第13回大阪アジアン映画祭
特集企画《台湾:電影ルネッサンス2018》
『川流の島』<日本プレミア上映>
(台題=川流之島)
今年の大阪アジアン映画祭も、これが最後の鑑賞作品。もっとも、この後にもう一度『中英街一号』を観て、締めくくりとするのだけど。
最後は台湾映画で。これは映画なのかテレビの長編ドラマなのか? ま、どっちでもあるのだけど、これを台湾では「電視電影」と呼ぶ。要するに「テレビ映画」。国民党独裁政権下においては、国策映画は大量に作られたが、これという娯楽作品はほとんどなく、国産映画不況が続いていた。その一方で、この作品のような「電視電影」が作り続けられており、劇場映画と遜色ないものも少なくないのだという。
ビッグスターの名前がキャストに並んでいるわけでもないのに、現地での評価は相当高かったようだが、果たして…?
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
台題 『川流之島』
英題 『The Island That All Flow By』
邦題 『川流の島』
テレビ放映年 2016年4月(中視數位台、中天娯樂台)、10月(公視主頻)
製作地 台湾
言語 標準中国語、台湾語
評価 ★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):詹京霖(チャン・ジンリン)
領銜主演(主演):尹馨(イン・シン)、鄭人碩(チェン・レンシュオ)、陳鼎中(チェン・ディンジョン)
台湾で、長編テレビドラマとしても劇場映画としても、高い評価を受けたのがよくわかった、非常にいい作品だった。
2016年の金鐘獎(テレビ賞)で、ノミネートは11部門に及び、最優秀主演女優賞(尹馨)、最優秀新人俳優賞(陳鼎中)など5部門で受賞。2017年の金馬獎ではノミネート2部門、同年の臺北電影獎では最優秀主演女優賞(尹馨)に輝いている。まさに、テレビ界、映画界を横断しての栄誉に輝いた作品である。
描かれているのは、貧困、失業…。これは何も台湾だけの問題でなく、ほぼすべての国が抱える問題であるし、人の営みが続く限り未来永劫消えることが無い問題であると思う。これらを題材にした映画は、非常に多く、小生が今回観た中でも『亮亮と噴子』、『夜間勤務』、『どこか霧の向こう』、『香港製造』などがこの範疇にあるだろう。
作品によっては、もうこれ以上ないまでに主人公たちをどん底に突き落として「The End」となってしまうものもある反面、そこにわずかな「救い」の余韻を感じさせて終わりを迎える作品も多い。この作品も、山あり谷ありながら、最後に親子、兄弟の「絆」の回復が、登場人物それぞれの「映画が描かないその先」の日々が、「きっといい方に向かっているはず」と観客に思わせてくれる優しを感じることができた。
タイトルの「川流の島」とは、高速道路の料金所を指す。ETC導入で、料金徴収職員たちが職を失うことになる。多くの職員が反対行動を起こす中、尹馨(イン・シン)演じるシングルマザーの林嘉雯は、陳鼎中(チェン・ディンジョン)演じる息子・傅彥超の問題処理にカネがかかることから、退職金が必要なために反対行動に参加できない。息子の問題とは、同級生女子生徒へのレイプ行為である。女子生徒の父親から、高額な慰謝料を要求されたのである。
そんな折、かねてから料金所を通るたびに、林嘉雯に言い寄っていた鄭人碩(チェン・レンシュオ)演じるトラック運転手の王志豪に、「お金をくれるなら」と身体を許してしまう。「金はいくらでもある」と豪語する王志豪だが、実は兄に金をせびり兄嫁との関係も悪化しているなど問題を抱えていた…。
母と王志豪の関係を知ってしまった息子の傅彥超も、次第に王志豪に心を開いてゆく。この息子が、とことんグレてしまわなかったのは、王志豪の登場に父親を、家庭を感じたからかもしれない。同じように母親の林嘉雯も「金のため」と言いながらも、ひとときの家庭のやすらぎを感じたのだろう。王志豪のトラックでピクニックに行くときの3人の表情が、実に穏やかだったのが印象深い。しかし、そんなかりそめの安らぎは、あっけなく去ってしまう…。
とにかく、最初から最後まで、スクリーンに釘付けになってしまった。圧倒的なメッセージ発信力。冒頭に記したように、ビッグスターが出ているわけでない。それでいて、ここまでひきつけるのは、3人の主演たちの演技もさることながら、テーマ、脚本の力が非常に大きいと感じた。過日開催された「TAIWAN NIGHT」で、郭斯恆(グオ・シーハン)プロデューサーは、1回目の上映を終えた報告で、「さっき上映されたんですが、ちょっとお客さんが少なくて」と苦笑いしていたが、この日も決して満員というわけではなかった。しかし、観た人はすごく満足したと思う。よかったですよね~、ほんとこの映画は!
ってことで5点満点!
これ、このまんま日本でゴールデンタイムに地上波で放映しても、十分通用する力のある作品だと思うけど、民放では広告主付かんわな…。ってわけで、NHK、俺が払っている受信料をこの作品の放映に使っていいぜ!(笑)。
《川流之島》精采預告
(平成30年3月18日 ABCホール)
さて、今年の大阪アジアン映画祭、小生が観たのは短編含めて16作品。これ以上は、時間と財布の中身の関係で、もう無理です(笑)。色んな意味で余裕なし! で、そんな16作品から下記の各賞を差し上げます(笑)。
<最優秀作品賞> 『中英街一号』[香港 監督:趙崇基(デレク・チウ)]
<主演男優賞> 游學修(ネオ・ヤウ)[『中英街一号』]
<主演女優賞> 鄧麗欣(ステフィー・タン)[『空手道』]
<助演男優賞> 董瑋(トン・ワイ)[『青春の名のもとに』]、呂楊(ファビアン・ルー)[『大大ダイエット』]、鄭人碩(チェン・レンシュオ)[『川流の島』]
<助演女優賞> 吳可熙(ウー・クーシー)[『血観音』]、『寶珮如(ベイビー・ボー)[『どこか霧の向こう』]
<新人賞> 文淇(ヴィッキー・チェン)[『血観音』]、陳鼎中(チェン・ディンジョン)[『川流の島』]
<監督賞> 趙崇基(デレク・チウ)[『中英街一号』]
<美術賞> 張蚊(チョン・イーマン)[『空手道』]
<音楽賞> 王希文(ワン・シーウェン)[『私を月に連れてって』]
<短編賞> 『亮亮と噴子』[台湾 監督:李宜珊(リー・イーシャン)]
アハハ!見事に華語片がすらり!(笑)。
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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