【上方芸能な日々 文楽】夏休み特別公演/第1部・親子劇場

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念
夏休み特別公演 親子劇場

今年の夏休み公演、親子劇場がとびきりおもしろいというハナシは、よく耳にしていた。耳にしてはいたが、やっぱりそこは自分の目と耳でしっかり確かめておきたいもの。うだるような暑さの中、朝っぱらから文楽劇場へ。朝が果てしなく弱いのに…。

客席につくと、こんなかわいらしいかみなり君がみんなを出迎えてくれるぜ! ってか、これは文楽劇場なのか?(笑)。

親子連れはもちろん、小生のように「ハナシでは聞いたけど、実際に自分で確かめなアカン!」みたいな大人の客もかなり多く、なかなか御盛況。

かみなり太鼓

■初演:今公演
■作者:小佐田定雄
■作曲:鶴澤清介 演出:桐竹勘十郎 作調:望月太明蔵


ということで、出来立てホヤホヤの新作である。それも子供向け。そんな次第でかみなり君のお出迎えがあったわけ。作者は落語作家としておなじみの小佐田定雄。この日も幕間でお顔を見つける。作曲、演出はNHK・Eテレ『にほんごであそぼ』コンビ。初日前から期待値は高かった作品。

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普段の演目のように定式幕がササーっと開いてチョンチョンと鳴って「と~ざぁ~い」で始まらないのもお子さん向けならではで、緞帳が上がるとそこには「うそかホンマかわからぬはなし よそでいうたらあきまへん」の文字に、鳥獣戯画タッチの楽しげな絵柄が。

「よそでいうたらあきまへん」と言われたので、あまり多くは語らないでおくけど、これは、ほんと楽しい愉快な、それでいてちゃんと文楽やってるという衝撃的ならぬ「笑劇的」な芝居だった。もちろんお子たち大喜び。さらには大人の御見物も大喜び。

床も人形も実に楽しんで舞台を勤めているのがよくわかる。小生イチ押しのラブリー♡靖大夫なんて、エキセントリックに「蚊帳に入んなはれ~!」と叫ぶおかあちゃんを、顔真っ赤にして語ってるのがおかしくてねえ(いや、ご本人はいたって真剣なんだが)。

鳴物の望月太明蔵社中も思いっきり楽しんでもらおうという思いがヒシヒシ伝わる「鳴らし」っぷりだし。舞台も古典ではまず見ない、廻り舞台を巧み使い、照明も色とりどりに使ってお子たちを退屈させることはない。

なんと言っても、こうした舞台からの投げかけにお子たちが素直に反応して、大喜びしているのが大人の客としては嬉しいし、舞台やってる方も裏方も含めてきっと冥利に感じているだろう。この作品、公演を重ねてほしいし、それこそ学生向けの鑑賞教室なんかでもやってみたらいいかもなあ。

最後に再び「うそかホンマかわからぬはなし よそでいうたらあきまへん」の幕が下り、「いうたらアカン」と念を押される。さらに念押しに幕から顔のぞかせる首(かしら)アリ。この落語的幕切れは、小佐田はんならではのオチ(笑)。

解説『ぶんらくってなあに』

やっぱりやるのね、ぶんらくってなあに…。親子劇場は、まあ一種の啓蒙活動でもあるわけだからそこはしゃあないけど。なんかやりようがあるように思うんだなあ、いつも。タイトルも含めてね。

太夫解説、芳穂大夫。人形解説、簑紫郎。ああもう、二人とも堅い堅い、楽しげに頼みます(笑)。

人形体験に場内のお子たちに参加意思を問えば、これがまあ手ぇ上げるのなんの。多分、ぼくらの子供時代なら、こんなに手ぇ上げる子おらんかったと思うわ。そういう点では今日びのお子たちは物怖じせえへんね。いい思い出ができてよかったね、舞台でさわらせてもらった3人は。

 

西遊記

■初演:文化13年(1816)7月、大坂御霊境内芝居(『五天竺』として)
*孫悟空の活躍に絞って『西遊記』と改作、昭和63年(1988)、国立文楽劇場
■改作作者:山田庄一 作曲:竹澤團七 作調:望月太明蔵


「五行山の段」
五行山の麓にさしかかる三蔵法師。聞えて来るはうめき声。声の主は岩に挟まれた一匹の大猿。名を孫悟空と言い、地獄、人間界、天上界を騒がせた咎により天帝から罰を受けて、この有様とのこと。改心し、仏の道守るなら助けてやると三蔵法師。助かった悟空、大喜び。天竺までお供いたしやす! ってな場面。

睦大夫、團吾、清公。岩が爆裂したりするも、お子たち、ちょっと退屈気味かな? 結構、マジの浄瑠璃っぽい場面だし。もうすぐおもしろくなるよ~、子供さん!

「一つ家の段」
英大夫、團七
婆さんと暮らす美女、芙蓉。芙蓉にしつこく迫るいとこの猪悟八。ここらへんもお子たち、けっこう退屈してる様子。一夜の宿をと訪ねてきた三蔵法師に毒まんじゅう食わせて、カネを奪おうとするも三蔵は実は「怪しき家!」と乗り込んだ悟空が変身していたから、婆さんびっくり。本物の三蔵も現れて婆さん罪滅ぼしにと自害しちゃう…。

退屈そうだったお子たちも、入れ事で「妖怪ウォッチ」だの『アナ雪』の例の一節とかが挟まってくると俄然舞台に注目。こういうのは英大夫は上手い。で、こうなると三味線が何を弾こうと太夫が何を言おうとお構いなく笑ったり驚いたりと大はしゃぎ。ま、見ていて微笑ましいけどね(笑)。

最後は悟空と芙蓉から姿を戻した妖怪銀角との立ち回り(如意棒に釘づけのお子たち!)、銀角の髪振り、さらには宙乗りへと大スペクタクルが展開され、子供ばかりか大人も大興奮!

宙乗りで銀角と「空中格闘」する悟空を下界=舞台で手を振って見守る小猿たちのツメ人形にやたら注目して、宙乗りを全然見ていないお子もおって、客席観察もおもしろし。

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一仕事?終えた悟空が、最後はお見送りしてくれます。

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「觔斗雲が迎えに行くので、またいらっしゃいね」と(笑)

小難しいことを考えながら観なくて済む分、心の底から大いに楽しめる親子劇場。「親子」とついているけど、入門編として、初めての文楽という大人も十二分に楽しめる内容。こんなにも敷居を下げてくれているにも拘わらず、これを観てなおも「文楽は敷居が高い…」なんて言う人いたら、もう何を観ても敷居が高いんだと思う。残念だな、さようなら…。

夏休み公演は8月4日(月)まで。まだ間に合います。できれば「親子劇場」に行ってみてほしい。お子たちのいるご家庭ならなおさらだ。お得な親子特別料金の設定もあるので、くわしくは上に掲載のチラシをクリック&拡大でご確認を!(完売の日も出ているから注意!)

あ、別に劇場の回しモンちゃうよ。こんなに楽しめる舞台を観ないのは損だよ、と申しておるだけだけやからね。是非とも~!

(平成26年7月29日 日本橋国立文楽劇場)


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