台湾巨匠傑作選2021 侯孝賢監督デビュー40周年記念
ホウ・シャオシェン大特集
「2021香港インディペンデント映画祭」が終わったと思ったら、間髪入れずに恒例の「台湾巨匠傑作選」をぶち込んでくるシネ・ヌーヴォは、なかなかわかってはると同時に、どこまでも引きずり回してくれはる(笑)。
今回は侯孝賢(ホウ・シャオシェン)の監督生活40年を記念して、侯孝賢作品がずらりとラインナップされている豪華版。台湾映画コーディネーターの江口洋子氏セレクトの5作品を含め、4週間にわたって17作品が上映される。見逃せない作品が目白押しだが、当然ながら全部というわけにはいかないけどな。
まずは「江口洋子スペシャルセレクト」の『大仏+(台:大佛普拉斯)』から。「江口洋子スペシャルセレクト」は、台湾映画コーディネーターの江口洋子氏が、この数年内に現地公開され話題を呼んだ作品で、日本未公開のものを選んで上映するという企画で、上映後にはご本人による解説が付くという企画。今年は5作品が紹介される。1回限りの上映なので見逃せない。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
江口洋子スペシャルセレクト
大仏+ 台題:大佛普拉斯
台題『大佛普拉斯』 英題『The Great Buddha+』
邦題『大仏+』
公開年 2017年 製作地 台湾
言語:台湾語、標準中国語
評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):黃信堯(ホアン・シンヤオ)
領銜主演(主演):陳竹昇(チェン・ジューシェン)、莊益增(ジュアン・イーヅァン)、戴立忍(ダイ・リーレン)、張少懷(チャン・シャオファイ)、丁國琳(ティン・クォリン)、雷婕熙(J.C)
主演(出演):陳以文(チェン・イーウェン)、納豆(ナードゥ)、林美秀(リン・メイショウ)、李永豐(リー・ヤングフェン)、游安順(ユー・アンシュン)、梁赫群(ヴィンセント・リャン)、豬頭皮(ツートウピー)、脫線、如因法師
大仏の製造工場の警備員菜脯は毎晩詰め所でテレビを見ながら監視しているが、ある大雨の日にテレビが壊れてしまい、よく遊びに来ると肚財と一緒に退屈しのぎに社長のドライブレコーダーをのぞき見る。そこにはテレビドラマよりもおもしろいライブ映像が展開しているのだった。<引用:「台湾巨匠傑作選」公式サイト作品案内>
「こりゃ、おもろいわ、それから不可思議やわ」って感じの作品。2017年、台湾でヒットしてその年の「東京国際映画祭」で上映されたが、それ以来、今日までスクリーンに登場することがなかったなんて、日本の配給会社さん、見る目がないなぁ…。金馬獎、台北電影節でそれぞれ5部門で受賞という高い評価を受けている。さあ、配給会社さん、今からでも遅くないよ、早く買い付けなさい!(笑)
監督の黃信堯(ホアン・シンヤオ)は、ドキュメンタリー映画の監督として2000年にデビューし、2011年の台北電影節で『沈ㄕㄣˇㄇㄟˊ沒之島』が「最佳紀錄片」と「百萬首獎」を受賞。この『大仏∔』は短編作品『大佛』だったが、2014年の台北電影節で上映された際に、審査員だった鍾孟宏(チョン・モンホン)監督に気に入られ、長編化を勧められた作品。鍾孟宏は本作で、プロデューサーと撮影を担当している。(撮影は中島長雄名義)
モノクロ映像とカラー映像が混在するという珍しい作品。カラー部分は、社長のドライブレコーダーに映る映像と、なぜか雑貨屋の土豆(演:納豆/ナードゥ)のミニバイクのピンク色だけ。バイクはともかくとして(笑)、ドライブレコーダーの映像だけがカラーというのが非常に効果的で、「のぞき見感」「盗み見感」を強く印象付けることに成功している。現実の世界をモノクロとし、ドライブレコーダーの世界は、主人公の菜脯(演:莊益增/ジュアン・イーヅァン)と友人の肚財(演:陳竹昇/チェン・ジューシェン)の二人とは違う世界を映す映画でも観ているような感じかな。底辺の自分たちはモノクロの世界を生き、社長は色付きの世界で生きるという、格差の象徴ということかな?
