【上方芸能な日々 文楽】令和3年夏休み文楽特別公演 第一部


昨年は公演中止となった夏休み公演。今年は無事に公演されるが、日々、COVID-19の陽性確認数が増加しており、さて、千秋楽まで完走できるのやらどうやら…。まあ、週末には東京五輪も開幕する中、よもや公演中に中止とはならないだろうけど…。

さて、驚いたのが番付(公演パンフ)の一新というか、新機軸というか。とにかく小生が以前から、「サービス精神の片鱗もうかがえない」やら「欠陥商品」やらと、散々酷評し続けてきたんだが、今回はかなり力の入った出来栄えだった。カラーページの登場は、ほとんど「歴史的快挙(笑)」であり、それだけでもイメージがガラッと変わる。春に引退した簑助師匠関連で4ページ、『生写朝顔話』のストーリー展開紹介で2ページ、玉男さんのインタビューを交えた「丸銅」の解説に2ページ、そしてずっと要望してきた「使用するかしら」の写真入り紹介が1ページと、「サービス精神旺盛」な番付に生まれ変わったのだからびっくりだ。後は演目解説や床、手摺紹介のページがレイアウト工夫してくれりゃ、文句はない(笑)。お値段据え置きなのもよいねぇ。なんでもっと早いことやらんかったんよ(笑)。

という驚きの中で、この日はまずは第一部のお子さん向け舞台から観る。

人形浄瑠璃文楽
令和3年夏休み文楽特別公演 第一部

夏休み突入で、さぞかしお子達でにぎわっていることやろと思いきや、意外にも客席はシーンとしている。まだ若干の座席数制限もある上、やはりこのところの感染者数拡大傾向で、外出を控えているのだろうか…。せっかくの夏休み、毎年公演を楽しみにしているお子たちも多いのに、かわいそうな話だ…。

うつぼ猿

まず、上演前に亘太夫が出てきて、演目の「靭」について小道具使って解説。この字、大阪の人間なら読めますわな(笑)。しかし、猿もご難である。こういうのって、今の子にはピンとこないどころか、下手したら嫌悪感抱く子もおるかもな…。「親子劇場」の初っ端の演目として、どうなんかなと思う。ただ、こういうミニ解説はいい。人形だけってのもちょっとなぁではあるけど。

猿曳  大名 芳穂 太郎冠者 津國 ツレ 聖 文字栄
清友 團吾 友之助 燕二郎 清方

こういう松羽目ものは浄瑠璃聴いて、よよと涙するものでもなく、人形の動きを見ておれば筋もわかるし、筋のおかしみやバカバカしさは子供でもわかる。この話も最後は「おさるさん、よかったね~」と。本家の狂言では、猿は子方が演じるが、文楽では動物の人形では珍しく三人遣い。この日は勘介。公演後半は玉路。勘介がかわいらしく猿を遣うので、観てる方は情が入りやすい。床に目を移すと、ツレで聖太夫。今公演が初舞台。後半は同じくデビューした薫太夫が勤める。研修を修了し、聖太夫は錣太夫に、薫太夫は呂さんにそれぞれ入門。錣さんは初めての弟子やな。どんどん場数を踏ませてあげてほしい。

「解説 文楽ってなあに?」

出たぁーー!やっぱりやるか(笑)。今回も結局人形の解説だけか…。ま、時間的に仕方ないかな。簑太郎が解説。手伝いで左を和馬、足を勘昇。番付改善がようやく進み出したが、今度はこれやな(笑)。

公演直前に嬉しいニュース。桐竹勘十郎が人間国宝に。師匠の簑助、父親の二世勘十郎に続く認定。当然、簑助師匠の色を濃く受け継ぐが、時折、先代を感じることもある。先に人間国宝となった和生、同期として競いあってきた玉男とはさらに刺激し合いながら、より深い、より大きな人形の世界を作っていってほしい。長引く疫禍にあって光明の射す知らせである。

舌切雀

 昔懐かしいお話。「日本三大昔ばなし」とのことだが、あとの二つは多分、『桃太郎』と『浦島太郎』かな?作者は竹本錦太夫(生年不詳~1939)。素人浄瑠璃から出た人らしい。本作は平成14年7月に文楽劇場で子供向け新作として初演。作曲を清介が担う。

こういうのんがもらえる by “国立文楽劇場HP”

今回の上演に際し、劇場は工作のりの不易糊工業とタイアップし、「フエキくん」なるキャラクターのコラボセットをお子達にプレゼント。なかなか人気のキャラクターらしいが、小生は知らない(笑)。フエキ糊と言えば黄色い容器を思い出すが、 このフエキくんも黄色くて可愛げがあるものだった。思わず「大人やけど中身は子供同然なんで頂戴」と(笑)。まあ、『舌切雀』と言えば糊ですわな。最近はこういう昔ばなしを知らない子も多いので、そこらをどう引き付けるか。これは演じる方も美術さんも総がかりで攻めねばならんね。

婆おたけ 小住 爺善兵衛 亘 親雀
清志郎 清丈 清公 清允

碩太夫がガツンガツンくるのだが、いかんせん「親雀」という感じではなく、まだ彼の声の場合は「子雀」ってところ。語りもやや単調だったかな。でもまあ、いいでしょう。まだキャリアが始まったばかりである。その浅いキャリアでここまでやるんだー、といつも感心している。しっかりと育てていってもらいたい。

一方で、爺さんの亘は味があったし、好人物ぶりをよく表現していた。きっと彼自身も好人物なんでしょう。知らんけど。同じく婆さんの小住は、欲どおしさ全開で上々出来。彼の力なら、もう少し出来たんじゃないかとも思うが、どうでしょう…。このへんは人形とのバランスもあるかもね。

その人形、全員頭巾で遣う。婆さんを玉助、爺さんを勘市。悪役はあくまで悪役らしく、善人はあくまで善人らしく。この二人なら「いかようにもやります」というところ。婆さんに舌を切られる子雀を勘次郎。これがまあ、仕草がかわゆいったらありゃしない。婆さんが雀のお宿に来た時、親雀の羽の下で怯えいる様がよかった。親雀の紋秀も「おお、あいつにやられたんか!」って感じで子雀をしっかりカード。最後は雀の総踊りに宙乗りと「これでもか!」の波状攻撃(笑)で幕となる。

さて、『舌切り雀』と言えば、婆さんが心を入れ替えるきっかけとなる「葛籠」。葛籠を開けたら化け物が飛び出して…。今回の舞台でも、美術さん渾身の化け物が飛び出して、挙句は大谷翔平までというサービスぶり(笑)。時節柄、五輪ネタでと行きたいところだが、あそこは何かと権利がうるさいから使えないわな(笑)。

お子さん向けのわかりやすい演目ではあったけど、客席の年齢層的にはどうだったんだろう、とは思った。客席の盛り上がりに欠けたと感じたのは、客の数もさることながら、この演目を喜ぶ年齢層と実際の客席の年齢層がミスマッチしてしまったからではないかな。

(令和3年7月19日 日本橋国立文楽劇場)


マンガでわかる文楽』公益財団法人文楽協会 協力

「文楽って、難しそう…」いえいえ、そんなことはありません!男女間のゴシップから武家のお家騒動まで、人形たちが繰り広げる時代劇ミュージカル、“文楽”は共感のツボもツッコミどころも満載です!「はじめての人におすすめの演目が知りたい」という初心者さんから「歌舞伎と同じ演目なのに演出が違うなんて!」「若手技芸員さんの素顔が知りたい」というマニアの方まで楽しめる、文楽の魅力をぎゅっと凝縮した1冊です。(「BOOK」データベースより)


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