【上方芸能な日々 浪曲】浪曲名人会

浪曲
国立文楽劇場第170回大衆芸能公演 浪曲名人会

巡業や咳をおさへて踏む舞台 寿々木米若

寿々木米若は、戦前、戦後の浪曲界のトップに立っていた人である。その人気は広沢虎造を凌ぐとも言われ、長年、浪曲協会会長も務めた。十八番は自作の「佐渡情話」。俳句は高浜虚子に師事している。かつて、浪曲師が全国を巡業して食いつないでいた時代を想起させる一句である。その時代を知る人は、今回の出演者では、小圓嬢師匠だけだろう。

ってわけで、今年もお楽しみの「浪曲名人会」である。

昨年は「あなた好みの十八番」と銘打ち、各出演者に用意された三題の中から、ご見物の要望の高かった演目を口演するという趣向だったが、あれよかったのに、今回は普通に戻しはった(笑)。

進行役も「はやと・こうた」って昔の漫才さんみたいな(笑)、真山隼人&京山幸太から、春野恵子一人に。ってことで、恵子さん、口演での出番は無し。ちょっとつまんない…。その代り、ってこともないんやろうけど、待ってました! 隼人とまどかがラインナップに加わる。ずーーーーっと、「若い人も順番に出してあげたらええのに」と思っていたが、ようやくですな。これは大変好ましいことだ。ぜひ、来年以降も継続してもらいたい。

<本日の演題>

「鳥羽の恋塚」 真山隼人 曲師・沢村さくら
「稲むらの火」 菊池まどか 曲師・虹友美
「秋田蕗」 松浦四郎若 曲師・虹友美
 (仲入り)
「大石妻子の別れ」 真山一郎 オペレーター・真山幸美
「東雲座」 京山小圓嬢 曲師・沢村さくら
「尾張大八」 京山幸枝若 曲師・一風亭初月

進行役:春野恵子

当日券も若干出ていたようだが、ぐるっと見渡せば、きっちり満員。文楽公演以上に高齢者の熱気が充満する客席(笑)。とは言え、これくらい年齢を重ねたからこそわかること、っていうのが浪曲にはあるよな…。そういう意味では、小生なんかはまだまだ洟垂れ小僧である。

さて、若手のトップバッターは、すっかり三味線伴奏での口演が板についた隼人。だがそこは、前の師匠である一郎師の元で磨いた、朗々と歌い上げるよく通る声は、さすがの真山一門のDNA。2年前の「浪曲錬声会」で聴いたときよりも磨きがかかった『鳥羽の恋塚』は、ご存じ、袈裟御前の悲哀と言うか、良妻ぶりというか、或いはハッと我に返った盛遠の潔さと言うか…。そういうあれやこれやをたっぷりと、汗を拭き拭きの大熱演。これこそ、文化庁芸術祭新人賞の貫録。さらなる飛躍が大いに期待できる!

歌謡曲の世界を経験し、かなり大人な感じになった気がするまどか。また、浪曲に戻ってきてくれてありがとう! 「防災浪曲」として、この『稲むらの火』を各地の小中高で口演しているという。この元となった話は、3.11でにわかに全国的に注目されることとなったが、さかのぼれば、小泉八雲が紹介した話なので、ずいぶん昔から知られてはいた。こうして、浪曲という形にして、誰にでもわかるように伝えていくという大きな使命を、自ら背負う姿勢が素晴らしい。今回の公演で、一番胸にしみた演題。そこはまどかの実力あってのこと。

ここから、「名人」たちが登場する。中入前は、人となりがそのまま芸風に顕れているのが、よくわかる四郎若師匠で。口演演目もそんな感じのものが多く、今回の金襖物『秋田蕗』もその一つ。結末のスッキリ感が中入前にふさわしい。この人に、ドロドロとしたストーリーは似合わないし、この手のお話を爽快に聴かせてもらえるのが、心地よい。また四郎若師匠にとっては、昭和46年の初舞台で演じたのが『秋田蕗』だったとかで、「平成最後」の浪曲名人会にふさわしい演題とも感じられた。

MCの春野恵子、各人の登場前に、演者と演目の紹介。次の一郎師、『大石妻子の別れ』にあたり、文楽公演で4月、7月、11月の3回に分けて『仮名手本忠臣蔵』やりますよ、と宣伝(笑)。

中入後、最初の舞台は一郎師匠。純白の衣装に岸和田だんじりをあしらった真紅のテーブル掛けという、きらびやかな色合わせが、いかにも真山一郎の舞台。お客もこういうのを楽しみにしている。90歳の先代一郎師匠もお元気だとのこと。そうやって先代の話題になると「目ぇがウルウルしてきますねん」と言う、師匠思いの当代。おなじみ「歌謡浪曲」で『大石妻子の別れ』を、声高らかに歌い上げる気持ちの良さがたまらない。

続いて大ベテラン、女流浪曲現役最高齢の小圓嬢師匠。まどかによれば、「私の師匠は、来月で米寿を迎えます」とのことだが、「それ、ウソでしょ?」と疑いたくなるような声量で、物語をグイグイと進めていく姿が、なんともうれしくてたまらない。「任侠物」と「芸道物」がほどよくミックスされた『東雲座』。任侠が「イイ人」だった時代の話だが、任侠でなくてもこのごろは、こんなよくできた物わかりのいい人は、まず、いない。だからかもしれないが、最後に結構ウルッときてしまう。

大トリはもちろん、皆様お待ちかねの幸枝若師匠で。客席にうなりを起こさせる「幸枝若節」で『尾張大八』。登場前に恵子曰く「登場人物が多く、非常に長いお話なんですが、さあて、今日はどこまでお聞きいただけますかね(笑)」。ってわけで、さあ、これからというところで、これまたおなじみ「今日も時間となりましたぁ~」と来るから、また、ここで客席が大きくうねる。「アホでバカの大八」と呼ばれる庄屋の息子の描き方は、この師匠ならではのもの。この息子の「本性」がわかり、これから大立ち回り…やねんけど(笑)。

☆☆☆

若手が二人抜擢されたことで、次の時代への明るい展望も見せた今回の「浪曲名人会」。一方で、ますます高齢化が進む客席。ポツポツと若い人もいることはいるが…。入門者の確保、若手の育成は、芸人側だけのことではない。客席にもそれは言える。さてさて、どないしたもんでしょうな…。

(平成31年2月23日 日本橋国立文楽劇場)



 


コメントを残す