【上方芸能な日々 落語】桂文太独演会『桂文太 ぷれみあむ落語会 in NGK』

落語
桂文太 ぷれみあむ落語会 in NGK

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我が地元・田辺で、41年にわたり開催されている地域寄席の老舗「田辺寄席」。
その田辺寄席の顔であり、上方落語界随一と言っていい豊富なネタ数を誇る桂文太師が、デビュー以来初の、吉本の総本山、お笑いの殿堂「なんばグランド花月=NGK」で独演会を開催した。

「落語家が落語をするのをナマで初めて観た」のが、41年前の小学生の時の「田辺寄席」での文太師だった(と記憶している)小生が、この晴れの場に駆けつけないはずがなく、前売り開始から3日目くらいにはすでにNGKでチケットを購入済みだったという行動の早さ(笑)。これ、もっと他にも生かせないか…。

文太師がNGKでこのたび、独演会を開催するにあたっての経緯などは、下記ご参照のほどを。
<豪華ゲストも登場!桂文太が初のなんばグランド花月独演会に挑戦>

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文太師匠への幟はもちろん、田辺寄席の幟も並ぶ。なんか見ただけでうれしいし、テンション上がる!
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「なみはや亭」ほか、祝い花がロビーに並んで晴れやかな空気

<ネタ帳>
開口一番『ハル子とカズ子』  桂かい枝
『竜宮界龍乃都』  桂文太
『青木先生』  笑福亭鶴瓶
『厩火事』  文太
~中入り~
歌とおはなし  中村美律子、文太、盲導犬デイリー
歌『潮騒』、『壺坂情話』  中村美律子
『八五郎出世』  文太

文太座席満席は間違いないだろうと思っていたが、いざ劇場に入って、実際に満席だと、やっぱりうれしい。これは誰のどんな会でも同じこと。

文太師が光を失って以来、盲導犬と暮らす日々を送っていることもあってか、客席にも盲導犬と一緒に来場されている人たちがたくさんいる。俺、盲導犬に弱い。いや、怖がっているんやなくて、盲導犬を見ると、胸いっぱいになって、涙腺が一気に決壊してしまうのだ。この日みたいに、ずらっと盲導犬が並んでいると、もう参ったするしかない。席に座って、まず涙をぬぐう。いろんなことを訴えかけてくるのよね、あのまなざしが…。

いよいよ開演。
開口一番は、文太師と同じく先代文枝門下のかい枝。すでに楽屋は噺家仲間で鈴なりだと言う。文太師の人柄だろう。チケットも完売だとのこと。そりゃそうだ、我らの桂文太、完売しないほうがおかしいだろう。ネタは『ハル子とカズ子』で。あまり笑いを引きずらずに、さらっと兄弟子文太師の出番にバトンタッチするあたりの塩梅が心憎い。

そして文太師登場。万雷の拍手、鳴り止まず。色々と落語会、それも襲名披露や独演会など、特別な高座を見てきたが、こんなに延々と拍手が続いたのは、初めての経験。恐らく、今後もそんなに経験できることではないだろう。文太師も感極まってか、しばし言葉にならず。それでも「明るう、楽しゅう、いきましょう」と。また大きな拍手。もうねえ、鼻水ぐじゅぐじゅよ、このときのアタシは。最初のネタは『竜宮界龍乃都』。ハメモノ(囃子)をふんだんに取り入れ、歌舞伎を思わせる所作の美しさは師の本領発揮。長講ではあったが、文太師の独演会幕開きに、もっともふさわしいネタだった。

お客が大いに盛り上がったところで、ゲストの鶴瓶師。文太師より1年後の入門になるが、お互い超若手時代からの盟友。いい関係が続いている。二人の良き関係が、どのようにスタートしたかなど、思い出話で存分に笑わせて、『青木先生』。ネタ名は知っていたが、初めて聴く。「はは~ん、こういうハナシなのか」と納得。いかにも鶴瓶師らしいネタ。昔のラジオ大阪『ぬかるみの世界』や、MBSラジオ『わいのわいの90!!』と基本コンセプトは同じだろう。

再び文太師登場。今度は『厩火事』で。お江戸ネタを上方風味のアレンジでやるのも、師の得意とするところ。『竜宮界~』とは違って、わりとライトな感覚でネタが展開して行ったので、ちょっとほっこりした気分になった。他の人はどう感じたやろか?

中入り休憩後、中村美律子登場で、舞台はテレビ大阪『木曜8時のコンサート』状態に(笑)。新曲『潮騒』を熱唱した後、文太師が盲導犬・デイリーと登場。中村美律子が、『壺坂情話』のヒットを機に、盲導犬育成に力を注いでいること、そのうちの一頭がデイリーであることなどが紹介される。なんで『壺坂情話』で盲導犬かって?それは文楽の『壺坂観音霊験記』を見ればわかる話なので、ここでは割愛(笑)。そしてそのヒット曲『壺坂情話』を披露。中村美律子の歌って、『河内おとこ節』くらいしか知らんけど、この『壺坂~』はええ歌。

トリは当然、文太師で。それまでの背景がホリゾンだったのが、ここは松羽目で。この松羽目は、田辺寄席と同じ意匠。これは感動したね、感激したね。
ネタは師の十八番のひとつ『八五郎出世』。エエ話。もちろん、色んな人がやるけど、やっぱり文太師のが一番ええわ。大いに笑わせくれたり、耳かき一杯分の「しんみり」があったりと、こういう部分は噺家の「ニン」とか人柄とか性格が出てくるんだろうと思う。そういう点からしても、文太師にお似合いのネタのひとつと言える。八五郎も大概おもろいけど、その横で「う~んん」言うてる三ちゃんこと家老の三太夫もなかなか味があって、好きなキャラ。この二人の決して噛み合うことのない「掛け合い」をいつも楽しみにしている。どちらの人物の出汁もよくハナシに沁み込んでいて、いい味がしていた。
ハナシ下げて、最後もまた万雷の拍手。「来年もまた、やらしてもろてよろしいか?」との文太師からの問いかけに、またまた拍手鳴り止まず。

最初独演会の話が決まった時、「やるからには満席にしたい」と言っていた文太師。そして当然の如くの満席。この人のゆるぎない実力と、それを認める落語ファンの数からすれば、満席にならない方がおかしいのだから。
文太さんは、もっともっと評価されなければならない噺家だと思う。そのためにも、今回のような「盲目の噺家がNGKで独演会」なんて報道のされ方ではなく、次回には「正統派のベテラン文太、NGKで再び独演会」という見出しが出るように、メディアもきちんとその技量を評価した報道をしてほしいと思う。
そのためにも、文太師にはこれからもNGKでの独演会は継続してもらいたいし、吉本にもきちんと対応を望みたい。

(平成27年6月11日 なんばグランド花月)



 


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