【毒書の時間】今年読んだ本 2021年

さきほどUPした映画に続き、これまた年末恒例、他人様にはどうでもいい自己満足しかない一覧(笑)。まあ、子供のころから本好き、リスト作り好きなんで(笑)。記載の価格はAmazonまたは出版元が提示する税込み価格

【1】『残花ノ庭 ─ 居眠り磐音江戸双紙 13』 佐伯 泰英
双葉文庫 品切れ重版未定(文春文庫にて「決定版」発行中) 1月21日読了

【2】『にっぽん製』  三島 由紀夫
角川文庫 600円 2月13日読了

【3】湖畔の愛』 町田 康
新潮文庫 649円 2月28日読了

【4】『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』 中島 恵
PHP新書 990円 3月19日読了

【5】『明日は日曜日』 源氏 鶏太
ちくま文庫 836円 4月17日読了
昭和27~28年ごろのオフィスラブ物語。週休1日が当たり前だった時代の物語らしく、土曜日に「明日の日曜は映画でも」なんて会話で締めくくられる各章。主人公の桜井大伍君は、相談ごと(基本的には恋愛関係)を断れない性格で、隣席の桃子女史をやきもきさせるが、桃子女史自身はそんな大伍青年を微笑ましく思い、さらには好意も抱いている。そこになかなか気づかない大伍青年、実にイイ奴だ。エレベーターガールの杏子さんには悪いけど、やっぱり大伍君と桃子女史は結ばれるのが、まあ妥当でしょう(笑)。それほど詳細に描かれていたわけではないが、終戦からわずか7~8年で急速に復興した大阪の街の様子も、興味深い。今なら「女性蔑視だ!」と全方位から噛みつかれそうな表現が山ほどあるけど、誰もそんなこと気にしていなかった時代の大らかさ、無頓着さを懐かしく思う歳になってしまったと…(笑)。

【6】『金色青春譜 -獅子文六初期小説集』 獅子 文六
ちくま文庫 968円 5月10日読了

【7】『夏燕ノ道 ─ 居眠り磐音江戸双紙 14』 佐伯 泰英
双葉文庫 品切れ重版未定(文春文庫にて「決定版」発行中) 5月20日読了

【8】『ひと』 小野寺 史宜
祥伝社文庫 759円 5月22日読了

【9】『関西フォークがやって来た! ――五つの赤い風船の時代
なぎら 健壱 ちくま文庫 990円 5月31日読了
「五つの赤い風船」が絶頂期の頃はまだ幼稚園くらいやったかな。ところがまあ、やっぱり大阪はえらいもんでしてな、朝から晩までどっかのテレビやラジオから『遠い世界に』は流れてくるし、『受験生ブルース』も『帰って来たヨッパライ』もほぼヘビーローテーションですやん、あのころは
。そんなご幼少の頃から関西フォークに囲まれていたわけやけども、それが「関西フォーク」だの「アングラ・フォーク」などとは知る由もなく、本書で西岡たかしの言う「おうた」の中の一つやったわけですわな。まあその後、アタシは南こうせつやら吉田拓郎やらに「おうた」を求めていくわけですけどね(笑)。西岡はんというお方は「気のええおっちゃんやん!」ってずっと思ってるけど、ちょっと面倒くさいとこがあったりもする…。今回、本書を読んでそれを含めて、いろんなことが再確認できた。なぎらさん、労作おおきに!

