【上方芸能な日々 文楽】通し狂言 菅原伝授手習鑑~住大夫引退公演~<第3回目鑑賞>

人形浄瑠璃文楽
国立文楽劇場開場三十周年記念 七世竹本住大夫引退公演
通し狂言 菅原伝授手習鑑

IMG.jpgwp「満89歳をむかえ、68年間、文楽の太夫をつとめさせていただけて、喜びと感謝と敬いの心につきます。厳しくも優しかった先輩方の指導、文楽愛好者とファンの励まし、支えで、今日までやってこられま した。一昨年、脳梗塞で、82日間入院した後、家族の協力などもあり、いったんは舞台に立たせていただきましたが、今年2月の東京公演後、不本意な浄瑠璃を聴かせては、お客さんに申し訳ないと、自分から引退を申し出ました。急なことながら、このようなにぎやかな引退をさせていただいたことに感謝しています。これからも大阪で生まれ育った文楽をご後援、お引き立てください。私は、ほんまにええ星のもとに生まれた、ええご縁をいただいた。幸せに思っております。東京公演も、リハビリ、稽古をして、乗り切りたい」。

かくして、住大夫は文楽劇場の舞台を下りた。残すは5月の東京公演「沓掛村」。御身、お大事にされた上、東京の千秋楽を迎えていただきたい。

定式幕の前に立っての「引退御挨拶」という形については、「古典芸能の文楽として、床の上で引退口上をしないのは、いかがなものか」なる意見もあるようだが、「大阪の文楽」、その頂点に立ち続けた人の終わり方としては、これがよかったんじゃないかと思う。恐らく、あの空間にいたお客のほとんどが、そう感じたんじゃないだろうか。住さんの人柄のすべてが、あの「ご挨拶」の時間に感じられて、小生は、よい引退に立ち会うことができたと、喜んでいる。

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さて、その住さんの大阪での引退公演となった久々の「菅原伝授手習鑑」の通し上演は、速報値ながら、動員数2万9973人という新記録を達成した。今公演期間中、3回劇場を訪れたが、いずれも補助席が出る大盛況ぶりで、こういう文楽劇場は久しく見たことがなかった。もちろん、住さんの引退効果が大きく寄与しているのだが、昼の部もしくは夜の部のどちらかを観た人が、「こんなに面白いストーリーなら、後半(あるいは前半)もぜひ観なけりゃ!」と思わせるだけの力のある演目であるのも、その一因だと思っている。

と、言うわけで、「住大夫引退公演」であるが、あくまで文楽4月公演の「菅原」を観たという視点で、3回目となったこの日の公演を振り返ってみたい。

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)

作者:竹田出雲・並木千柳・三好松洛 合作
初演:延享3年(1746)8月、大坂竹本座
◆菅原道真(菅丞相)の大宰府配流と、丞相のために働いた三つ子と家族の命運を描く。近松の『天神記』など先行の「天神もの」の趣向を織り込む。『義経三本桜』『仮名手本忠臣蔵』と並ぶ、三大名作のひとつ


「大内の段」
(おおうちのだん)
前回記したように「御簾内」で激しく散る火花に好印象。特に若い太夫5人(と言っても、希、靖はすでに中堅レベルだけど)が、しのぎを削っているであろう空気が、御簾の中から充分に伝わってきた。観劇3回して、日に日に力をつけている御簾内を実感。また、ここを見せてくれたことで、後々のストーリー展開が非常に良く理解できた。「通し狂言」として上演する大きな魅力が、大序にはある。

「加茂堤の段」(かもづつみのだん)
梅王丸、松王丸、桜丸の三つ子が勢ぞろいし、梅、松、桜の命名の意味、現在のそれぞれの境遇やキャラクターがわかる。そして事件勃発。これが菅丞相ならびに三つ子の運命が大きく変わる…。
掛け合い陣のイキよく合っており、芳穂、睦も、掛け合いレギュラー陣に加わって奮闘。三つ子の性格を明確に聴かせていたと思う。團吾が掛け合いを上手にやり回す弾きようで上手。

「筆法伝授の段」(ひっぽうでんじゅのだん)
口:公演前半:靖大夫&龍爾 同後半:希大夫&寛太郎 甲乙つけがたい出来のよさ。元々、靖、寛太郎を高く評価していたけど、希、龍爾もレベルが高い。このランクの技芸人がグングン実力アップしてゆくのが、頼もしくあり、毎公演見るのが楽しい。

