浪曲
平成二十七年 浪曲名人会
なぜか師走は浪曲という心持になる。それは多分、1年を通じて浪曲がテレビの電波に乗るのが、この時期くらいだからかもしれない。NHKが年末に浪曲番組を放映するのだが、地上波で浪曲を聴こう(見よう)と思っても、この時期のNHKくらいしかないのが実情だ。
子供のころは、その浪曲番組が嫌で仕方なかった。年寄りのいた我が家では、よく浪曲番組がテレビから聴こえてきた。とても退屈だった。それが今ではどうだ。浪曲師がうなる物語が脳内で映像化されているのである。50年を超えてしまった人生経験の積み重ねのなせる技か、はたまた、本来そういう才能を兼ね備えていたのか…。どっちにしろ、そういうことができると浪曲にかかわらず、落語、浄瑠璃、講談などいわゆる「語り芸」が俄然面白くなってくる。齢を重ねるとはこういうことなのか?
毎回チケットが飛ぶように売れる「浪曲名人会」。今回も文楽劇場でにぎにぎしく開催された。
<ネタ帳>
天中軒雲月 『郡上宝暦義民伝』 曲師:沢村さくら
三原佐知子 『ああ残留孤児』 曲師:虹友美 オペレーター:鵜川せつ子
松浦四郎若 『乃木将軍信州墓参』 曲師:虹友美
―仲入―
京山小圓嬢 赤垣源蔵『涙の徳利』 曲師:沢村さくら
春野恵子 『袈裟と盛遠』 曲師:一風亭葉月
京山幸枝若 「会津の小鉄」より『賀茂の河原』 曲師:岡本貞子 ギター:京山幸光
ご案内=真山隼人 ・ 京山幸太
進行役に、隼人&幸太(漫才コンビちゃうよw)。どうしても横を向いて話すと、ピンマイクが声を拾わないみたいで、聞き取りにくい場面も多かった。普通に手持ちマイクでよかったんじゃないかと思いつつも、二人とも手に進行表みたいなんを持ってたからそうもいかなかったのか。来年は御一考願いたし。ま、二人の話聞きにきたわけじゃないから、ええけどな。
今日も名古屋から参戦の雲月師匠は、ご出身の郡上八幡に伝わる物語をたっぷりと。
佐知子師匠はお得意の戦中戦後モノで、客席はハンカチで目頭をぬぐう人多数。この人の真骨頂。同時に、この手のストーリーは浪曲の王道。
四郎若師匠は正統派。英雄視される乃木将軍だが、それは戦線での功績以上に、人間味あふれる素顔あってのことだというのが、良く伝わってくるよき演題。
小圓嬢師匠、いつの間にか現役最年長に。それでも声量衰えず存在感もこの日の出演者随一。まだ現役大学生の隼人&幸太がその元気さに舌を巻く。もちろん、浪曲も元気いっぱい、情味たっぷりに赤垣源蔵を聴かせてくれた。嬉しい限り。
キャリアを積むとはこういうことだろう。7年前に聴いた袈裟御前。恵子自身がまだ駆け出しで、力んでいたのか、散漫な印象だったが、それから何度も口演していきながら、かなり練りこんだのだろう。次に聴くともっと完成度が高まっているだろうという期待感があった。
トリはやっぱりこの人。京山一統の伝統芸とでも言うべき、会津の小鉄モノ。♪うんがら、ほんがら、と声を転がすこの一統ならではのうなり方で、グイグイ引き込んでゆく。「ああ、浪曲を聴きに来てる」と幸せな気分になったところで「ちょうど時間となりました~」。延長コールでもして、もう少し幸枝若の世界に浸っていたいところ。
帰りにはロビーで出演者総出でお見送りしてくれるフレンドリーさ。だからまた来ようという気になる。
隼人&幸太が言ってたが、浪界では浪曲師の志望者も鋭意募集中だが、曲師も大いに募集中だとのこと。この日も虹友美と沢村さくらが掛け持ちしているように、曲師の育成が急がれていると言う。「我こそは!」と思う方、男女は問わないということなので、門を叩いてみてはどうだろうか。
で、これは贅沢な注文かもしれないが、メンバーに変わり映えが無い。去年と同じ顔触れ。その上、6人の出演者のうち4人が女流。もちろん「名人会」としたからには、おのずと顔触れにも制限があるというのも重々承知だが、例えば隼人や幸太のような「これからの人」が、フレッシュコーナーみたいな感じで、毎年一人出てきてもいいんじゃないかと思う。これは先に述べた「ピンマイク」よりもさらに御一考願いたい点だ。
(平成27年11月28日 日本橋国立文楽劇場)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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