツのインパクトだったのが、黃柔閩(ホアン・ロウミン)が演じた蘇小姐。よくここまで役作りをして演じきったなあと感心することしきり。収容先の精神病院のバルコニーで嚴太を弄び、そして嚴太を締め出す…。あの一連の行動には、今ではすっかり別人になってしまった蘇小姐だが、心の奥底のさらに底の方に嚴先生かつて受けた酷い仕打ちの記憶が残っていたんだろうか、と思わされた。彼女は彼女なりに「修行」のさ中なのかもしれない。黃柔閩はスクリーンでは初めてだが、第37屆金鐘獎で助演女優賞を獲得している実力派。
この作品、錢翔(チエン・シャン)監督にとっては、陳湘琪が金馬獎に輝いた『迴光奏鳴曲』以来、2作目となる長編だが、役者はいずれも名優ぞろいで、それぞれから目が離せない。
嚴太が信心する新興宗教の教祖に樊光耀(ファン・グァンヤオ)、その妻には丁寧(ディン・ニン)。樊光耀は若いころはかなりシュッとした人で、最近はいい年の取り方をしてナイスミドルな人だが、怪しい教祖もなかなか板についていた。丁寧は出演シーンが少なく、もっと暗躍(笑)してほしかったなあと。90年代から年1本ペースでコツコツと出演を重ね、 第55屆金馬獎では『幸福城市(邦:幸福都市)』で助演女優賞を獲得している。ちなみに、この宗教団体、ある日あっけなく活動を終える。嚴太は呆然…。
嚴太、しばらく家に戻らない夫の行動を突き止めるため、探偵に依頼する。探偵は莊益增(ジュアン・イーヅァン)。『大佛普拉斯(邦:大仏+)』の主人公、菜脯がぱっと頭に浮かぶ。これまでに観た中では基本的には気の弱そうなしがない中年、という印象だが、今回はがらっと変わって胡散臭い役どころ。「奧さん、そうやきもきしないで、たまには羽を伸ばさせてやってもいいんじゃない?」と依頼主をたしなめるセリフがいい。でも仕事はきっちり。嚴先生の浮気現場を突き止め、嚴太は「この野郎~~!」と乗り込んでゆく…。殺しちゃうのか!?と心配したけど、大丈夫だった(笑)。
ラストは息子の披露宴。ここでも目を合わすことのない嚴夫妻だが、果たして二人に再生の日は来るのだろうか。この華燭の典からはなんとも想像がつきにくい。意地悪な終わり方とも言えるし、余韻をたっぷり残した終わり方とも言えるし…。難しいねぇ。
『修行』というタイトルの持つ意味が、次第にわかっていく展開だった。英語タイトルの『Increasing Echo』は、シーンの切り替えの度に反響音が入るからなんだろうけど、中文タイトルの方がしっくりくるね。ほんと、人生とは修行の日々ですな~、ってことやね。
(令和4年3月17日 梅田ブルク7)
牯嶺街少年殺人事件 [Blu-ray]
映画史に燦然と輝く、名匠エドワード・ヤン監督の伝説の傑作が4Kレストア・デジタルリマスター版で初ブルーレイ化!
監督の生誕70年、没後10年に合わせて、完成当初のバージョン<3時間56分版>で蘇る!
若き日の陳湘琪、陳以文を探してみよう(笑)!一家に一枚牯嶺街!
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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