【上方芸能な日々 文楽】UMEDA BUNRAKU

人形浄瑠璃文楽
UMEDA BUNRAKU

大阪駅の北側に広がっていた梅田貨物駅が整理され、大阪駅の大改装とあわせて「グランフロント大阪」となったのは、もう何年前のことになるかな…。その一隅に「ナレッジキャピタル」なるスペースがあり、「ナレッジイノベーション」の場として活用されている。なにせ生まれも育ちも「ミナミ」の人間なので、グランフロントにも数度しか足を踏み入れたことがなく、ましてや「ナレッジキャピタル」なんて言われてもまったくピンとこない。そんな場で、これまた生まれも育ちも「ミナミ」の人形浄瑠璃文楽の公演があるという。もちろん、ピンとこないから、どんなもんかえ?と行ってみた。

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ナレッジキャピタル内のイベントスペース、「ナレッジシアター」が会場。ざっと350人強の収容数らしい。文楽はもちろん、落語、講談、浪曲とかにはぴったりの会場規模じゃなかろうかと。そもそも文楽劇場って、文楽公演には広すぎるのよね。とくに客席の奥行きが。ここはなかなかよろしいな。

「UMEDA BUNRAKU」は、在阪民放テレビ局5局(MBS、ABC、TVO、KTV、YTV)が主催というのがよい感じで、在阪局が足並みそろえて文楽を応援してゆこうという意思統一ができたということかな。ならば、今後も規模の拡大縮小はあるかと思うけど、地道に継続していってくれればうれしいなと思う。同時に、文楽技芸員にはこの意気を感じてほしいところ。

公演は、2月6日~8日で全5公演。それぞれに文楽への傾倒深い著名人がトークコーナーのゲストで迎えられ、各局アナウンサー司会のもと、出演する技芸員とのトークを繰り広げるというのも、できるだけ気軽に初心者にも足を運んでもらいたいとの配慮か。

鑑賞した公演は千秋楽公演でゲストは、劇作家・演出家のわかぎゑふ。ゑふさんも久々に間近で見たけど…(以下省略w)。彼女、文楽のスタートは朝日座で、物心つくかつかないかの幼い時分だったという。こりゃ、筋金入り、骨の髄まで文楽な女だな、尊敬するわ。トークに出てきた幸助からは、新作の脚本をぜひともと言われていたが、女性が文楽の脚本を書くって300余年の昔からかなり珍しいことなので、やってほしいわな。トークには幸助のほか、希大夫、寛太郎が。希大夫はさすがに長丁場をひとりでここまで4回語ってきたからか、お疲れ気味に見えたが、寛太郎はしゃ~っとしてたな(笑)。

芝居の方は『壺坂観音霊験記』。わかりよい演目。そして上演時間もちょうどよい頃合い。ご見物には初心者が半数程度いたようだから、ぴったりではないか。とは言えだ。『壺坂観音霊験記』と聞いて、「三つ違いのあにさんと 言うて暮らしているうちに…」というクドキの一節がぱっと思い浮かべることができる人、ぼくらの年代でも半分おるかおらんかだろうから、そういう意味では文楽に限らず、古典芸能もやりにくい時代であるのは確かだな…。「そこからお教えせなわかってもらえませんか?」って事柄が、あまりにも多すぎる。

やはり希大夫は疲労度が伝わってきた。1時間ちょいの長丁場を、3日間で5回というのはそりゃきついだろう。初めてだったかもしれない。例のクドキも「あれ、もう言い終わったん?」っていうくらいあっさりしてし(苦笑)。けど、それもあれもこれも乗り越えてほしい、乗り越えなければならない。拓郎の歌ではないけど、「越えて行けそこを、越えて行けそれを、いまはまだ『文楽』を、『浄瑠璃』を語らず」だな。でもまあ、こういう場を与えてもらえるほどの太夫になってきたんだな、彼も…。それを思うともうねえ…。

で、三味線の寛太郎はトークの時と同じく、しゃ~っとしていて、バシバシと撥を気持ちよさそうに叩いていた。この子はデビューした時から「大物感」たっぷりで、毎度よく聴かせてくれるので安心である。イイ感じで希をぐいぐい引っ張っていた。希も引っ張られるだけでなく、随所に疲労困憊ながらも自己アピールできているかなと思う場面もあったから、床の両者にとってはまたとない勉強の場になったはず。よろしゅうございましたよ。

人形は、沢市を幸助、お里を簑紫郎、観世音さんを玉延。いや~、玉延は観音さん同様にキラキラ輝いていたね~。幸助はこのメンバーの中においては、超ベテランで座頭格の存在だから、まさに安心と信頼の遣いよう。しっかし、観るたびにご父君とそっくりになってきますな。簑紫郎はあくまで小生個人の見解だが、「ちょっとそれは…」という点がどうにも以前から気になっていて今回も気になったけど、彼はああいう「芸風」で女形に特化した人形遣いになっていくんだろうなあ。

カーテンコールは2回。最初は人形のみ、続いて床、足遣いなどオールメンバーが揃い、幸助が代表して締めのあいさつ。満場の観客席から惜しみない拍手で無事、千秋楽と相成った次第。

もう随分前の話になるけど、原宿文楽とかあべの文楽がほぼ定期的に開催されていた時期があった。それらがなぜ途絶えたかをよく省みて、この「UMEDA BUNRAKU」がナレッジ・シアターで文楽入門の公演として定着してくれればと思う。そのためにも、在阪5局は折に触れて文楽を取り上げて行ってほしいと切に願う。

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(平成27年2月8日 ナレッジシアター)

 *ところで。ぼくの文楽劇評って、激辛ですか? ある人に「厳しいなあ、アンタは」って言われたんやけど…。いやいや、もっともっと厳しいこと言うてる人、山ほどいてるけどなあ…。





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