とにかくこの二人のうらぶれ具合がいい。昼間は葬式行列の楽隊で下手くそな大太鼓を叩いては他の団員から叱られ、一方で病身の母親を介護する。そして夜は仏像工場の警備員という莊益增が演じる菜脯。ゴミ拾いでギリギリの生計を立てている陳竹昇が演じる肚財。作中の二人の組み合わせ、そしてキャスティングが秀逸。ドキュメンタリー出身の監督が、あまり俳優を知らず、唯一接点のあったのが陳竹昇で、莊益增は俳優である一方でドキュメント作品の監督でもあるということから、この二人を主人公にしたとのこと。
また、仏像工場の社長役の戴立忍(レオン・ダイ)は、鍾孟宏からの強い推しがあってのこととか。なるほど、ベテランの戴立忍。普段はナイスミドルな役で人気が高い俳優だが、この作品では色々と裏がありまくりの曲者を演じていて、『君の心に刻んだ名前』とは全く違う顔を見せている。この社長、著名な芸術家であり慈善活動家でもあるんだが、よくあるケースだが、役人と金でつながっている。家族持ちである一方で、妻以外のお楽しみも持っている。そして実はカツラだ(笑)。そんな秘密は誰も知らないと思いきや、お情けで雇ってやっているしがない警備員が知ることになろうとは…。
ある日、仏教系団体「大佛山」からオーダーを受けていた大仏の首の接合なんぞを、真夜中に自分でやってしまう。そこに最大の秘密が隠されている。それを知るのは、ドライブレコーダーの映像を見てしまった菜脯と肚財の二人だった。そして肚財は謎の死を遂げる…。
大仏の出来上がりをチェックしに来た天九上人(演:如因法師)とその取り巻き。女性マネージャーは発言の度に「阿弥陀仏」と付けるのが、ツボにはまってしまった。宗派は真宗ですか?(笑)。で、この女優、林美秀(リン・メイショウ)は台湾のTVドラマでよく見る顔。表情や体形に大仏のような慈悲深さを漂わすが、表情がいかにも「宗教ビジネスで儲けてま~す」である(笑)。
さてラストシーン。信者に囲まれたいわく付きの大仏から異様な音がする。なんか小生、してやったり!な気分になったよ。『大仏+』の意味がここに!ってところ。奴らがドライブレコーダーで見た社長の秘密が…。
ロケ地の多くは台中で、その他、一部が台南、高雄らしい。のどかな風景の中で撮影された映像に、監督自ら務めたダメダメな主人公二人へ向けたきっついナレーションが、おかしみを添える。社会派サスペンスなのにどこか間抜けで、ブラックで、哀愁も漂う作品でおます。阿弥陀仏、阿弥陀仏…。
【受賞など】
■第54屆金馬獎
・最優秀新人監督賞:黃信堯(ホアン・シンヤオ)
・最優秀脚本賞:黃信堯
・最優秀撮影賞:中島長雄
・最優秀オリジナル音楽賞:林生祥
・最優秀オリジナル主題歌賞:「有無」(作詞/王昭華、作曲/林生祥、唄/林生祥)
・他5部門でノミネート
■第19屆台北電影節
・100万元大賞:《大佛普拉斯》
・最優秀長編作品賞:《大佛普拉斯》
・最優秀美術賞:趙思豪
・最優秀音楽賞:林生祥
・最優秀編集賞:賴秀雄
■第十二屆亞洲電影大獎
・最優秀音響賞:杜篤之、吳書瑤
・他3部門でノミネート
■第37屆香港電影金像獎
・最優秀中・港・台中国語作品賞:《大佛普拉斯》
【大佛普拉斯】正式預告
(令和3年6月27日 シネ・ヌーヴォ)
ラバーマスク M3 黄金仏 ¥2,530
オガワスタジオ(Ogawa Studio)
男女共用
天然ラバーの黄金仏マスクで日本製。(Amazon.com)
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まあ、こんなん被ってキャーキャー遊んでる分には罪はないよな。ぜひ!
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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