【睇戲】『イップ・マン 完結』(港題=葉問4:完結篇)

万感の思いを胸に、「葉問」シリーズ完結編を観た。

一作目『イップ・マン 序章(港・葉問)』を観たのは、まだ香港在中だった2008年のこと。あれから12年の月日が流れ、ついに最終となる第四作目を迎えた。李小龍(ブルース・リー)に惹かれ、香港映画の存在を知ったのが小学4年生のころ。40数年たった今もこうして香港映画を観ては、あーだこーだとほざいている。その源流こそ功夫片(カンフー映画)。最近は功夫片の制作本数がめっきり減ってしまったが、「葉問」シリーズは観るたびに、李小龍にワクワクしていた少年の心をよみがえらせてくれた。そんなシリーズとのお別れとなる作品、万感の思いを抱かぬはずがない。

イップ・マン 完結 港題=葉問4:完結篇

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

港題 『葉問4:完結篇』
英題 『Ip Man 4: The Finale』
邦題 『イップ・マン 完結』
公開年 2019年 製作地 香港
言語 広東語、標準中国語、英語
評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):葉偉信(ウイルソン・イップ)
監制(制作):黄百鳴(レイモンド・ウォン)、甄子丹(ドニー・イェン)、葉偉信
編劇(脚本):黃子桓(エドモンド・ウォン)、深沢寬、陳大利(チェン・タイリー)、梁禮彥(ジル・レオン)
動作指導(アクション監督):袁和平(ユエン・ウーピン)
配樂(音楽):川井憲次

領銜主演(主演):甄子丹、吳樾(ウー・ユエ)、吳建豪(ヴァネス・ウー)、Scott Adkins(スコット・アドキンス)
主演(出演):鄭則士(ケント・チェン)、陳國坤(チャン・クォックワン)、敖嘉年(ピーター・ヌゴ)、Chris Collins(クリス・コリンズ)
特別介紹(イチ押し新人):李宛妲(ヴァンダ・マーグラフ)

李小龍(演:陳國坤/チャン・クォックワン)が師匠の葉問(演:甄子丹/ドニー・イェン)の葬儀の場に姿を現し、葉問全四作の幕は下ろされた。

シリーズ全作すべてそうだが、葉問の実子である葉正葉準に聞き取りを行い、詠春拳の指導も受けてきた、史実をわきまえた作品ではあるが、ストーリーの幅を広げることでより明確な葉問像を創出していくことに成功している。これは決して事実の歪曲ではない。事実をありのままに伝えるのであれば、それは歴史ドキュメントの役目であり、娯楽映画作品に求められるものではない。このへんの匙加減のうまさが、このシリーズをここまでの人気シリーズにした要因の一つだ。

この葬儀の場面も、実際には李小龍は参列できなかったのだが、シリーズの幕としては、だれもが納得の最高のシーンだった。二作目のラストシーンで、屈託のない元気な少年が葉問のもとに弟子入り志願してきた。その表情、仕草からだれもが少年時代の李小龍とわかった。観客は子弟の物語の始まりを予感し、期待した。今作では米国で大スターへの道を着実に歩む李小龍の活躍が描かれ、あの少年がここまでになったかと、感激する小生のような観客も多かっただろう。それだけに今作のラストは、胸にぐっとこみ上げるものを抑えることはできなかった。四作品に携わったすべての人たちへ拍手喝さいを送りたい場面だった。特に地球上すべての「1963年7月27日生まれ」の代表、甄子丹には最大級の賛辞を贈りたい。(何度も恐縮だが、小生と同じ生年月日なのだ、ドニー君はw)

喉頭癌が発覚し、自分の命も遠からず最期を迎えることを悟る葉問。「今も昔もかわらんな~」と実感する、有色人種への白人の差別主義に立ち向かう葉問。反抗期を迎え、父である葉問と反目し、学校でも問題児の次男・葉正。その次男の留学先の下見に訪れた葉問と、サンフランシスコのチャイナタウンを取り仕切る中国拳法各流派の達人たちとの反目、そしてお互いの理解……などなど、いくつかのストーリーをうまくシンクロさせながら展開してゆくのが、今作。