【10】『魔王』 伊坂 幸太郎
講談社文庫 770円 6月15日読了

【11】『三体II 黒暗森林 下』 劉 慈欣
早川書房 1,870円 7月5日読了
「黒暗森林-上」の読後に「ちょっとクールダウンしてから下を」と思ってから約1年(笑)。世は既に『三体Ⅲ 死神永生 上・下』の話題で持ち切りだ(笑)。上巻で「は?冬眠ってなんよ?」と思っていたが、これは効果満点で醒めたら一気に時代は進んでいて、あっと驚く未来空間!「人類、スゲー!」と世の中の危機意識も薄れていたところに、三体世界の探査船「水滴」が人類が誇る宇宙艦隊を木っ端微塵に粉砕…。そのあたりからグイグイ引き込まれてゆく。それにしても水滴はほんと恐ろしい。あんなのが来たら、今の地球人類は数秒で絶滅してしまう。羅輯と三体世界の和解?になんとなく明るい未来を感じ、「黒暗森林とはそういうことか!」と副題の謎解きもでき「めでたしめでたし」といきたいが、それでは次巻「死神永生」は展開しない。さてこの先はどうなることやら。怖いもの見たさで、次に進もう!

【12】『涙の花嫁行列 たこ焼きの岸本(2)』 蓮見 恭子
ハルキ文庫 726円 7月15日読了

【13】『侯孝賢と私の台湾ニューシネマ』 朱 天文
竹書房 2,750円 7月17日読了
絶好のタイミングで、九条の「シネ・ヌーヴォ」で「侯孝賢(ホウ・シャオシェン)大特集」が上映されている。言うまでもなく侯孝賢作品の多くの脚本を朱天文(チュ・ティエンウェン)が手掛けている。そんなことで鑑賞の予習復習、参考資料としても役立つ一冊だったが、それ以上に「台湾映画、ここにあり!」を世界に知らしめた「台湾ニューシネマ」の風、熱量を存分に感じることができる。これまで気づかなかったことなどが見えてきたりもして、視点を変えて上映作品を観ることもできた。朱天文はまぎれもなく台湾ニューシネマのキーパーソンの一人であると再認識もできた。何かが動き、生まれるとき、必ずそこに彼女がいることに宿命を感じる。抑え気味の訳文により、朱天文の声を聞いたことがないのに、彼女が語っているかのように読める。昨今の台湾ブーム本とは明らかに一線を画す「台湾本」の好著。

【14】『いのちがけ 加賀百万石の礎』  砂原 浩太朗
講談社文庫 946円 8月1日読了
超話題の 『高瀬庄左衛門御留書』を読む前に、作者の筆遣いなどを知っておきたくて読んでみたが、これは大当たりた。前田利家に若き日から仕えた村井長頼の目を通して利家、信長、秀吉、家康、三成らによる乱世が描かれ、武将らの人物像がしっかりと伝わる。まったく血なまぐささはなく、何やら美しい草書の巻物を読んでいるかのような感じ。美しい表紙カバーそのものの端正な筆致で綴られている。長頼の物語ではあるが、前田利家の傾奇者ぶり、いい男ぶりが際立つ物語でもある。こういう上司に恵まれた長頼が、歳を重ねるごとに人格が磨かれていくのもなる程の事であるなというのが、よくわかる。もう一人、利家、長頼をつなぐ「思い」を携えた妻みうの存在が一点の紅のように効いている。「ふぅむ…」と感嘆することしきりで、読後の満足感極上の一冊。

【15】『キッド』 相場 英雄
幻冬舎文庫 869円 8月20日読了

【16】『あめつちのうた』 朝倉 宏景
講談社文庫 946円 8月26日読了
たとえ土砂降りで試合が中断しても、阪神園芸のスタッフがグラウンドに現れたら「よっしゃ、再開や!」という期待感で、スタンドから拍手が起こる。本書にもその場面がある内野全体を覆う巨大シートの撤収作業を実際に見たことがあるが、本当に心から拍手を送りたくなる。そんな職人集団・阪神園芸を舞台に、お仕事小説と同時進行で、青春物語が展開する。挫折、家族間の悩み、LGBT……。主人公の新米グラウンドキーパー・雨宮大地を軸に繰り広げられる物語は、ページをめくるごとに涙腺がどんどん緩んでゆくので、喫茶店や電車ではなかなか読みづらかった(笑)。中心となる4人の若者たちはそれぞれがいい奴であり、弱さもあるが、目標に向かって共に成長してゆく姿が、とても眩しく感じた。なんか自分の気持ちも神整備してもらえたような爽快感があった。超お薦めです!!

