【上方芸能な日々 文楽】平成28年錦秋公演<第2部>

人形浄瑠璃文楽
国立劇場開場50周年記念 平成二十八年錦秋公演

img_3462この秋公演、文楽としては非常に珍しく「花道」が設定された。『勧進帳』で、弁慶がこの花道を豪快に飛六方で引っ込むという演出。これは見ものだ。

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というわけで、2回目の見物の折には花道間際の席を取ったのだが、いかんせん下手側。歌舞伎でも同様のことが言えるが、こういう所作は基本的に上手側に向いて取られるもんだから、見えるは玉男はんの背中(笑)。でもまあそれによって、左の玉佳、足の玉路の動きが手に取るようにわかり、この芝居で弁慶を遣うということが、いかに体力を要するかということを改めて知ることになる

また、前方の席だったことで普段は床に神経を集中するがために見逃しがちな人形の表情をよく見ることもできた。座席の位置を変えることで、見えていなかったものが見え、忘れてしまっていた見え方などが甦るなど、非常に新鮮な気分で舞台を観ることができた。これだからライブというのは価値がある。テレビや映像ソフトなどでは絶対に味わえない贅沢な時間なのだ。

増補忠臣蔵(ぞうほちゅうしんぐら)

■初演:明治10年(1877)2月、大阪弁天座*素浄瑠璃で
*明治11年4月、大阪大江橋席で『仮名手本忠臣蔵』の七段目と九段目の間に挿入する形で演じられた記録アリ
■作者:不詳

いわゆる「増補もの」、今風に言えば「スピンオフ」、「サイドストーリー」とか。加古川本藏が本筋の『仮名手本忠臣蔵』の「山科閑居」でいきなり虚無僧になって尺八吹いたりして、「お前、今までどこで何してたんだよ?」みたいな現れ方をするのだが、そこまでに至るあれやこれやを「増補」している。

まあ、こうした「増補もの」は何とでもできるわけだから、もしかしたらべつのストーリーがあるかもしれないのだが、たとえあったとしても、この『増補忠臣蔵』にかなうものはないと断言できるほど、完成度の高い作品だと思う。本蔵の描き方もさることながら、桃井若狭之助の人となりも本編よりもよくわかる。

切を咲さんと燕三で。相変わらず万全と思えない咲さんだが、今公演で唯一、身も心も委ねることができたのは咲さんの語るこの切場だけだったのは、うれしくもあり哀しくもあり…。

艶姿女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)

■初演:安永元年(1772)12月、大坂豊竹座
■作者:竹本三郎兵衛、豊竹応律、八民平七 合作

「酒屋の段」
聴かせどころのお園のクドキ。

今頃は半七様、どこにどうしてござろうぞ

わ~っと拍手来たり声がかかったりしないのだね、最近は。津駒はんが「たっぷり」聴かせてないからか、「ここ大事!」というのを客が知らないからなのか? 原因がどちらにあるにせよ、厳しい時代だなと思う。津駒はん、番付のインタビューを読むに、相当な意気込みでここをやったと思うけど…。「昔は」というか数年前までは、声がかからなかったとしても、客がここを期待してるのが感じられたもんだけどなあ…。まあ客席の眼はもう人形に釘付けだから、仕方ない。

このクドキの場面でのお園(勘十郎)の後ろ振りの美しさ、我が子を思いながらも半七と死出の旅へと向かうしかない三勝(蓑助)の悲哀の表情(角度)、絶品だった。

やはり文楽は「聴くもの」から「観るもの」になってしまったようだ。もちろん、舞台で人形が動いているんだから「観るもの」であっていいんだが、「聴く」ということの楽しさ面白さを、もはや客席は求めてないのかなと思うと同時に、劇場側にも「聴いてほしい」という姿勢がさほど感じられないような気もする。これでは太夫、三味線が気の毒だ。

勧進帳

劇場1階の展示室で「勧進帳の世界」という特別展をやっていて、能、歌舞伎、文楽それぞれの安宅関をビデオ上映していたのを興味深く観た。どれがどうということもなく、それぞれが独自の演じ方なのをこうして観劇前後に見せてくれるというのは、親切な展示だなと思った。

で、この話はやはり人形、とくに弁慶と富樫に尽きるだろう。玉男はんと和生はんの同期が弁慶vs富樫で火花を散らしているような迫力と緊迫感にあふれていた。
特に弁慶は「三人出遣い」ということで、玉男だけでなく左の玉佳、足の玉路の表情もよくわかった。ときに歯を食いしばって左を遣う玉佳の表情が印象深い。また、玉路が実にダイナミックにフットワークよく動き回っていて、「この子、いつの間にこんなになったんや!」と成長ぶりを頼もしく感じるとともに、その運動量と体力に感心した。

花道も迫力があり、ご見物衆も大喜びで何より。でも、せっかく珍しく花道作ったのに、この場面でしか使わなかったのはもったいない。いくつか使えそうな場面もあったのに残念。

img_3502飛び六方もさることながら、太夫7人、三味線7挺の床も圧巻の『勧進帳』。こちら弁慶は千歳、富樫は咲甫。

これで今年の文楽通いは終了。35年以上も通ってると色々と風景も変わってきて、つい「昔は…」などと言ってしまう。そこは何卒お許しを。 ではまた来年!



 


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