【上方芸能な日々 歌舞伎】第27回 上方歌舞伎会

歌舞伎
第27回 上方歌舞伎会

一昨年までは、土日開催だった「上方歌舞伎会」が、昨年から平日開催になってしまった。当然、予定が立てられなくなってしまう。結局、昨年は行けず。今年もギリギリまで予定が立たなかったが、なんとか行ける目途が立ち、数日前にまさに「残席わずか」のところを滑り込みセーフで、チケットゲット。後ろの方ながら、花道脇のお席。文楽劇場だから、この辺でも舞台は、まあまあよくわかる。ただし、肝心の人形はこの辺だともう、何が何だかな状態である。「文楽劇場」ですよ、ここ。人形の顔がちゃんと見えないなんて、おかしいやろ? と、今さらながら、ぼやいてみたりする…。

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本日のお座席からの眺め。鳥屋がほとんど真後ろで、役者登場時の「シャリン」という鈴の音がよく聞こえる。で、どうしても役者の裾を「ひょいひょい」と引っ張りたい衝動に駆られるが、分別ある人なので、もちろんそんなことはしないですヨ(笑)

H2908kabuki omote『菅原伝授手習鑑』我當、秀太郎、仁左衛門指導

序幕「加茂堤の場」
<配役>
桜丸:折乃助
三善清行:翫政
斎世の君:松四朗
苅屋姫:未輝
桜丸女房八重:吉太朗
仕丁:松十郎、佑次郎、當史弥、光

主に上方歌舞伎塾からこの世界に入った、血統、門閥とは無縁の役者さんたちが、年に1回この日だけは、大きな役にチャレンジするというのが、この会の趣旨。だが、顔ぶれを見るに、すでに名題となった者や、自主公演を開いて好評を博している者など、上方の舞台に欠かせない面々が揃い、いつの間にか層の厚いメンバーによる公演となっている。今回は、義太夫狂言の大作『菅原伝授手習鑑』の「桜丸ストーリー」をピックアップした。

まずは、発端となる「加茂堤」から。桜丸の折乃助は端正な一方で、若さが玉に傷な桜丸だった。あ、そうか! 名題昇進を機に、純弥から折乃助襲名したんやったね。

部屋子の吉太朗も大きくなったなぁと、父親の心地。直前まで、吉弥がみっちり指導していたというだけに、奮闘していた。牛車を引く場面なんぞ上々出来だった。多分、これが大人を初めて演じたんではないかな? 図らずも、美吉屋兄弟弟子で夫婦を演じる。

もう一人の部屋子、未輝は苅屋姫。この子の女方は初めて観た。この子もこれまで小僧の役が大半だったと思うが、色んな役に果敢に挑んでほしいし、そういう場をいっぱい作ってあげてほしい。いずれ吉太朗と揃って大看板揚げてほしいなぁ、と。まずそのころまで、このおじちゃんは生きてへんけどな(笑)。

翫政が三善清行の道化の役柄をよく心得た舞台で、次の『棒しばり』に大きな期待を持たせた。先般の『晴の会』でも好演していたが、ホンマの下っ端のころから目をつけていた役者が、こうして観るたびに力をつけて行っているのを見るのは、ホンマ嬉しいし、楽しい。

第二幕「佐太村賀の祝の場」
<配役>
桜丸:千壽
松王:松太朗
梅王:當吉郎
松王女房千代:當史弥
桜丸女房八重:りき彌
梅王女房春:光
百姓十作:松十郎
白太夫:鴈大

この場では、桜丸を千壽、八重をりき彌が演じた。さすがに分厚い芝居だった。千壽はきれいに演じていた。台詞回しも義太夫とスムーズにリンクしていたので、芝居自体が端正に見える。八重の狼狽と悲しみがいまひとつ感じられなかったのは、多分、鴈大が白太夫の「ニン」ではなかったからかもしれない。鴈大もこのメンバーの中ではベテランの部類だし、いい味を出している役者だけど、この白太夫はしっくりきていなかったかなぁ。なんか全体の中で浮いた感じがした。その点で、鴈大には少々気の毒な役回りだったかもしれない。

松太朗が、なんと松王丸やと聞いて、いきなり胸アツになった(笑)。彼もずっと気になっている一人で、松竹座の本公演では毎回番付見て、「ああ、いてるいてる」とまず、彼の配役を探すほどなんだから、松王と聞けばそりゃ、胸アツになるわいな(笑)。果たして、あの重厚な役を上手くやれるかどうか?心配していたが、押し強く、堂々としたものだった。当たり前だが、そこかしこに、師の仁左衛門のイメージがちらつく。これが「伝承」というもんなんやなぁ~と、その場におれる喜びも感じる。

義太夫狂言と言っても、やっぱり文楽とはかなり違うね。小生のような「文楽育ち」には、どうしても文楽のやり方の方が、見物衆に対して親切だと感じるが、そこはまあ、演じ手にもよるのかも。と、なれば、今日のメンバーもまだまだ学ばねばならないことがたくさんあるということやな。芸の道は斯様に長く険しいちゅうことですわいな。

『棒しばり』
<配役>
次郎冠者:翫政
太郎冠者:佑次郎
大名:千次郎
(後見:折乃助、松太朗)

今回、注目の舞台。翫政の次郎冠者である。楽しくないはずがない。「加茂堤」で記したが、あの三善清行のおかしみに次郎冠者への期待は高まるばかりである。ただでさえ、抱腹絶倒の『棒しばり』、それを翫政がやるのであるから、これ見逃したら損ですよ、そこの奥さん!

いや~、期待通りの楽しさ、愉快さだった。翫政は表情もよかったし台詞の間も非常に良かった。太郎冠者の佑次郎も、「あれ?アンタ、こういう一面もあったのね?」ってくらい愉快だった。翫政とのイキもぴったりだった。この両名に引っ張られたのか、千次郎も実にのびのびとやっていた。踊りのレベルがどうだったのか、と聞かれたら、小生に判断できるものでもないが、少なくとも、客席をあれだけスウィングさせることができたのだから、十分すぎる『棒しばり』だったんじゃないかな。ホンマ、翫政くん、お友達になりたいわ~(笑)。

本公演と違い、行くことで、このメンバーたちと共に上方歌舞伎を学び、伝承していっている気持ちになれる。上方歌舞伎を将来へつないでゆくのは、役者や松竹だけの使命ではない。観る側も、この会で演じる役者たちを応援し、叱咤激励しながら、上方の歌舞伎を見守ってゆきたいものである。
と、かっこよく締めておく(笑)。

(平成29年8月21日 日本橋国立文楽劇場)



 


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