【香港紙幣の新デザイン発表】やっぱり香港は「ネタの宝庫」

724日午後、香港の紙幣の新しいデザインが発表された。
直後から香港のネット空間は「壊滅的デザイン」として、酷評の雨あられだ。

「いっせーの!」で見せたかどうかは知らないけど、そんな感じやね by “立場新聞”

これ、表か裏かと聞かれると「多分、裏面やな」としか小生は答えられない()。紙幣発行銀行3行(HSBCStandard Chartered Bank、中国銀行)に課せられた「共通コンセプト」というのがあって、いかにも「香港らしく」、実はお笑いがコンセプトじゃないかえ?」と思ってしまうほどのすっ飛び具合に、のんきな返還前を思い出させてくれるような安心感を覚えてしまった。

知ってる人は知ってると思うけど、香港は「中央銀行」というものがなく、紙幣はHK$10を除き、上記の3行が発行する。種類はHK$1000HK$500HK$100HK$50HK$205種類。
このうちHK$1000というのは、ほとんど使わない。貧乏だからというわけでなく、これをレジやタクシーなんかで支払いに使おうとすると、逆に「偽札じゃないか?」と怪しまれたり、受け取りを拒否されることも珍しくない。ましてHK$500を超える買い物となれば、カード決済が普通とういう社会だから、HK$1000札で買い物するなんてのは、爆買い大陸旅団の一味か、怪しげな素性の人間くらいだろう(と、貧乏な小生はコメントしておくww)。

さて、実質上の香港の中央銀行的機関である「金融管理局」お立会いの下、3行関係者が一斉に発表したデザインは、以下の写真の通りだ。
上から、Standard Chartered BankHSBC、中国銀行の新デザイン。

by “立場新聞”

それぞれの紙幣の基調カラーは従来通りだが(とは言うものの、昔は50ドルは紫だったと記憶する)、共通コンセプトは、

1000ドル「国際金融都市としての香港」
500ドル「ユネスコ認定世界ジオパーク(香港地質公園)」
100ドル「広東語オペラ=粤劇」
50ドル「香港に生息する蝶」
20ドル「飲茶文化」

というもの。各行の仕上がりについていちいち説明しない。が、思うところは色々あるだろう。しかし、どう見ても「コンセプトの建て方の出発時点で、大きな過ちを犯しているねぇ」と、感じざるを得ない。

いやいや、何も紙幣デザインに「建設民主中国!」やら「香港独立!」とか入れろって言ってるんじゃなく()

縦位置のデザインは、初めての試みで、ヤル気を感じるし、最高額紙幣の1000ドルが「国際金融都市をイメージ」できるものだったり、日常的に使う率がずば抜けて高い20ドルが「飲茶文化」のイメージだったりしているのには、異論を挟む気はなく、むしろオーソドックスな発想だと思う。一方で、500ドル、100ドル、50ドルにそれぞれ「地質公園」、「粤劇」、「蝶」が選択された意図がまったくわからんし、実際に全5種ともに説明がほとんど見当たらない。

あるデザイナーはメディアの取材に対し、「指示された各コンセプトでは、デザインできる幅がめちゃくちゃ限られてしまう」と言う。そのデザイナー曰く「たとえば20ドルの『飲茶文化』は、レストランで楽しむ『飲茶』なのか、家族団らんで『お茶を飲む』ことなのか? 100ドルの『広東語オペラ』となれば、もっとデザインの幅が狭まってしまう。歌ってる芸人以外に小さな花を描くくらいしかできないでしょ?」と。

さりとて、香港の紙幣で「人物」を象徴的にデザインに取り入れるのは限りなく不可能だ。返還前なら、エリザベス女王が日本の1万円札の福沢諭吉が如く描かれていても、何の不思議もなかったが、返還以降はそれはできない相談となり、さりとて毛沢東を描くわけにもいかないし、時の行政長官といっても、所詮は公務員だし。それだけでもデザインの幅は狭まるというもんだわな。

