【上方芸能な日々 文楽】夏休み公演<1>

人形浄瑠璃文楽
公益財団法人文楽協会創立50周年記念 竹本義太夫300回忌
平成二十五年夏休み文楽特別公演
<第3部 サマーレイトショー>

201307haiyaku-omote

大阪の夏、それは「地車囃子」の夏。ねちゃっと暑い大阪の夏にこれほど似合う音色も、まあない。その音色は、東南アジアの民族音楽のようにも聴こえる。蒸し暑い大阪の夏に、人の心をエキサイトさせる魔力を秘めているようで、ここに登場する団七九郎兵衛というお人も、その魔力に餌食になったと言えるんじゃないか。

天神祭宵宮の7月24日、地車囃子が随所で効果的に挿入される、夏狂言の代表的演目『夏祭浪花鑑』を観るなんて、アタシもなかなか粋だね(笑)。―なお、本作のクライマックスは、文楽劇場に程近い高津神社の宵宮の夜のこと。夏休み公演は、座席の等級分けがなく、うまくいけばかなり良い席を確保することも不可能ではない。今回、うまくいって、前から5列目でほぼ中央。ここは人形の動きが非常に良く伝わってくるので、面白いことこの上なし。

夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)

■作者:並木千柳、三好松洛、竹田出雲合作 世話物九段続き
■初演:延享2年(1745)、大坂竹本座


「住吉鳥居前の段」

▼靖大夫、清丈`~文字久大夫、清友の流れで。靖大夫は清丈`の三味線とよく合っていたようで、登場人物をよく語り分けており、物語へスムーズに導入してくれた。文字久大夫は、物語の3人の主人公である、釣船三婦(さぶ)、団七九郎兵衛、一寸徳兵衛のそれぞれの侠客ぶりを一層表現して場面だったが、若干、説得力に欠けたかも。ただ、小生としては、この場面での床がそれなりの聴かせ方をしてくれたことで、人形にも集中できたと思っている。
▼人形は、三婦を紋壽、団七を玉女、徳兵衛を文司。安心して観ることができる布陣。また、琴浦の勘彌、玉島磯之丞の文昇の存在感も「やるなぁ~」って感じ。お梶の文雀師は申すまでもなし。
▼こうして、イイ感じで始まり、団七と徳兵衛が片袖を交換しあう場面に「男だね~!、かっこいいね~!」と気持よくなって、休憩挟んで次の幕へ。

「釣船三婦内の段」
▼相子大夫休演につき、端場は代演で芳穂大夫。彼なんかはもっと出番があってもよいと思う太夫。もっと長い時間聴かせてほしいねえ。ところで相子は休演続きだが…。1月に繁昌亭で行われた「伝統芸能維新の会旗揚げ公演」では大活躍だったのに、どうしちゃったんでしょうか。
▼住さん登場。鳴り止まぬ拍手。「待ってました!」の掛け声も多数。今年の初春公演で復帰したわけだが、今もリハビリは欠かせず、物も食べにくい状態だと言う。ちょうど1年前に軽度とは言え、脳梗塞で倒れた90歳目前の老人である。現代の文楽の象徴であるのは動かし難い事実だが、相変わらず「住大夫頼み」のような空気も無きにしも非ずで…。太夫に限らず、この現状を突破する、そして住大夫のこのチャレンジの上を行くチャレンジ精神を持った芸人の登場が待たれるところ。
▼と言ったものの、さすがに住さん。「うぐッ!」と唸ってしまう場面多数あり。「やっぱり浄瑠璃はエエもんでんな~」と。
▼そんな住さんの後を勤めるのは、かなりしんどいことだと思うけど、希大夫はその力量は発揮したと思う。まあ、寛太郎の三味線に助けられてってこともあろうかと思うけど、そこはそれ、だ。
▼人形は徳兵衛女房お辰の簑助がやはり絶品。他の存在を全て飲みこんでしまうような「我(が)」は張ることなく、侠客の女房としての女の「男気」を見せつける立居振舞に引き込まれてしまう。
▼文楽の悪人の代表格のひとり、義平次は和生で。この人の見せ場は次の幕にて存分に。

「長町裏の段」
▼この作品最大の見せ場。ここまでの出来事は、この段のためにあるわけで、それらの仕込みが一気にここで爆発するわけでして、これはもうまさに手に汗握るシーンの連続。ある意味、周潤發(チョウ・ユンファ)の一連の「香港ノワール」のクライマックスシーンを彷彿とさせる。
▼床は、千歳大夫の団七、松香大夫の義平次の掛け合い。息ぴったり。3年前にやはり「夏休み公演」で『夏祭浪花鑑』がかかったけど、そのときも掛け合いは千歳&松香。当時の感想を見ると「さらに贅沢な要求をするなら、松香さんにもっともっと、観客の憎悪を一身に集めるくらいの憎らしさがあれば…」なんて書いてるけど、いやいや今回、たっぷりすぎるほどでした。
▼さあ、ここで人形よ。団七の玉女がびしっとカッコ良いのだが、それを一層カッコよく見せたのは、やはり義平次遣った和生だと思う。この段の最大の功労者とみた。和生にはまるで義平次が憑依したかのような…って言うと変な方向に進んでしまいかねないけど、そんな感じ。まあ、見に行って自分で確かめてくださいな、そのあたりは。
▼そして例の「悪い人でも舅は親」。団七は堪え切れずに義平次を殺してしまったわけだけど、正気を取り戻してこの言葉。ゾクッとくるね。

実は、行くまでは、「また『夏祭~』か」と思っていた。実際、夏場にはよくかかる演目だし、冬場にやっても臨場感が湧かないだろうから仕方ないのだが。

小生は「織田作之助生誕100年」記念の年に合わせて、久々に『夫婦善哉』かけてほしいなあと思っていた。NHKもドラマでやるらしいし、こんなタイミングないだろうと。主演の森山未來と尾野真千子が劇場に来たりしたら、双方ともに絶好のPRになるだろうに…と。

でも、やっぱり夏の文楽は『夏祭浪花鑑』だと、観終わって感じた。あの地車囃子、このクソ暑い夜…。観るにつけ演じるにつけ、この時期の大阪ならではの芝居だと。

(平成25年7月24日天神祭宵宮の夜 日本橋国立文楽劇場)


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