【睇戲】緑の牢獄(台題:綠色牢籠)<ワールドプレミア上映>

<アイキャッチ画像>(C)2021 Moolin Films, Ltd. & Moolin Production, Co., Ltd.

第16回大阪アジアン映画祭

行ける日にできるだけ行っとかんと、平日は今回の上映時間割ではほぼ無理なんでね。ということで、この日2本目へ。と言っても、同じシネ・リーブル梅田なんですけどね(笑)。観たのは沖縄を拠点として活動する黃胤毓(黄インイク)監督待望の新作『緑の牢獄』。前作『海の彼方』(2017年大阪アジアン映画祭)に大感動した小生。「西表島の炭鉱に駆り出された台湾人の話も、いずれ世に送り出したい」と上映後の舞台挨拶で監督は語っており、今作の完成を心待ちにしていた。

特集企画《台湾:電影クラシックス、そして現在》|インディ・フォーラム部門
緑の牢獄 台題:綠色牢籠 <ワールドプレミア上映>

今作もまた「ワールドプレミア上映」である。ましてやこの回1回限りの上映。見逃してはなるものか!と、言いながらも、実は4月から全国劇場公開が始まるのだから、たとえ今回見逃しても大丈夫、ご安心をってハナシなんだが、そこはそれ、やっぱり「世界で一番最初に観たい!」ってのが人情というもんですわな。そりゃもう「世界初」って言葉の魔力には勝てませぬ。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

台題『綠色牢籠』
英題『Green Jail』

邦題『緑の牢獄』
公開年 2021年
製作地 日本・台湾・フランス

言語 閩南語、日本語
評価 ★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):黃胤毓(黄インイク)

出演:橋間良子、木村洋彦

【作品概要】

緑のジャングルに囲まれ「秘境」と呼ばれる沖縄県西表島。島には人知れず眠る巨大な「炭鉱」があった。廃坑を無秩序に覆う緑、そこを住処とするイノシシの群れ、そして廃坑を見つめる90歳の老女――橋間良子。10歳で父に台湾から連れられ、人生のほとんどをこの島で過ごした彼女は、たった一人で誰もいない家を守る。 なぜ彼女はただ一人、島に残り続けるのか……。<引用:大阪アジアン映画祭作品紹介ページ

前作の『海の彼方』に続き、日本時代の台湾から八重山諸島に渡った台湾人たちの過去、現在を地道な取材をもとに描く「狂山之海」シリーズの第二弾である。

本映画祭では「台湾映画」のカテゴリーだが、これは監督が台湾人であり、この映画の唯一と言ってよい出演者が台湾から西表に渡った台湾人だからだろう。しかし、実態はどこの国の映画という分類のできないものだった。

まず、「このおばあさん、何語で喋ってるの?」と。一応、パンフには作品の言語は閩南語、日本語とあるのでそのどっちかなんだろうけど、それにしても…、て感じ。八重山の方言と閩南語がミックスされてるのかな…。こういうときに字幕はありがたい。そのミックスされた?言葉の一つ一つに、このおばあの歩んだ人生の重さや複雑さを感じる。そんなストーリーだった。

西表は、小生も相当昔の話だが訪れたことがある。まだ20歳代だったんじゃないかな(笑)。お決まりの遊覧ボートで浦内川を上り、原生林を歩き、マリユドゥの滝を目指すってコース。まあ、感動ですな、あれ。今でも鮮明とまではいかないけど、よく覚えている。当然、その当時はここに炭鉱があり、台湾や朝鮮からも炭鉱夫が集まったなんて歴史は知る由もない。そもそも、そんなことを知ったのは、4年前の『海の彼方』の際の黄監督の舞台挨拶でのこと。つい最近のハナシだ。西表で石炭が採れたってのも意外に感じたものだ。

この作品は当たり前だが、風光明媚な西表を紹介するものではなく、まるで廃坑を掘り返すがごとく、黄監督が掘り起こした八重山の台湾人の歴史の一つである。めっちゃ地道な作業だ。これによりジャングルの中に埋もれてしまった歴史に再び光が当たるのだから、大変な功績だと思う。

さて、この「何語で喋ってんねん」なおばあ、日本名で橋間良子さんは、16歳で養父に連れられて西表に来た。苦難の歴史の始まりなわけだが、それは単におばあ個人の歴史にとどまらず、西表島に暗くのしかかるほとんどスポットを浴びることのなかった歴史でもある。とりわけ西表炭鉱に関しては、観光の島・西表島からは全く想像のつかない、暗く複雑な重たすぎる歴史があったのを、おばあの話や時折挟み込まれる古い写真などで、初めて知ることになる。

(C)2021 Moolin Films, Ltd. & Moolin Production, Co., Ltd.

おばあは「誰も来たがらない、死人の島」だった語る。11歳というこれから娘盛りを迎えようとする年頃に島に来たがため、小学校にも通えず「炭鉱蛮人」と蔑まれた少女時代。そんな少女が目にした炭鉱の現実は悲惨なもので、過酷な労働と熱帯雨林特有のマラリアにより、多くの炭鉱夫が次々と命を落としていった。そんな毎日は小学校高学年の少女の目に、どう映ったのか…。この辺は、この後に観る短編『草原の焔』で再現されている。

「昔の話は忘れた」と語りたがらないおばあだが、結構色々と話してくれたんじゃないだろうか。だからこそのこの力作である。というか、おばあの言葉一言一言が、強烈な気を放っているように感じた。おばあの養父は、労働者の斡旋や管理をしていた炭鉱の親方だったこともあり、余計に重たいものを背負って生きてきたのだろう…。

戦後、炭鉱は廃坑になり、やがてその存在すらも忘れられてしまう。おばあも二人の子宝に恵まれるが、今は音信不通になったままだ。『海の彼方』同様に八重山移住台湾人の「家族の物語」であっても、『海の彼方』が血族の強い絆を描くのとはまったく逆の、ひたすら孤独な「家族の物語」であった。

黄監督が橋間おばあと出会ったのは2014年のことだったと言う。それから7年の歳月を費やし、今回ようやく公開の運びとなったわけだが、すでにおばあはあっちの世界に旅立った。隣家の米国人の若者ルイスも今は関西在住だという。作品にまつわるあれこれは、黄監督インタビューに詳しい。

このルイスも「日本的なるもの」に惹かれ、母国を捨て日本に移住してきたらしいのだが、この男の言葉が、おばあの言葉に比べて軽すぎる。そりゃ彼も相当な決心で日本へ来たんだろうけど、どうにも「お前、世の中舐めてないか?」と聞きたいくらいに…。

(C)2021 Moolin Films, Ltd. & Moolin Production, Co., Ltd.

4月には全国で上映が始まる。大阪ではナナゲイ(第七藝術劇場)で4月24日から。もう一度観てみようと思う。さらに同タイトルの本も出版されるとのことで、こちらもぜひ読んでおきたい。ちなみに本作は、企画段階ですでに「ベルリン国際映画祭」、「ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭」の企画部門に入選という高い評価を受けている。

映画にひたすら娯楽性を求めたい人に特にはお薦めはしないけど、昨今急増中の「にわか台湾マニア」な人には、おばあの背負う「台湾アイデンティティ」を感じて欲しいなとは思うな。ま、そういう人は興味ない話だろうけど…。

映画『緑の牢獄』予告編

(令和3年3月6日 シネ・リーブル梅田)


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