【17】『悪童たち 上』 紫金陳
ハヤカワ・ミステリ文庫 990円 9月6日読了
【18】『悪童たち 下』 紫金陳
ハヤカワ・ミステリ文庫 990円 9月17日読了
成績優秀だが家庭に問題ありな朱朝陽が、孤児院脱走の友達・丁浩とその妹分・月普の訪問を契機に一気に悪童化してゆく物語と思いきや、終わってみれば「独り勝ち」状態になるとは…。朝陽と母親の二人を捨てた父と後妻、娘に問題アリ。ほんと「クソアマ、チビアマ」だ。一方で「完全殺人」のはずが、朝陽のカメラに偶然その場面が収められていたために、ガキども3人に「脅迫」され、翻弄されまくる高校教師・張東昇。こいつもクソ野郎。さらにはクソアマは朝陽母子にホントのクソをぶっかけるという、なんともクソまみれな展開も凄まじい。原文はもっと酷いクソ表現だろうなと想像ついてオモロし。表紙カバーに「重慶かな?」と手に取ったがために、小生はとんだ殺人事件に巻き込まれてしまった次第。ちなみに舞台の寧市は作者の生地、寧波から来ているようだ。本作は、作者の少年時代の体験もベースになっている模様。さて、結局、一番の悪童は朝陽だったのだが、彼を悪童と言い切れるものでもなく、それまで爆発させないようにじっとこらえてため込んでいたものが、一気に爆発してしまったというところか。凶悪犯罪の低年齢化により、少年法のあり方が議論されている昨今の中国。抱える社会問題に国境はないようだ…。

【19】『高瀬庄左衛門御留書』 砂原 浩太朗
講談社 1,870円 9月20日
「きれいな装丁の本やなぁ~」と、出た当初から気になっていたが、なかなか手が伸びず、そうこうしているうちに「今年最大のヒット作」だの、直木賞候補だのと話題は尽きることなく、満を持して読んだ。すっきりと無駄のない静謐な文体は、時に心地よく、時に緊張感をみなぎらせ、ズイズイと読み手の胸の内に迫って来る。決して世渡り上手、口上手ではない主人公の庄左衛門だが、亡き息子の嫁・志穂やその弟・宗太郎と俊次郎、藩校の助教・立花弦之助らが、その人間性にひかれて寄って来るのもなるほどなと、ページをめくる度に感じた。美しき装丁、ペーパーはこの人の生きざま、性分をそのまま形にしたような感じでもある。本書により「郡方」なる仕事についても詳しく知ることができた
。神山藩シリーズとして続巻執筆中と聞く。期待したい。

【20】『居眠り磐音 江戸双紙 15 驟雨ノ町』 佐伯 泰英
双葉文庫 品切れ重版未定(文春文庫にて「決定版」発行中) 9月21日読了

【21】『大阪で生まれた女 たこ焼きの岸本(3)』 蓮見 恭子
ハルキ文庫 748円 10月2日読了 

【22】『香港世界』 山口 文憲
河出文庫 990円 10月13日読了
ちくま文庫版の発行から早や35年。その後、縁あって香港住まいが始まる。返還カウントダウンが本格化し始めていた頃。香港生活開始にあたって、「この本が背中を押してくれた」な~んて美談は微塵もない(笑)。その頃でさえすでに、本書がとりあげた事象
の多くが「今は昔」になっていたが、たまに「ああ、これ、文憲さんが書いてたこと!」ってのもほんの少しはあって、一々感激していたもんだ。「パジャマ娘」はいなかったが「パジャマおばちゃん」はまだ健在だったw。とにかく刻々と変わり続けるのが香港。良くも悪くも「50年不変」なんてありえないハナシだ。昨今は中央の香港政策を危惧するあまり、なんでもかんでも「中国化!」としてしまう傾向があるが、それもどうだかな~と思う。個人的には、SARSを契機に衛生観念が飛躍的に向上したのが、一番変わったと思う点。そりゃほんと、薄汚れた「ババちい」街やったもん(笑)。