やはり注目は葉問の詠春拳。

まずはシスコのチャイナタウンの総元締め「舊金山唐人街中華總會」へ挨拶に向かった葉問。待ち受けるは会長で太極拳師傅である萬宗華(演:吳樾/ウー・ユエ)との対決。李小龍が欧米人にも中国武術をコーチしているのが気に入らない、ついては師であるあなたから厳しく注意するようにとの忠告…。穏やかな表情ながら理路整然と反論する葉問とのにらみ合い…。ピリピリする場の空気…。円卓のガラス板もヒビが入って…。

その数日後、再び相まみえる両雄。詠春拳vs太極拳。まったく動きのリズムが違う拳法の激突だったが、これはなかなかの見ごたえ。日本では太極拳は健康体操みたいにとらえられているが、あの球体を大きく包み込むような動作を相手に向かって繰り出すと、どうなるか?間違っても試しに弟とかに攻撃しないように…。大けがさせてしまうよ(笑)。というほどの迫力だ。なんだか谷垣健ちゃんの著書のような、大掛かりな読み物になっている本作のパンフレットで、健ちゃんいわく「吳樾、本物だけが醸し出せる出立ち」。いやほんとその通り。もはや詠春拳vs太極拳を超越した「宇宙最強の男」甄子丹vs「中国武術最高ランク<武英級>」吳樾による風格のぶつかり合い!

チャイナタウンの中秋節に「道場破り」のごとく乱入した、米軍空手の強豪・コリン(クリス・コリンズ)は中華總會の師匠連を次々となぎ倒してゆく。黙ってられない葉問、詠春拳でコリンを返り討ちに!盛り上がる群衆の中に、溜飲の下がる思いで興奮を隠せない、軍の訓練に中国拳法を採り入れようと奮闘する吳赫文(演:吳建豪/ヴァネス・ウー)の姿も。「うん?初めてお目にかかります?いや待てよ…。軍曹役なので坊主頭だけど…。どっかで見てる…」と、その切れ長の目を色々と思い出していたら…。「おう!『流星花園』やん!F4の一人やん!」と、思い出す。なかなか凛々しいではないか!

やっぱこの目はF4だよ!(笑)

葉問、最後の大勝負は米軍基地に乗り込んで、アメリカで虐げられる中国人の、有色人種の尊厳をかけた闘い!さすがの葉問も、末期癌を患った身の上とあっては、やられてしまうだろう…。そこで弟子の李小龍が助っ人に現れて…、なんてことをちょっと予想した俺がバカでした、葉師傅!謝ります!結果は観てのお楽しみに!

やっぱり葉問は強かった!

葉問葬儀の場面の前のシーン。

木人椿相手に稽古する息子の葉正に向かって、映像に撮っておくようにと言い、自ら木人椿で稽古を始めた葉問…。詠春拳が次代へと受け継がれるシーンに、李小龍からスタートした功夫片ファンは胸が熱くなるのであった。

そして冒頭で記した葬儀の場面へ画面はさっと転換する。

綿密に組み立てられたストーリー展開はこのシリーズの魅力。脚本、映像、音楽、衣装、セット、そして観る者の眼を釘付けにする功夫アクション。非常に完成度の高い作品群だった。なかなかこういう作品には巡り合えないもの。香港映画見続けてきてよかった。心底そう思えるシリーズだった。

本来なら5月から公開のところ、2か月ずれたけど、来年に公開延期となった作品も少なくない中、意外にも早く見ることができてよかった。しかし、この2か月のずれこみはシネマートさん手作りの木人椿を相当へばらせてしまった模様(笑)。

余談ながら…。上映時間105分は頻尿男子wにはきつかった(笑)。上映開始前に済ませていたので「今回は大丈夫!」と思いきや、90分ごろに我慢ならず約3分中座。戻れば、息子の葉正が泣きながら米国からの葉問の国際電話に受け答えしている。何があったのだ、放尿の間に!そんな塩梅なもんで、もう1回観たい!(笑)

《葉問4:完結篇》最後一戰

(令和2年7月13日 シネマート心斎橋)



 


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