【上方芸能な日々 文楽】令和4年初春公演 第一部

さて今回からは、初春公演のあれやこれやをうだうだと連ねていくこととする。

とにかく三部制になってからは、どうも気合が乗らないというか、集中力を欠くというか…。そろそろ二部制に戻してもいいんじゃないかと思うが、感染状況を見るに、そう簡単にはいかないんだろうな。

1月9日の見物ということで、COVID-19以前は10日には福娘ご一行が来館し、福笹を授与したり技芸員が乗り込む宝恵駕籠巡行があったりと、大阪の正月のクライマックスを迎えていたのを思い出す…。

ハナシは変わるが、今年は「文楽座命名150年」とのことらしいが、唐突感が拭えない。それならそれで、もっと早くから大々的にアピールすりゃいいのに。「文楽座の歩み」なる刷り物を配布していたが、これがもう…。いいえいな、内容はしっかりしたもんでしたがね、台割の時点からして大失策を犯していることに、だれも気付かなかったのかと不思議で仕方ない。これを世に送り出して来場者に配布している劇場の神経を疑う。恥ずかしくないんかえ?と。なお、番付の「文楽座一五〇年前史」というカラー見開きの解説文が、非常にわかりやすかった。

1階の展示室も、その文楽座命名150年に合わせた展示内容になっているが、何と言っても呂勢太夫所蔵物の多さに驚くばかり。太夫なのかコレクターなのか、不思議な人である。まあ、太夫なんだけど(笑)。まだまだ持ってそうなんで、どんどん虫干し兼ねて、展示してくださいな。

人形浄瑠璃文楽
文楽座命名一五〇年
令和4年初春文楽公演 第1部

寿式三番叟

まずは新春らしく三番叟から。これはやっぱり上述の文楽座命名150年の祝賀の意もあるんですかな? まあそれはともかく、長引くCOVID-19の疫禍に対して「疫病退散!」という願いが込められた舞という気がする。色々な意味で、今年一発目の演目としては、まことに結構なチョイスだと感じる。

翁:呂勢 千歳:靖 三番叟:小住 三番叟:亘 碩 聖
錦糸 清志郎 寛太郎 清公 燕二郎

五丁六枚の床のメンバーがよくバランスが取れていてよかった。呂勢の風格ある翁は言うまでもなく、三番叟の小住、亘もいい意味で余裕を感じさせた。「間」の取り方と言うのかな、なんかセンスの良さを感じさせた。糸は錦糸さんを軸にしっかりとまとまっていた。このメンバーの三番叟は「攻め」の姿勢を感じさせてくれて、なかなか嬉しくなるものだった。人形も、それに答えるように翁の和生さんの品格、三番叟の玉勢、簑紫郎もテンポよく動いていた。近年で最も印象深い三番叟だった。

まあねえ、生来の散財癖がたたって、新年早々、お財布も厳しい折ではあるけど、新年最初の公演は三部とも床に近い所から見物ということにしましたよ(笑)。なかなか、床直下の席がオープンされないので、この辺がギリギリのポジションではあるけど。

菅原伝授手習鑑

「寺入りの段」  芳穂 清丈

芳穂がここをやるってのも、ちょいと勿体ない気がするけど、この辺は順列ってのがあるから、しゃーないか…。と、評価はしているけど、千代と戸浪が「どっちがどっちやねん?」と思う。ってことで語り分けが行き届いてなかったのがなんとも…。よだれくりを愉快に聞かせりゃそれでOKという段ではないというのをそれで改めて認識した次第。聴く側としても、ええ勉強させてもらいました。玉彦のよだれくりが、やり過ぎることなく、いい塩梅で見せていた。

「寺子屋の段」  前) 錣 藤蔵

錣さんと藤蔵という組み合わせはあまり見かけないなあ。この二人なら破綻なくやるだろうと思っていたら、全くその通りで、「このコンビもいいねぇ~」と思わせてくれた。よく文楽評で「情味たっぷりに」という文句を見かけるが、どうもその「情味たっぷり」というのが鈍感な小生には理解できないで、40年以上も恥ずかしいことに文楽に通ってるんだが(笑)、今回、ようやく「ああ、なるほど!」と実感することができた。それは今回、太夫の語りよりもむしろ藤蔵の三味線の音色から感じ取ることができたのだから、小生もなかなかなもんでしょ?(笑)。人物の弾き分けというのかな、何と言うか「三味線が語る」とでも言うべきか、そういう弾き方が彼は飛びぬけて上手いね。スリリングだったし。錣さんともうまくスイングしてたな、と。いいマッチングだった。

切) 咲 燕三

もうここは、何も言うまでも無し。身を委ねておればよし、ってところなんだが、そこに甘えて委ねていると、そういう人を置いて行かれてまうから油断してたらあきまへんで。要は「ああ、さすが咲さんや、よかった」では誠に勿体ないのである。しっかり聴いて、咲さんを全身に浴びるくらいでないと、あっという間に「いろは送り」まで送り出されてしまう。さっきの藤蔵同様に三味線の燕三さん共々に、浄瑠璃の醍醐味を味わいたい。床から発せられる「哀感」をしっかり受け止めることで、登場人物それぞれの嘆き、悲しみなど深い所を覗き見ることができる。また、そういう造りになっているのだ、この本自体が。うまいことできてるなぁと、いつも感心する。

人形は和生さんの源蔵の忠義ぶり、玉男さんの松王の格、勘彌の千代が印象深い。特に松王の泣き笑いのシーンに小生はいつも泣かされるのだが、咲さんの「悲しみ爆発寸前」のまだちょいと手間のあたりで収める絶妙の泣き笑いと、玉男さんの遣いようが見事にマッチしていて、初芝居からえらい泣かされてしもた。あ、松王が桜丸を思いやるシーンもな。

ってなわけで、いきなり子供が死んじゃう舞台を見せられて、「さて、今年の文楽劇場の舞台では何人死ぬんでしょうか?」という感じですな。で、第2部も第3部も続々と死人が出るという…(笑)。

(令和4年1月9日 日本橋国立文楽劇場)


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○『寺入りの段』(平成元年4月 国立文楽劇場・NHK収録映像・12分・カラー)竹本緑大夫、竹澤団治(現・竹澤宗助)、女房戸浪/吉田簑助、女房千代/吉田文昇ほか

○『寺子屋の段』(平成元年4月 国立文楽劇場・NHK収録映像・69分・カラー)竹本織大夫(竹本源大夫)、鶴澤燕三(5代)、女房戸浪/吉田簑助、武部源蔵/吉田文雀、女房千代/吉田文昇、松王丸/吉田文吾ほか

・四段目:「天拝山」「北嵯峨」「寺入り」「寺子屋」←先代織さんが寺子屋を一人で語り通す!
・五段目:「大内天変の段」


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