おまけに優秀なデザイナーは、どんどん大陸へ引き抜かれてゆくし。まあ、あっちのほうがギャラも高いし、ええ仕事与えてくれるらしいから、仕方ないわな、奴らの身になれば。

香港の『広告批判』のような業界言論サイト『広告100(Face Book)は、「香港は美術教育が欠けている」と手厳しい。「社会の美的レベルというものは、23人の優れたデザイナーが作り上げるものではなく、一般の人々の審美眼が作り上げるもの」だと指摘した上で、「それにしても中国銀行のデザインは劣っていた」と酷評する。

そんな酷評の中心となっている中国銀行。下は3行のHK$1000のデザイン比較だが、Standard Chartered BankHSBCが「まあ、こうなるわな、普通は」というデザインなのに対し、右端の中国銀行のそれは「香港人の脳みその中は、カネのことでいっぱいです!」と主張しているかのようなもの。

by “立場新聞”

デザインした人に「なんで『国際金融都市』といコンセプトが、こうなったのか?」ということを、納得いくように説明してほしいと思う。ねぇ、思うでしょ? まあ、HSBCも超高層ビルの魚眼レンズ風空撮を下地にしたんだろうが、小生には「フジツボの拡大写真」に見えてしまうww

by “香港01”

こちらも酷評の的になっている中国銀行の500ドルのデザイン。香港郊外にある「柱状節理」と言う世界的にも非常に珍しい地形で、ユネスコ認定ジオパークということで、訪れる人も多い。ただ、描写した角度が悪かった。左は映画『2012』のポスターだが、まるでそっくりで「『沈みゆく香港』を表している!」と酷評されている。小生もパッと見て「悪い冗談やろww」と思ったものだ。さすが、中国銀行、北京の実質上「出先金融機関」だけのことはある。ちなみに、小生はこのセンスの一番悪い中国銀行に現在も口座を持っている。行員が一番サービス精神があって庶民的なんだなぁ、これがどうしたわけか

山の稜線、白い線でつながっているの、わかるかな? by “明報”

一方で、Standard Chartered Bankは奮闘した。

背景の山の稜線をつないでゆくと、香港の象徴、香港人の心のよりどころ「獅子山」のシルエットになっている。中央政府が敏感に神経を尖らせている「本土特色=香港当地の独自性、特色」をなんとか頑張って打ち出そうという努力の跡が見えて、こういうのはうれしい。

さて、香港市民の格好のネタになっている紙幣の新デザインだが、機能的には日本のはるか先を行く。

by “明報”

六大偽造防止策」として、

1動感光亮図案(ダイナミック・シマリング・パターン ) 傾けるとテーマロゴ部分のホログラムで輪が動く
2開窗金属線(ウィンドウ・メタリック・スレッド ) 傾けると窓形のメタリック・スレッド部分のホログラムで大きな輪と小さな輪が動く
3高透光水印(エンハンスド・ウォーターマーク ):光にかざすとバウヒニアの花、葉、芽および額面の数字が浮かび上がる
4蛍光透視銀碼(蛍光シースルー・デノミネーション) 紫外線にかざすと二種類の蛍光色に変わり光の効果で紙幣の両面の額面の数字がつながる
5隠蔵銀碼(コンシールド・デノミネーション) 光の下で紙幣を傾けると背景に隠された額面の数字が浮かび上がる
6凹凸手感(エンボス・フィール ) 浮き彫り加工により触覚で認識できる

が講じられた。

この「六大偽造防止策」のほか、視覚障害者向けの新技術として、スマフォのアプリで紙幣を識別できる技術や、現行紙幣と同様に、点字や触覚の違いも導入されている。

とりあえずはだ。札のデザインが変わることで、これだけ突っ込んだり、嘆いたり、感心したりできるんやから、香港は相変わらず愛すべき「ネタの宝庫」やなということを、感じた次第である。

by “明報”

なお、この新札は上記スケジュールで順次、出回る予定になっている。



 


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