奥:津駒大夫、寛治 ここはもう、鉄壁の布陣。「うまいねんけど、やっぱり寛治師匠の三味線やもんな、そりゃうまくも聴こえるわな」的な見方にどうしても陥ってしまって、いささか気の毒な津駒さんだが、そろそろ切場に昇格してもらえませんかね…。そういう「いささか気の毒な評価」を払拭し、「津駒はほんとにスゴイんだ!」ってことを実証するためにも…。

「築地の段」(ついじのだん)
睦大夫、清志郎 丞相の境遇が一変した後に、スリリングな場面もあり、短いけど面白い場面。「そないに絶叫せんでも…」という嫌いも無きにしも非ずだったけど、この場面はやっぱりあれくらい「ゴォォォォォ――――――ル!!」的な語りの方がイイね、ご見物の食らいつきぶりも非常に良かった。その手綱を旨い具合に曳く清志郎が心憎いね。

ここからは二段目に。いわゆる「道明寺」と呼ばれる「丞相名残の段」という前半のクライマックスを迎える。近鉄南大阪線沿線の人間にはなじみ深い、土師ノ里(作中では「土師の里」)が出てきて、道明寺天満宮の由来が聴けるなど、南大阪線ユーザー必見の段が続く。こういうのは、近鉄さんはもっとうまく利用すればいいと思うよ、文楽さんは元々そういう企画にはノリノリな気質があるから…。

「杖折檻の段」(つえのせっかんのだん)
家庭内DVみたいなネーミングの段。実際、老母が実子を杖でシバクんだが、それを咎める丞相の声が襖の奥から、そこには丞相の木像が…。この木像、今では道明寺天満宮のご神体なんだから、沿線住民の小生は「ワクワク&え!そうなのか!」なエピーソード満載。そのへんのストーリーを、充実の呂勢大夫、清介のコンビで。

「東天紅の段」(とうてんこうのだん)
咲甫大夫、宗助 「鶏は水中の死体のありかを鳴いて知らせる」という習性を逆手に取った悪だくみは、一見うまくいったように見えたが…。死体を沈めた池の上に、箱の蓋にのせた鷄をおもむろに浮かべる父親・土師兵衛を見てバカ笑いする息子・宿禰太郎。この笑い方、咲甫さんうまいことやってけど、その笑い方に、ナポレオン帽子かぶった十三のおっさん(昭和40年代、大阪の超有名人だった人物で、笑い方に特徴)を思い出してしまい、実はそっちの「思い出し笑い」をこらえるのに必死だったことを、ここに告白しておく(笑)。

「丞相名残の段」(しょうじょうなごりのだん)
切:咲大夫、燕三 咲さんは、もはや「威風堂々」という言葉がぴたっりはまる浄瑠璃。聴き応え充分。ケチな話だが、これだけで5800円(4月から6000円)払う値打ちはあるなあ。これほどに完成度の高いものを聴かされると、他の太夫は太刀打ちできないな…。「稽古、稽古また稽古。稽古の気晴らしに練習、練習、また練習」これの繰り返ししかないでしょう。いやもう、とにかく「わかりました、もう許して下さい」と、何を許してほしいのかわからんが、そう言いたくなるような圧巻の浄瑠璃。燕三の三味線も負けずに応戦。「ハイ、どうぞ、ココですよ~」「あいよ!」みたいな連携なのか戦いなのか、ここまで語らせるんだから相当な弾き方してるというのが、床の間近の席でガンガン伝わってきた…。
ラスト数行(段切れ)の

夜は明けぬれど心の闇路、照らすは法の御誓ひ、道明らけき寺の名も、道明寺とて今もなほ…

「どーみょーじー」の部分、ありゃ普通にはない声の出し方、発音やな。惚れ惚れしますわ。
咲さん本人もパンフのインタビューで「…段切れも大変で、発散せずに聴かせないといけません。…」と。

00パンフついでに言うと。
毎度毎度「不親切だ!」とか「不良品だ!」とか文句ばっかり言っている公演パンフだが、今公演は、登場人物の相関図が使用する「首(かしら)」の写真入りで、1ページ使って掲載されているのがよかった。ご見物は概ね賢いお方ばかりで、観劇前の予習も欠かさないやろから、説明するまでもないことでも、中にはごくまれに、小生のようにぼけ~っと30年以上通ってるだけみたいな人間もいるんだから、パンフはできるだけ親切な内容にしてもらいたいもんだ!と、改めて要望しておく(笑)。

後半と、人形さんについては、次の稿にて。

(平成26年4月27日 日本橋国立文楽劇場)


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