【上方芸能な日々 文楽】平成26年11月公演③

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念
平成二十六年11月公演 

11月公演は24日、大盛況…とまではいかないうちに公演を終えた。動員数は、速報値で1万9177人だったという。住大夫引退興行となった4月公演に比べて、ほぼ1万人少ない。とは言え、数年前までのことを思えば、大健闘以上の動員だったんではないかと思う。

とにかく今公演は、演目が地味だった。もちろん、ひとたび舞台を見れば、いかに名作なのかは初心者でも充分理解できるものだったが、世にアピールするには、どうにも地味な演目だった。

しかし、こうした一見地味な演目でも、文楽公演が、もっと言えば伝統芸能の公演が、「伝承、継承」の場であるという意味合いが非常に大きいことを考えると、派手だ地味だの線引きで、事を評価することは決してしてはならい。その線引きで語ると、何某の市長と同類に陥ってしまうのである。

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さて、「枯れ木も山のにぎわい」とでも言うか、少しでも文楽を賑わいあるものしたいという、ほんとうはこれは大阪府・市民の義務だと思っているのだけど、そういう気持ちから、公演期間中には何度も劇場へ足を運ぶようにしている。そんな中で、かなりの時間を舟を漕いでいたりしながらも、「これは」という場面や目についた芸人さんについて拙ブログで紹介しているわけで、評論家的な見方や劇評を期待している向きには、まったく意味のない備忘録であるので、そこらはご理解いただくとして…。

今回は主に、人形について。

10524267_533666763427724_2214409841049502190_o『双蝶々曲輪日記』

◆濡髪長五郎を玉也、放駒長吉を幸助が遣う。どちらも力士なので人形も大ぶりで、体力勝負。ご両人とも、力士の雰囲気を存分に表現する、人形のサイズに負けない力強い遣いようが印象的。とくに幸助は、悩める若者としての長吉もよく伝わってきたし、首(かしら)の鬼若とのマッチングもよかったなあ。

◆清十郎と一輔、相変わらず美しいたたずまいにひきつけられる。遊女の吾妻(清十郎)は風格と気品を、お照(一輔)は芯の強さを、それぞれが見事に表現。とりわけ、吾妻のクドキでは嶋さんの語りとの相乗効果もあって、拍手喝采を浴びていた。勘十郎の駕籠かき甚兵衛も味があった。

◆簑助、紋壽の両師匠は、言うまでもなく別格の存在感。簑助師匠の女房おはや、これはもうねえ…。ほんとにこの人は、年齢に関係なく立居振舞美しさは他の追随を許さない。最近、老女役がハマり役になってしまった感もある紋壽師匠だが、だからこその長五郎母親。

10524743_533665820094485_1242013358239408557_n『奥州安達原』
◆第一部での濡髪がよかった玉也さん、こちらでも平傔仗直方がよくって。実直で一本気、されど「袖萩祭文」ではぐっと悲しみを堪えてる様がひしひしと伝わってきた。袖萩は文雀師匠。祭文での泣かせ具合は、呂勢大夫の奮闘もあって、多くのお客がハンカチ探し。で、隣の奥さんがレジ袋をガサガサさせながらハンカチをようやく見つけた頃には、祭文も一段落という(苦笑)。簑次のお君ちゃんは、文雀師匠が袖萩ということで、存在感を引き立ててもらったかな?

◆玉女、安倍貞任が非常にスケール大きく、びしっとかっこいい。来春の玉男襲名が待ち遠しい限り。

◆「一つ家」では、なんと言っても勘十郎の岩手に尽きる。この表現力、「最強」の遣い手が、文楽「最凶」の女を遣ったというところですかね(下手なしゃれですまん!)。鼻の下をのばす薬売り、実は新羅三郎義光は玉佳。こういう役にはこの人かな。

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三業ともに、若手が公演前後半をダブルキャストで分け合う段、あり。それぞれに持ち味が出ていて、よかった。公演前半で「やるな~」と感心していた場面を、後半に別の者がやると、前半とはまた違う響き方を感じて、若手が競っているのが見えておもしろいし頼もしい。

総体的には、最初で述べたように地味な演目ではったが、見どころも聴きどころも満載で、いい秋の公演だったと思う。一方で、人形陣の充実は太夫、三味線チームに比べて数歩先を行っているのも実感。これは多分、人数の問題だけではないかと思う…。そこに若干の残念さを感じた。

あと、面白かったのは、日によってお客の反応が全く違ったこと。こういう公演も珍しいなあと。最後に『曲輪日記』観たときなんかは、浄瑠璃の反応が鋭くって、「ここ」と言う場面ではかなりの拍手が起きていた。かと思えば、とにかく人形への拍手がすさまじく「あの~、浄瑠璃聴こえへんからもうちょっと抑え気味に拍手してもらえませんか?」と言いたくなるような日も。バランス良く観て聴いて楽しみましょう(笑)。

さて、次の文楽劇場での本公演は新年1月3日初日。小生の注目は、文雀師匠の関寺小町、清十郎の鷺娘、久々の『彦山権現誓助剣』と『日吉丸稚桜』、さらには勘十郎の静御前と幸助の狐忠信による『道行初音旅』、『封印切』での嶋さんというところか。要するに次も見どころ聴きどころ満載。お見逃しなく!(って、俺、劇場の宣伝してるしww)


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