【上方芸能な日々 文楽】通し狂言 菅原伝授手習鑑~住大夫引退公演~<第3回目鑑賞・3>

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念 七世竹本住大夫引退公演
通し狂言 菅原伝授手習鑑

第3回目の見物を元に、公演を振り返るの第三弾。

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菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

今回は人形さんについて。

今公演の大当たりは、再三申し上げているように、そもそもが人気の『菅原~』であったこと、そこへ住さんの引退があり、さらには太夫三味線の充実、そして何よりも人形が素晴らしかったこと、こうした「人を呼ぶ」ことについての好条件がそろったからこそと思っている。

「世の中的」には、住さんの引退公演ばかりがクローズアップされたのは仕方ないけど、少しでも文楽を応援しようと言うのなら、それ以外の部分或いは、それを含めた総合的な見地で、今公演を評すべきだろうと思う。

そういう見方でいけば、今公演の人形陣の活躍ぶりは三業の中でも抜きん出ていたのではないか。

吉田簑助、吉田文雀
住さんの引退狂言「桜丸切腹」における、簑助師匠の桜丸と文雀師匠の八重。最高のものを見せてもらったと感動し感激した。身が震える思いだった。文楽が誇る人間国宝三人が、至極の芸を「たっぷり」と見せて聴かせてくれた。それまでの段での、清十郎の桜丸も、文昇の八重も達者に遣っていたけども、この愁嘆場における簑助師匠と文雀師匠の遣いようは、「こうも変わるものなか!」と驚愕。

一言で表せば「品格」。切腹する桜丸の態度は、まさに品格そのものであったし、悲しみとショックに打ちひしがれる八重の態度は、住さんの語りとの相乗効果が極まり、「こういうことを『心打たれる』と言うんやな~」というもの。人形の重鎮二人によって、住さんの引退狂言は、より一層、味わいあるものに仕上がっていた。簑助師匠と文雀師匠はこんな形で住さんの引退に華を添えたということだろう。

桐竹紋壽
休演がちで心配してたが、久々に拝見できてよかった。「寺子屋」で千代遣う。他の段では他の遣い手でもそつなくこなすだろうけど、やはりこの場面では、 この人でなければ色んなものが伝わってこなかっただろう。今回、全段において「適材適所」の妙が実にうまくいっていたと見えた。紋壽師匠の千代はその代表 格ではないかな。

桐竹勘十郎
松王丸はやはり「寺子屋」でキマる。きっとそうなんだろう。それまで、いまひとつはっきり見えてこなかった松王丸の「人間性」がくっきり明確化されるのが 「寺子屋」なんじゃないか、そう認識させられる遣いようだった。嶋さんの浄瑠璃で泣かされ、さらに勘十郎さんの遣う松王丸で波状攻撃のように泣かされる。 ホンマ、たいがいにしてほしい(笑)段である、「寺子屋」ってのは。

吉田玉女
来春、吉田玉男襲名が決まっている玉女さんは菅丞相を。故・玉男師匠の当たり役でもあった。前半は動きの少ない重厚な菅丞相には「風格」を感じる。一変して、「天拝山の段」における荒ぶる菅丞相には「激しさ」が。この二つの遣い分けが、明確でないと、菅丞相は生きてこないんだということを、よく示されていたんじゃないかなと。二代目・玉男への道を着実に歩んでいる。

吉田玉輝
左大臣時平。とくに「車曳」での威圧感が良く伝わっていた。「こういうスケールの大きな役ができる人だったんだ!」と、認識を新たにした。

吉田文司
梅王丸を遣う。「佐太村」で三兄弟が父、白太夫曰く「生ぬるこい桜丸が顔付き、理屈めいた梅王が人相、見るからどうやら根性の悪さうな松王が面構へ」。三兄弟を遣った人形遣い三人とも、この雰囲気をよく伝えていたと思う。中でも文司の梅王丸が「車曳」「佐太村」で、いい動きをしていたと思う。見栄えの良さ が光っていた。

吉田玉佳
稀世を遣う。この人はいつも人形を遣うことを心底楽しんでいるように見える。観る方もその「楽しさ」に引き込まれるという不思議な力を持っているみたい。稀世は、遣いすぎると多分、人形遣いその人が「鼻につく」ことになってしまいそうな、結構難しい役どころだと思うけど、そのギリギリの線をうまく保っているように見えた。この路線での境地を切り開いていってほしいな。そんな存在。特化してはいけないのかもしれないけど…。

今回は、自分自身は床への注目度が高くなってしまい、人形に向ける目が少々疎かになってしまったことは、反省せねばと。そこを踏まえて…。以上、特に印象に残った人形陣をざっと上げたけど、これらの人以外にも、紋壽師のところに記したように、適材適所の妙が生きて、またそれぞれが役どころの肚をきちんと理解しており、三業の中でも人形陣の充実ぶりが頭二つくらい出ているのがわかった。とは言え、その適材適所の妙を生かす殺すは、結局は床次第。そこから住さんが抜けるという現実。重ねて言うが、太夫陣は、一層の危機感を持ってもらわないと…。悲観はせず、期待しています!

(平成26年4月5日、18日、27日 日本橋国立文楽劇場)

201406bunraku_haiyakuさて次回の文楽見物は、久々に「社会人のための文楽入門」へ。別に「文楽入門」の講釈を聞きたいわけでなく、演目の『卅三間堂棟由来』がお目当て。予定の日には、最近のお気に入りの太夫も出ることですしね。


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