【上方芸能な日々 文楽】令和最初の文楽若手会

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場35周年記念 文楽既成者研修発表会
文楽若手会

いにしへの しづのをだまき 繰りかへし 昔を今に なすよしもがな
『伊勢物語第三十二段』

しづやしづ しづのをだまき くり返し 昔を今に なすよしもがな
『吾妻鏡』

伊勢物語の有名な古歌を踏まえて、鶴岡八幡宮で頼朝の命により、白拍子を舞わされた静御前が、義経への思いを詠んで頼朝激怒、という二首目。奇しくも今年の「文楽若手会」は、「苧環」と「義経」の物語となっている。別に狙ったわけじゃないだろうけど(笑)。(狙ったのは小生かww)

ところでだ。

いつの間にか、開始当時のような「香港ネタ専門ブログ」になっている拙ブログだが、香港ネタ以外にストックしているネタもあるわけで、なかなかそれをアップする時間が無いというのが実情。何か上げようと思ったら、香港で次の動きがあって、前に進まない。あちらさんも、ひとまず落ち着いたので(実際にはまったく落ち着いていないが…)、ここらで溜めていたネタも上げておかないと、多芸多才ぶりを発揮できないから(笑)。

で、まずは文楽である。

4月公演と夏休み公演の間に、「文楽鑑賞教室」、「文楽若手会」があって、特に「若手会」は日ごろはやらせてもらえない大きい役どころを、若手がどうこなしてゆくかが、見どころ聴きどころ。何と言っても、お値段が非常にお安いのが大変よろしい(笑)。てなわけで、意外にも鑑賞教室よりもこっちの方が「入門編」として、初心者にもとっつきやすいと思う。

今回は『義経千本桜』から、いがみの権太の物語を、そして『妹背山婦女庭訓』から道行の場面を。

義経千本桜

椎の木の段

 碩 清允
 咲寿 友之助

碩については、色んな人があちこちで褒めちぎるので、あえて小生はコメントしないが、まあホント、「よく文楽の世界に飛び込んで下さいました!」というところだ。

咲寿にもそんな初々しいころがあったのだが、もうそれなりに年数も積んだ今、それをいつまでも売りにしているわけにはいかない。と思っていたら「あれ、今日は声がやけにざらついてるな」と感じる。風邪ひいてしまったのか、はたまた「太夫の変声期」なのか。後者であるなら非常に良い兆しだと思う。本人自ら、SNSでそうである旨述べていた。さらに一段上を目指すとき、この「太夫の変声期」は誰もが通る道。その期間は人により様々だが、新しい咲寿に期待したい。

小金吾討死の段

小住 錦吾

「お、結構やるやん!」という思いと「うーん、何か物足らん」という思いが行ったり来たりの小住であったが、この辺が大きな場面の難しいところであり、若手会の聴きどころでもある。でもまあ、若手と呼ばれるグループにあっては、この数年で一番伸びたのが小住なのは、誰もが認めるところ。今は呂さんの指導を受けている。両師匠のよいところをしっかり吸収して、ますますスケールの大きな太夫になってほしい。

すしやの段

 芳穂 清馗
 靖 寛太郎
 亘 清公

めまぐるしく物語が展開する場面を、嶋さん一門の若手2トップと亘で締める。なかなか良い流れ。「もう、芳穂も靖も“若手”から卒業させなさい!」と、劇場に進言したいくらい充実している。三味線も寛太郎は申すまでもなく、清馗も清公も、健闘している。特に、清馗が一つ段階踏んだなと、この数公演感じさせる。

それにしても、寛太郎のビシバシ感はすごいなあと思う。ずいぶん前の話になるが、入門当時の彼を追ったNHKのドキュメントを、たまたまの帰国時に見た。あのときの幼い「寛治師匠のお孫さん」が、ここまでの三味線弾きになるとはなあ…。血筋とは言え、文楽のために生まれてきたような子だな…。

人形は陣容が揃っている。時に「お、ここまでのことができるんか!」と、驚かされることもあるが、今回はそこまでの者はいなかったが、それぞれが持てるもの以上のことを出しているのがよく伝わる。権太の玉勢、小金吾の玉翔、若葉の内侍の勘次郎が印象に残った。特に玉勢は権太の人間性がよく伝わる遣いようで、彼もまた若手卒業でお願いしたい一人である。

妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)

道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)

お三輪 希
橘姫 咲寿
求馬 小住  碩
清丈 燕二郎 清允 錦吾

道行なんで、人形を楽しんでおればいいのだが、文楽は「聴きに行くもの」と思っている小生としては、床に目が行ってしまう。それぞれが目いっぱい以上のことをやっていたんだと思うが、なんかしっくりこなかった。配役的には悪くないと思うのだが、なかなか難しいね、この道行は。その分、三味線がよく鳴らせていた。

肝心の人形は、紋臣のお三輪は安定感があったが、蓑太郎の橘姫、玉誉の求馬は「もうちょっと」ってところだった。ただ、こういうのって、この二人に限らず、「明日見たら全然違う!めっちゃ修正してる!」ってことが、若手の場合、往々にしてあるからねぇ。だからLIVEはおもろい、そして怖い。

☆彡

毎年楽しみにしてる「若手会」。ここで「おおおお!」と思った人が、一気に伸びてゆくってのを、過去に何人か見ているので、一人ひとりが見逃せないし聞き逃せない。やる方も気合十分で臨んでくるから、自然と舞台と客席がスイングする。ある意味、理想の舞台。毎年記しているが、2日で2公演というのがもったいない。せめて初日の土曜日は2公演にできないかな…。若手よ、しんどいか?

(令和元年6月22日 日本橋国立文楽劇場)



 


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