台北暮色 台題=強尼·凱克
台湾とはずいぶんご無沙汰だ。
香港在住中は、公私にかかわらず、しょっちゅう出かけていたのに。まあ、仕方ない。香港~台北はわずか1時間程度のフライトだ。感覚的には、東京~大阪のような感じだから、「ちょっと週末は台北へ」なんて気軽にできたから。そもそも、ガヤガヤと騒々しい香港よりも、大都会だけど、なんとなくのんびり感がある台北の方が好きだった。台北以外の都市へ足を伸ばすようになってからは、ますます台湾にぞっこんとなった。理由は色々あるけど、「香港に疲れたら台湾に癒されに行く」という感じかな。
帰国した今は、そう簡単にはいかない。実際の距離以上の距離感を感じてしまう。なんか寂しい…。それを少しでも紛らわすために、台湾の映画を観るんだが、このところの「青春回帰ブーム」には、やや辟易し始めたところに、「ほな、これでどないよ!」と来たのが、今回観た『台北暮色』だ。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
台題 『強尼·凱克』
英題 『Missing Johnny』
邦題 『台北暮色』
製作年 2017年
製作地 台湾
言語 台湾語、標準中国語
評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督): 黃熙(ホアン・シー)
監製(製作総指揮):侯孝賢(ホー・シャオシェン)
日本公開版エンディング曲:「Silent Wonderland」Nulbarich
領銜主演(主演): 柯宇綸(クー・ユールン)、瑞瑪席丹(リマ・ジタン)、黃遠(ホアン・ユエン)
演員(出演):黃韻玲(カイ・ハン)、唐治平(タン・ジーピン)、張國柱(チャン・クォチュー)、鮑正芳(パオ・チェン・ファング)、高捷(ジャック・カオ)
*以下に少しネタバレあり。これから観る人はスルーしてね*
【甘口評】
何のことはない。3人の男女の日常を描写した映画である。これと言って抑揚もなく、クライマックシーンもなく、人によっては「何?これで終わり」と感じるかもしれない。でも、小生は、そこから色んなことを感じ取ることができた。
3人の共通点は、敢えて言えば、それぞれ「ワケあり」。ただ、その「ワケ」は、別段、現代社会では珍しいことでもなければ、決して悪いことをしでかしているわけでもない。もしかしたら、それは「明日の自分」の姿なのかもしれない。激しく共感することもないが、「ああ、まあ、そうやよな…」という思いには至る。その加減が上手いのだ、この監督は。
侯孝賢(ホー・シャオシェン)のイチオシの若手監督だという。そして侯孝賢は彼女に「楊德昌(エドワード・ヤン)を見た」と言う。確かに、光の使い方が似ている。ただ、黃熙(ホアン・シー)は「実は、(楊德昌の代表作)『台北ストーリー』を観たことがなかった」と言うので、意識してのものではないのだろう。きっと、台北という街を描くと、こうなるんだろう。
主役3人の自然体の演技が、観る者を「日常の台北」にいざなってくれる。アスペルガー症候群のリーを演じた黃遠(ホアン・ユエン)は、この障害を実際によく理解して演じていたんだろうと思う。「作った」感じがまったくなく、まるで彼の「素」の姿を観ているようだった。
車で生活し、家族とは一線を引いている男・フォンを演じた柯宇綸(クー・ユールン)は、久々にスクリーンで観たが、『恋恋風塵』や『 牯嶺街少年殺人事件』など、少年時代から、楊德昌(エドワード・ヤン)、侯孝賢(ホー・シャオシェン)の作品に出演してきたベテランとして育っていた。すでに41歳になっていたか…。ちなみに、彼は2014年の学生運動「太陽花運動(ひまわり学生運動)」を支持し「台湾独立」も支持しているという理由で、この作品は現時点では本土では公開されていない。
主演3人で最も目をひいたのが、「ジョニーいますか?」の間違い電話が、しょっちゅう携帯にかかってくるシュー役の瑞瑪席丹(リマ・ジタン)だ。レバノン人の父と台湾時の母を持つ、レバノン生まれの台湾育ち。3人の中で最もミステリアスな空気を漂わしていたのは、そうした自身の出所来歴もあるが、それ以上に、「香港には娘がいる」という、この映画の中では最も「衝撃的」な役の上での背景をわきまえての雰囲気づくりだったとしたら、こりゃ、どえらい役者だなーと感心する。色々と人選した中で、彼女を選んだ黃熙(ホアン・シー)監督も、見る目があるねーというところだ。
脇役陣も、張國柱(チャン・クォチュー)、鮑正芳(パオ・チェン・ファング)らベテラン陣に加え、「胸板を見せるために出て来たのか?」と言いたいくらい、大胸筋が素晴らしかった唐治平(タン・ジーピン)など、適材適所で無理なくそつなく配置しているのが、非常に好ましい。
「これと言って抑揚もなく、クライマックシーンもなく」と言ったが、一つだけ「これ!」という場面を上げるならば、フォンがシューに言った
距離が近すぎると、人は衝突する
距離が近すぎると、人は愛し方を忘れる
という言葉に尽きるだろう。これにはやられた。ってか、もう、思い当たる節がありすぎて、色んなことが一度に頭の中を駆け巡ったのだ。この言葉はきついなぁ、小生には…。と、これ以上語ると身の上話になるので、やめとくけど…。いやー、恐れ入りました。
すべてにおいて、丁寧に積み重ねていくという、監督の仕事ぶりが感じられる、心地よい作風だった。初の長編作品とは思えない出来栄え。すぐに、とは言わない。じっくり練って、また数年後でいいので「お、次はこうきたか!」と唸らせてくれるような作品を撮ってほしい監督だ。
【辛口評】
まあねぇ、日本向けの「ボーナストラック」のようなもんだろうけど、あえて日本公開版にエンディングテーマ曲は必要だったのか? と聴きながら疑問に思った。Nulbarichのファンには悪いけど…。
《第54回金馬獎》
最優秀新人賞:瑞瑪席丹(リマ・ジタン)
他、二部門にノミネート
《第19回台北電影獎》
最優秀助演男優賞:黃遠(ホアン・ユエン)
最優秀新人賞:瑞瑪席丹(リマ・ジタン)
最優秀脚本賞:黃熙(ホアン・シー)
最優秀撮影賞:姚宏易(ヤオ・ホァン・イー)
他、二部門にノミネート
[+強尼。凱克+] HD中文電影正式預告
(平成31年2月12日 シネ・ヌーヴォX)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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