人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念
平成二十七年初春公演 第一部
4月の大阪公演で二代目吉田玉男を襲名する玉女さん、大阪の本公演では「最後」となる「吉田玉女」を目に焼き付けておきたく、ちょいとばかり予定をいじくって初春公演千秋楽に馳せ参じた。
朝から観るのは、いじくった予定の関係で無理だったので、第1部の最後の狂言『義経千本桜』(千本道行)を幕見で鑑賞。これがわずか500円でOKなのだ!。公演前半に観て、「まあ、なんと美しい舞台!」と感動し、いつもは狐忠信が定番の勘十郎師が今回は静御前を遣い、狐忠信には幸助が抜擢されるというのも、文楽が新しいステップに入ったことを印象付けたので、もう1回観ておこうとなった次第。
もう20年以上前の話だけど、新進の若手人形遣いということで、とある媒体で彼のインタビューをしたことがあった。まだまだ少年の面影を残す、それこそどこにでもいる普通の若者だった幸助が、いまや狐忠信の早変わりなんてのを堂々とこなしているのを見て、歳月の流れを感じずにはおれない。そう遠くない将来、看板の人形遣いになっているのは間違いないねえ、楽しみだね。
第1部はほぼ9割のお客さんで、今公演で「大入り袋」が出たというのもうなづける入りだったけど、第2部はようやく7割という感じでちょっと寂しかった。「大阪で吉田玉女を観る最後のチャンス!」なのに、アピールが足らないのか、月曜の夕刻では仕方ないのか…。
『日吉丸稚桜』
「駒木山城中の段」
「とにかく、ややこしかった。いろんな人物の背景、つながりをこの段で一気に知らねばならないのは、けっこう苦痛だ」ってのが、前回鑑賞時の率直な感想。ところがだ。近い席のご夫婦の会話で旦那が嫁さんに話しているところでは、「ストーリーはいたって簡単。俺が家に帰って5分で話してやるよ」なんてドヤ顔口調で言ってたのが聞えて、「う~ん、俺って理解力低いのか?」なんて若干落ち込んでみたり(笑)。
まあねえ、およそ芝居だの映画だのあるいは落語、講談などは、それこそかいつまんで話せば5分や10分で終わる話なんでしょうけどよ、それを何時間もかけて役者が何人も出て来てあーだこーだやるのを観て、自分に投影させたり、「あるある」と共感したり、「そりゃアカンで、自分!」と突っ込んだりを楽しむものだろうに。それを旦那、「5分で話してやるよ」ってのは寂しいな、ちょっと…。
座席周りの観客観察はほどほどにして(笑)。<実はこれも楽しみのひとつww
さすがに2回目。今回はそれほど混乱しなかった。「あ、これは、加藤清正ここに登場!」という話なのか!と、今頃気づく(笑)。
奥の千歳大夫、この日はめっちゃ素晴らしかった。ここまで富助師匠の三味線と火花散らす千歳大夫って、やっぱり相当の実力者なんだなあと改めて実感させる熱演。随所で拍手も起きていた。この日の2部は、お客入りが寂しかったけど、浄瑠璃の「ここでっせ~!クライマックスは!」みたいな個所ではもれなく大きな拍手が起きていたので、聴き上手のお客が多かったのかな?
そういえば、外人さんたちがそんな場面で、人形ではなく床に向かって拍手していたのが印象的。どれほど日本語を理解している方たちかはわからんけど、ああいうのって、語学レベルの領域を超越して胸に響くんだろうな。いい光景だった。なぜ文楽が世界各国で称賛されているか、その理由の一端を見たような気がした。「でかしゃったでかしゃった、外人さんチーム!」
人形も五郎助の和生、木下藤吉の玉志、堀尾茂助吉晴の勘彌を軸にチームワークの取れた舞台を見せていた。
☆
『冥途の飛脚』
考えてみれば(いや、考えなくても)センセーショナルなタイトル。近松はこのように、タイトル=キャッチコピーでお客をひきつける能力に満ち溢れているね。感心するわ。
玉女さんが忠兵衛を遣うのだが、何度も言うように大阪公演で吉田玉女を観れるのは、正真正銘、これが最後の舞台。当然、小生も含めお客の集中度のすさまじさがひしひしと伝わる。
「淡路町」「封印切」
「淡路町」英大夫、團七。切場「封印切」の嶋大夫、錦糸。ともに非常にレベルの高い至極のひとときを提供してくれた。高級料亭の奥座敷で、一切の調味料を使わない、食材の風味だけでここまでの味が表現できるのか! という最高の逸品を味わった心地。「これが文楽だ、どうだ参ったか!」と世の中に大きな声で訴えて回りたいような気分。いまもまだその余韻に浸れるという具合で、これは相当なものを聴かせていただいたということだろう。
この前、歌舞伎の「封印切」観た感想で書いたけど、「文楽は浄瑠璃聴かせてなんぼ」「歌舞伎は役者見せてなんぼ」というのが、改めて実感できた。やはり、嶋さんの時も「ここ」という場面では客席から拍手が起きて、小生も「どうよ、俺の嶋さんは!」ってイイ気分に(笑)。
いまのところ、嶋さんと錦糸師匠のコンビは、想像していた以上の化学反応を起こしており、この先どんな演目をどんな風に聴かせてくれるのかと期待がいっそう膨らむ。
人形は忠兵衛(玉女)、梅川(勘十郎)の「ゴールデンコンビ」にて。歌舞伎のような「じゃーらじゃーらした」場面が二人の掛け合いにないのが文楽の「封印切」。すでにその後の運命を背負っているような最初の「出」が、まさに文楽であって、ここらに自分が文楽に魅かれる理由を見出したような気がする。歌舞伎よりも人間ドラマとしての泥臭さというか、説得力があると感じる。もちろんそういうのが苦手な人も大勢おるわけで、そういう人は歌舞伎に軍配を上げるはず。そこらが、両方観る楽しみなのである。
禿の若手が浄瑠璃を弾く手を遣ったが、よくできていて感動。公演前半が和馬、後半が簑之。このあたりの若手がどんどん顔出しで主を遣うようになってきており、人形陣の充実ぶりが改めてうかがわれた。
「道行相合かご」
いよいよ玉女さんとしての出演が大阪では最後となる舞台。それだけでも観ておく価値あり。
床は太夫が三輪大夫以下よくまとまっていたし、なんといっても三味線が清友のリードのもと、超若手の燕二郎までバッチシ!
☆
ちなみに、今公演の狂言、「これは『わくわく動物ランド』ですか?」な感じで(笑)。『海女』の宇宙人チックなエロ蛸、『千本道行』の狐、『淡路町』の馬に野良犬、浄瑠璃の詞章には千鳥や烏も登場して賑やかでござった(笑)。
さあ、そして4月は「吉田玉女改め二代目吉田玉男襲名披露」と相成る。
これはとにかく初日のよいお席を早々にゲットせねば! 相当な争奪戦が予想されるだけに、発売初日の寝坊だけは避けたい(笑)!
それにしてもカッコよすぎるわ、このポスター!! 分けてほしいなんて厚かましいこと言わない、売ってほしいわ~~!!
(平成27年1月26日 日本橋国立文楽劇場)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。
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