【睇戲】アチャコ青春手帖 東京篇

<アイキャッチ画像:50歳代のアチャコせんせが、白塗りと横分けと学生服で強引に大学生を演じる(笑)>

浪花の名女優 浪花千栄子

NHK朝の連続ドラマ『おちょやん』では、離婚後、芸界から身を引いていた千代が再び女優としての活動を再開したのが、ラジオドラマ『お父さんはお人好し』となっていたが、実際には『アチャコ青春手帖』が先である。浪花千栄子より年上の花菱アチャコが落第を繰り返す大学生、浪花のおかあはんはその母親役という配役。これが大ヒットして、後の『お父さんはお人好し』へとつながってゆく。この日は、ラジオドラマの「実写版」第1作となった『アチャコ青春手帖 東京篇』を観た。先日の『小早川家の秋』とは打って変わって、ドタバタコメディで、な~~~にも考えなくても笑えるのがいい(笑)。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。 

アチャコ青春手帖 東京篇

邦題『アチャコ青春手帖 東京篇』
公開年
 昭和27年(1952) 製作地 日本
製作 新東宝(児井プロ) 配給 新東宝 言語:日本語 
モノクロ

評価 — 

監督:野村浩将
脚本:山崎謙太
原作:N・H・K大阪放送局文芸部 長沖一
撮影:平野好美
音楽:服部正

出演:花菱アチャコ、古川緑波、大泉滉、木匠マユリ、堺駿二、清川玉枝、丹下キヨ子、朝雲照代、浪花千栄子、渡辺篤、小川虎之助、小倉繁、益田喜頓、大谷伶子、津路清子、加藤欣子、久保菜穗子、林ヒデ子、 藤村昌子、鈴村京子、花岡菊子、若月輝夫、松尾文人、築地博、小坂眞一、今清水基二、水城四郎、三宅実、木田愛子

【作品概要】

渋谷天外と離婚し松竹新喜劇も退団、京都で失意のうちひっそりと暮らしていた浪花だったが、52年にスタートしたNHKラジオ番組「アチャコ青春手帖」でアチャコの母親役に抜擢。やわらかい大阪弁でたちまち人気者となる。『愛染かつら』の野村浩将が映画化。4本作られた最初の1篇。50歳を過ぎたアチャコのなんとも似合わない学生姿と10歳も若い浪花のお母さんぶりが最高!!<引用:シネ・ヌーヴォ特設サイト

原作が「N・H・K大阪放送局文芸部 長沖一」となっているが、まあこれは実質、長沖一(ながおきまこと)の作品である。

かつて漫才コンビとして一世を風靡した横山エンタツ・花菱アチャコのコンビだったが、このころはすでにコンビは解消し、エンタツはNHKのラジオ番組で人気を博していた。そこへアチャコにもラジオの話が来るも、強烈なライバル意識からかなかなか首を縦に振ってくれない。その切り札としてエンタツの番組で脚本を書いていた長沖一が「本を書く」ということで、ようやくアチャコがOKしたのが、『アチャコ青春手帖』である。

人気喜劇俳優がずらりと並ぶ出演陣を見れば、どれだけ楽しい映画かは説明するまでもないだろう。

この中で、アチャコに次いで大活躍するのが大泉滉。アチャコ君とは同級のこれまた落第を繰り返す北村君、こちらは富豪の御曹司。社会になんて出なくてよろしいという方針の母親(丹下キヨ子)に守られ、悠々自適にやっている。送り迎えの自動車の運転手に堺駿二。下宿代を滞納し続けるアチャコ君の下宿の娘でバスガールの愛子(木匠マユリ)は、不憫なアチャコ君を勇気づけるなど、何かと世話を焼く。が、北村も愛子に気があって、彼女の乗務する観光バスに毎日乗って自分に向かせようとするが、愛子さんにはその気がない。この辺はもうお決まりのパターン。アチャコ君、なんとか下宿代を稼ごうとアルバイトを転々とするうちに、お母さん(浪花千栄子)が大阪からやって来て…。

いくつかのアルバイトを重ねてたどり着いたのは、社長以下全社員が女性という女性下着会社の社長秘書。ある時は社長の父、ある時は夫と、取引先相手によって変装して「ここ!」という場面で登場し、女社長の窮地を救い商談を成立させるという役目。女社長はアチャコ君の肉体に興味を持ったような一幕もあったが、アチャやん、どっからどう見ても下腹のたるみは隠せない(笑)。まあでもそこは、白塗りまでして大学生役を演じているんだから、我々は見て見ぬ振りしてあげましょ(笑)。

同様に、10歳年下の浪花のおかあはんを「お母さん!」と呼び、おかあはんは10歳上のアチャやんを「アチャコちゃん」と呼ぶ。当時の観客はこれに違和感を抱かなかったのかな?ラジオ時代、ラジオドラマの「ビジュアル化」というのはこういう、今で言えば「ギャップ」を多く生み出していたのかもしれない。ちょっと興味のあるところ。

ラストでは、お母さんの乗った汽車を北村のスポーツカーで追いかけるシーンが繰り広げられる。スピード違反で待ち構えていたパトカーのお巡りさんが「親孝行なのか?」と確認して先導してくれるとか、もう、ツッコミどころ満載なんだが、そこは娯楽、時代と割り切れば、愉快な映画であった。昭和20年代、まだまだ娯楽の少なかった時代ゆえ、シリーズ化されるほどヒットしたのも、うなづける。一言で言って「嫌味がない、罪がない」のである。そこがいい。

個人的には「伝説のアチャコ歩き」を見ることができたのは、大収穫だ(笑)。子供の頃、足がしびれたりして思わず腹の前あたりで手をぱたつかせたら親に「何をアチャコになってんねんww」って笑われたもんだが、想像はつくものの、実際に見たことないから、「あはは」としか返せなかったんだが、今回、「おお、これか!」って感じでいたく感動したのであった(笑)。

しかしまあ、平日の真昼間に補助席まで出てびっしり満員札止めの館内。朝ドラに端を発した浪花千栄子のプチ・ブームなのか、それとも懐かしいアチャコの出演作を観たいということからなのか…。とにかく皆さん、ご苦労はんですな(笑)。

(令和3年5月11日 シネ・ヌーヴォ)



 


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