【23】『三体III 死神永生 上』 劉 慈欣
早川書房 2,090円 10月17日読了
ホント、毎回とてつもないエネルギーを使う「三体」シリーズ(笑)。羅輯(ルオジー)と三体世界の交信で一見、平和裏に終わった「黒暗森林-下」だったが、それで終わるはずなく、「執剣者」交代からの手のひら返した三体側の地球制圧への猛攻に「やりやがったな!」と思いつつも、ロボット化した智子(ソフォン→ともこ)のセクシーな容姿を想像してみたり(笑)。今回の主人公というべき程心って、いともあっさりと、学生時代に自分に心を寄せていた級友を安楽死させて、脳みそだけ宇宙に「スパイ」として送り出すんだぁ、なんやこいつ!と思ってたら、終盤のラブリーな展開に、「なんや~、好きやったんか?」と(笑)。彼女も、何かとこれからの人類の生き残りへの重き使命を背負わされて、大変ではある。にしてもよ…(笑)。そして、なんとまあ、三体世界滅亡というびっくりな展開。読んでいても身震いするような、あの脅威が、こもうあっさり滅亡されても…。とにかく忙しい一冊だ。次はいよいよシリーズ、最後の最後。人類の行方やいかに!

【24】『フーガはユーガ 』 伊坂 幸太郎
実業之日本社文庫 792円 11月12日読了

【25】兄弟 上 《文革篇》』 余 華
文藝春秋 2,980円 11月27日読了
新装版というのか復刻版というのか、合本というのか…。上下巻一冊にまとまったのが、アストラハウスから先日出されたが、1000ページもある分厚さだと読むのも持ち運びも大変なんで、古書店で最初の文藝春秋版を見つけていたので、そっちで読む。物語はとにかく粗野で凄まじい。文革の描写あれこれは、そういうもんだという知識は一応あるから、さほどの驚きもないが、終始クソにまみれた展開が、いかにも中国小説らしい。肥溜めで溺死した父、息子も肥溜めに落ちて町一番の美少女のケツを拝み、登場人物は一々「クソッたれ」と言う…。主人公は因果な義兄弟。子持ちバツイチ同士の再婚ながら、一瞬幸福な時間を過ごせたが、瞬く間に文革に翻弄された両親が死に、やがて時代は改革開放の時代となり、堅い絆だったはずの義兄弟の間には恋愛をめぐって大きな溝ができてしまい…。さて、どんな結末となるのやら、さっそく下巻へ。

【26】『螢火ノ宿 ─ 居眠り磐音江戸双紙 16』 佐伯 泰英
双葉文庫 品切れ重版未定(文春文庫にて「決定版」発行中) 12月4日読了

【27】『バナナ』 獅子文六
ちくま文庫 968円 越年決定(笑)!

27冊目到達かと思いきや、12月は本読みどころでないくらい忙しくて忙しくて…。結局、文六先生の『バナナ』は越年決定。なんとか正月休み中に読み終えて、いよいよ『三体』の締めくくりへ。あのシリーズはホント、読書エネルギーをこれでもかと消費しするから、一冊読んだらもうグッタリ…。それもあってか、数は少なめだったが、非常に内容の濃い本読みができたと思う1年。振りかえれば、相変わらずジャンルも多岐に及んで、時代小説から中国SFまで色々と。前も書いたけど、文庫の古本なら100円から、たったそれだけで知らない世界へ連れてってくれるのが、読書の楽しさ。皆さんも、本を読みませう!

では、どなたさんも、

新年快樂!

よきあらたまをお過ごしくださいませ!


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