第15回大阪アジアン映画祭
あっと言う間に、最後の2日間となった第15回大阪アジアン映画祭。この2日間で6本観るのだが、ただ座ってるだけならあと10本くらい観ることはできる。が、そうなると頭の中の「体力」がもたない。2日間で6本が限界だろう。特にこの6本の中には「今回、これは絶対外せない!」という作品も含まれているので、肉体的にも頭の中も体力温存した状態でいたいとうもの。
まず最初の1本目が、今回の上映作品の中で「これは絶対外せない!」と思っていた人が一番多かったんじゃないだろうかという話題作『少年の君』。昨今の社会情勢の影響で、空席も目立った今回の大阪アジアン映画祭にあって、2回の上映がいずれも「Sold Out」となったのは、期待の表れ。小生も、昨年秋に大陸で劇場公開された際の反響の大きさから、「是非、来年の大阪アジアン映画祭でやってくれ!」って思っていたら…。やってくれはりますねん、これが(笑)。
午前10時半の上映ってのが、朝の弱い小生にとっては拷問同然の時間帯だが、がんばってABCホールまでたどり着いたで(笑)。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
コンペティション部門|Special Focus on Hong Kong 2020
少年の君 港題=少年的你 <日本プレミア上映>
港題『少年的你』
英題『Better Days』
邦題『少年の君』
公開年:2019年 製作地:中国・香港
言語:標準中国語
評価:★★★★★
原著(原作):『少年的你,如此美丽』(玖月晞)
導演(監督):曾國祥(デレク・ツァン)
領銜主演(主演):周冬雨(ジョウ・ドンユー)、易烊千璽(ジャクソン・イー)
主演(出演):尹昉(ファン・イン)、黄覺(ホアン・ジュエ)、吳越(ウ―・ユエ)、周也(ジョウ・イエ)、張耀(ガラ・チャン)、張藝凡、超潤南(チャオ・ルンナン)、郜玄銘
なんかもう、大変な映画でしたな…。
学校でのいじめ問題は、日本だけのことではなく、世界的な問題。特にネット社会の現代はSNSがいじめのツールとして欠かせない。我々世代の思い描くいじめとは、根本的に違うものとなっていると断言できる。小生らの年代にももちろん、いじめはあったけど、もっとカラッとしたもんだったように思う。もっとも、小生がそういう経験を被害者としても加害者としてもしてないだけの話なのかもしれいが…。
この映画は、学校でのいじめ問題に真っ向から向き合うと同時に、過熱化する受験戦争、貧困問題といった、中国社会が抱える問題も描かれ、社会の問題に一声発するような作品でもある。監督は『七月と安生(港=七月與安生)』の曾國祥(デレク・ツァン)。曾志偉(エリック・ツァン)の息子。『七月與安生』は小生にはまったくわからん内容だったが、今回はどうなのか?期待値が高いだけに、ずっこけないことを祈りつつ、スクリーンと向き合う。
【あらすじ】
内向的な優等生ニエン(周冬雨/ジョウ・ドンユー)は、同級生たちから凄惨ないじめを受けている。ある夜、不良少年の喧嘩に巻き込まれたことからシャオベイ(易烊千璽/ジャクソン・イー)と知り合う。優等生と不良少年という対極的な二人が、複雑な家庭環境で寂しい思いを抱えたまま孤独に生きるお互いを知るにつれて心寄り添っていく。……。<引用:第15回大阪アジアン映画祭「少年の君」作品解説>
始まりは、子供たちに英語を教える女性教師(演:周冬雨/ジョウ・ドンユー)。無表情なのが気になる。やたらと「ここは楽園です。楽しいところです」をリピートさせるのもまた、気になる。そして、彼女のここまでのドラマが幕を開ける…。
「安橋」という都市が舞台になっているが、撮影地は多分、重慶だろう。
高考(全国統一試験=大学入試への最初の難関)を控えた高校での、女子生徒飛び降り自殺という気の重くなるシーンが、彼女のドラマの幕開け。生徒たちがスマホで写真を撮りまくる中で、一人だけ遺体にそっと上着を着せてやったことで、陳念(=ニエン・演:周冬雨/ジョウ・ドンユー)へのいじめが始まる。自殺の原因がいじめだったのだけど、こうしていじめは連鎖してゆくんだな、今の子はみんな大変やなって、感心してる場合ちゃうで、おっさん!というような展開が繰り広げられてゆくことになる。
このいじめの「統括」をしていたのが、女子生徒3人組。中でもリーダー格の魏莱(演:周也/ジョウ・イエ)はひどい女だが、なかなかのお顔である(笑)。成績優秀なええとこのお嬢さんで、陳念と成績を競っている。
知ってる人は「ああ、そらそうやな」と笑うだろうけど、なんしょ、小生はこの手のお顔が大好きである(笑)。「くっそ、こいつ腹立つわー!」と思いながらも、「もっと映して!」と思ってスクリーンにくぎ付けとなったのだから、世話ないわな(笑)。まあ、この子も最後には殺されてしまうねんけど。
