【睇戲】『越境』(港題=過界)<日本初上映>

第9回大阪アジアン映画祭
『越境』(港題=過界)

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

春の訪れを告げる?には、あまりにも極端な土砂降り&強風の日。
「第9回大阪アジアン映画祭」を2作品続けて観た。

いやいや、さすがに2作連チャンは疲れまする。それこそ香港在住を始めたころは、そんなのヘッチャラだったのにね。ま、あのころは映画を「鑑賞」というよりも、「広東語に接する」ことに主眼を置いていたから、実は「中身はど~でもいい」みたいなね(笑)。

まず1作目は、「越境」。

原題は「過界」。「過界」とは境界を越えること。この作品では香港と深圳のボーダーを指している。

そして、これは問題作ですョ。今の香港社会の問題を鋭く描いていましたね。
この作品が、本土ではバレンタインに公開されたというのだから、あっちもちょっとは変わったのかな?

何をもって「問題作」と言うかと言いますと。

拙ブログでも、これまでにも何度か触れてきた、本土妊婦による「香港での越境出産」がテーマになっているということ。

一時は、本土妊婦が香港の産婦人科病棟を占拠し、香港居住の妊婦を受け入れるベッドが不足してしまうという事態にまで発展。
なぜそんな事態になったのか?

・本土の「一人っ子政策」により、二人目の子供には戸籍が与えられない←「黒孩子(へいはいず)」。存在自体が「無」とみなされている子供。人民として認められておらず、学校教育や医療などの行政サービスを受ける権利が無い。
香港は生地主義。親が香港籍でなくても、香港籍を取得できる

大陸妊婦が香港で出産するためのブローカーも跋扈。映画の中でも出てきたが、20万人民元(約340万円)もの仲介料をふんだくる。それでも、子供の行く末を思えば安いものなのか? あるいは「子供はあくまで投機対象」と見て、子供が香港で育つことは、自分たちの将来の安定につながるとの目論見なのか…。どちらにしろ、尋常ではない。

「香港出産、中国人」なんて検索をかけると、非常に詳しくわかりやすく、この「越境出産」について解説してくれている文章が山ほど出て来ますから、詳しく知りたい向きはそっちを当たってもらうとして…。

この映画の舞台は香港と深圳。同じ「中華人民共和国」なのに、ドブ川ひとつはさんで、その後の運命には天と地以上の開きがある。酷い話である。大量の大陸居住者が香港目指して、この川を泳いで密航した文化大革命の時代から、何も変わっていないのである。

この矛盾と悲哀が一つの柱として、描かれている。まさにその「深圳河」が象徴的に映し出される冒頭シーンが、これから観る者に訴えて行く内容の重たさを、暗示している。

このあたり、撮影にあたったクリストファー・ドイルの手腕が光る。あま、あの飲んだくれのおっさんなら、朝飯前のことではあるんだろうけど、いやもう、憎いね、ドイルのおっさん!

BENDS_HKPoster_final_1381915453港題 『過界』
英題
 『Bends』
邦題 『越境』
製作年 2013年
製作地 香港
言語 広東語(一部普通話)

評価 ★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督): 劉韻文(フローラ・ラウ)

領銜主演(出演):劉嘉玲(カリーナ・ラウ)、陳坤(チェン・クン)、田原(ティン・ユエン)、車婉婉(ステファニー・チェ)

映像の色、人物の顔の角度、あれこれと…。「ああ、クリストファー・ドイルだな~、香港映画だな~」と感じる。

主演は一応、劉嘉玲ではあるんだろうけど、そう言いきってしまうと、「過界」のタイトルが霞んでしまう。主演は深圳の夫婦(陳坤と田原)であるのは、間違いのないところだろう。さりとて、劉嘉玲がいなければこの作品も「ドキュメンタリー」的なものになってしまう…。

【甘口評】
劉韻文、初監督の作品。初めてと思えぬグッと押さえた演出が、ドイルの映像とのマッチング抜群。

上述の通り、川ひとつはさんだ深圳と香港の間に横たわる矛盾や悲哀が、非常に強く観客の心にインプットされる。こういう社会的題材の作品は、なかなか香港では受け入れられにくいけど、このコンビでまだ別の題材で社会派作品にチャレンジしてほしい。

旦那の失踪により、金満ハイソ夫人から一気に転落してゆく「押さえた破綻ぶり」を、劉嘉玲が好演。香港での出産に期待しつつも、それが不可能になった場合の罰則への不安を抱く深圳の女の孤独感を、田原が良く演じていた。

これというBGMがないままに淡々と画面が進んで行くわりに、観客が作品の中にグイグイ引き込まれてゆく。

さすがに世界各地で高い評価を受け、賞を獲得しているだけのことがある作品だった。
と、「甘口」らしく、誉めちぎっておく。

【辛口評】
特に辛口したい点は無い。ラストが少々あざといなあとは思ったけど、あそこはあれ以外やり方もないだろうし、あのラストに至るまでの深圳の男であり、転落金満ハイソ夫人の運転手の不安や焦燥感に、この作品のすべてが集約されているように思えたという点で、ラストも許容の範囲としておくと。

《過界》第一款預告 BENDS – Trailer #1(現地予告版第1集)

(平成26年3月13日 ABCホール)



 


3件のコメント

  1. ドイツでも少子化対策なのか、ドイツ生まれの子供で18歳までドイツの教育を受けた子供に国籍を付与するという法律改正が行われようとしています。さらにはドイツで生まれさえすれば則国籍ゲットという恐ろしい過激な意見もあるようです。そして二重国籍もOKということで、現実的にはEU非加盟の移民すなわちトルコ人対策なのでせうが、こんな「移民法」が成立してしまえばシナ人が大挙して出産に訪れるのは火を見るより明らか、剣呑な事態になりそうです凹(丸山光三)

    1. 香港ではこの一連の流れに批判的な声が圧倒的に多いようなのですが、一方で高度成長期が、大陸からの移民(密航者)の力によるところも大だったという過去もありますしね…。しかし、ドイツのその流れは恐ろしいですね。近年は猫も杓子も「グローバル化」を言い、TPPや移民受け入れなんかもその一環だと思うのですが、中には「猫」にも「杓子」にもならない国があってもいいと思いますね。日本などは、それでも大して困りはしないと思うのですがね。

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