いじめの原因には、陳念の内向的すぎる性格と優秀な成績があるのは、観ていてよくわかるのだが、その要因は家庭にあり、ってのも、洋の東西を問わずよくある話のようで、陳念の母親(演:吳越/ウ―・ユエ)は有問題な母親だ。粗悪な美顔薬を通信販売して儲けているのだが、それは娘を一流大学へ進学させたい一心からのこと。ただし、粗悪品だ。クレームの嵐、借金の山となり、町中には「こいつ悪いヤツですよ!」ってなビラが貼りまくられ、またこの写真がSNSで学校中に知れ渡り、いじめが増幅するという悪循環に…。こうした家庭環境が陳念をより内向的にし、母親や町や学校から早く脱出して、自由な大学生活を謳歌したい思いから、学業に励んだ結果の成績優秀…。うまいこといかんもんですな、世の中は。
そこで、陳念は不良の喧嘩に巻き込まれたときに知り合った小北(=シャオベイ・演:易烊千璽/ジャクソン・イー)にボディーガードになってくれるよう頼むという流れ。こうして優等生と不良という、まるで1970年代の日本の少女漫画のようなストーリーも始まるという次第で、小生、そういうの大好きなんで、この時点でかなり引き込まれてしまったよ(笑)。
この易烊千璽(ジャクソン・イー)なる若いアンちゃんの演技が素晴らしかった。若さを画面いっぱいにぶつけてくるような勢いがあり、非常に魅力的。アイドルグループ「TFBOYS」のメンバー。
いま、中国は空前のアイドルブームで、コンテスト番組を何週も勝ち越した「優等生」のみが生き残れる過酷な競争の構図がある。さらには若者への影響力の大きさから、常に若者の「模範生」としての行動が求められる。易烊千璽は芸事ならなんでもこなす万能青年で、若者への影響力が最も大きい芸能人の一人とされている。そんな「超優等生」が不良の中の不良と言える小北を見事に演じきっていて、いやはや…ってところだ(笑)。
いじめが始まってからわずか数日間の出来事だったが、非常に内容が濃く、中国社会の暗部をあぶりだしたような「問題提起」が随所に見られた。これが公開されたんだから、隣国も変わってきたもんだ。と、思いきや…。
『少年の君』は2019年ベルリン国際映画祭でワールドプレミア上映の予定だったが、中国作品でよくある「技術上の問題」が生じて突如上映中止。中国国内での劇場公開も3日前に突然の中止となる。半年後、ようやく公開され、大ヒットを記録するに至る。
おそらく「技術上の問題」の解消として、作品の最初と最後に、政府はいじめの問題を重視しており、いじめ防止法を成立さるなどして、問題に向き合っている旨の「但し書き」が添えられたのだろう。特にエンディングは「優等生アイドル」としての易烊千璽(ジャクソン・イー)が素顔で、政府の取り組みを紹介し、「いじめはアカン!」と語りかけるのだが、映画の余韻が一気に醒めてしまう。面倒くさい国だなと思うと同時に、作品の描く世界がそれだけ生々しいものだったということだろう。
過酷なヒロイン役を演じた周冬雨(ジョウ・ドンユー)は、撮影当時は27才だったが、違和感なく高校生を演じていた。挙句は丸坊主になってしまうのだから、女優根性も座っている。『七月と安生』を観たときは、その役どころもあってか、いまひとつ好きなれないタイプの女優だったが、今回はその力量の高さに降参したというところだ。
全体として、カメラ―ワークの上手さや光の使い方の上手さが際立つ作品でもあった。それゆえに、リアリティー感あふれる緊張した目の離せない、隙のない映像にひきつけられた。
《2019年》
■第4回マカオ国際映画祭
「新作中国語作品部門最優秀主演女優賞」受賞=周冬雨
《2020年》
■第26屆香港電影評論學會大獎
「推薦作品賞」受賞
「最優秀監督賞」受賞=曾國祥
以下ノミネート「最優秀作品賞」、「最優秀脚本賞」、「最優秀主演男優賞:易烊千璽」、「最優秀主演女優賞:周冬雨」
■第14屆香港電影導演會年度大獎
「最優秀監督賞」受賞=曾國祥
「最優秀主演女優賞」受賞=周冬雨
「最優秀作品賞」受賞
■第39屆香港電影金像獎 +すべてノミネート、結果待ち
「最優秀作品賞」、「最優秀監督賞:曾國祥」、「最優秀脚本賞:林詠琛、李媛、許伊萌」、「最優秀主演男優賞:易烊千璽」、「最優秀新人俳優賞:易烊千璽」、「最優秀主演女優賞:周冬雨」、「最優秀撮影賞:余靜萍」、「最優秀編集賞: 張一博」、「最優秀美術指導賞:梁鴻鵠」、「最優秀メークアップ&衣装デザイン賞:吳里璐」、「最優秀オリジナルサウンドトラック賞:貝爾」、「最優秀主題歌賞」 前12部門ノミネート
■香港電影編劇家協會大奬2020 +すべてノミネート、結果待ち
「2020年度推薦シナリオ賞」、「2020年度最優秀キャスト賞:周冬雨」
【正式預告】《少年的你》Better Days
(令和2年3月14日 ABCホール)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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