【上方芸能な日々 文楽】若手会

文楽の世界では、「30、40は鼻たれ小僧、50、60で一人前」なんてのを耳にしたことがあります。その論にあてはめるなら、この日の「若手会」は、ようやく「鼻たれ小僧」になったか、あるいはまだ、鼻たれ小僧の域にも達していない、まさしく「若手」ばかりによる公演。しかし、すでに芸歴10年以上、中には20年以上の達者なメンバーですから、本公演に勝るとも劣らぬ、クオリティーの高い舞台を見せてくれたのであります。

第13回 文楽若手会

国立文楽劇場 平成25年6月22日、23日

201306wakatekai-omote2日目となる、23日日曜日に見てまいりました。ほぼ満員の客席。「若手会」にふさわしく?お客の中の「若手」の比率もいつもより、ちょっと高め。出演者の友達とかかもわかりませんね。2000円という超格安観劇料金も懐に嬉しいですしね。アタシなんかは、サンダル履きにだらしないタンクトップに薄汚れたシャツ羽織って行きますが、お着物でビシッとキメたご婦人も多くて、この落差よw!ってところです。アタシだって、着物は持ってますし、一人で着付けもできますが、何分、ご不浄が面倒なんで…。

ウダ話はさておき。

①『二人禿(ににんかむろ)』
太夫:咲寿大夫(H17年7月)、小住大夫(H22年10月)、亘大夫(H23年7月)
三味線:團吾(H元年7月)、清公(H18年7月)、錦吾(H21年7月)
人形:紋吉(H6年4月)、玉誉(H6年4月)
( )内は、初舞台年月、以下同。
■舞踊ものです。太夫陣がいずれも若手らしく、大きな声を大きく口をあけて出しているのに、大変、好感を抱きました。「若手はこうでなくちゃ!」のまさに見本の語りでありました。重鎮・住大夫は、よく、「上手ぶるな、下手にやれ!」てなことをおっしゃいますが、今の技量のありのままをお客に見てもらえ、聴いてもらえということと、小生は理解しています。技巧に走ることなく、素直に語る姿があればこその、万雷の拍手だったと思います。三味線方も人形遣いも同様。こういう姿を見れるのが、若手会のいいところ。

②『絵本太功記(えほんたいこうき)』
「夕顔棚の段」
太夫:希大夫(H16年7月)
三味線:寛太郎(H13年1月)
「尼ヶ崎の段」
前 太夫:芳穂大夫(H15年9月)三味線:清丈`(H12年7月)
後 太夫:咲甫大夫(H5年6月)三味線:清志郎(H6年6月)
人形:清五郎(S57年4月)、一輔(S60年4月)、紋秀(H2年4月)、文哉(H2年4月)、玉佳(S60年4月)、玉勢(H2年4月)、玉彦(H21年4月)、大ぜい
■「もうこのまま本公演にかけてもいいんじゃないか?」というほどの出来具合でした。もちろん、重鎮クラスやベテラン勢には及ぶものではないですが、それでもこの顔ぶれでこれだけの「太十」をやってのけたというのは、大きな収穫だったんじゃないでしょうか?それはお客も同様で、連中の力量のほどをしっかり確認できたということで、共に実りある「太十」でした。
■床では、希、芳穂、咲甫が非常に肚の据わった語りを聴かせてくれました。「太夫陣の層の薄さ」を嘆く方も散見しますが、このクラスの太夫には、そんなネガティブな声を吹き飛ばすような、一層の頑張りを期待したいものです。
■三味線では、かねてより「手のよく回る子」と感心しながらも、まだまだ幼いころの印象の強かった寛太郎の力量に、改めて驚きました。もちろん「血筋」もありますが、芸の力は「血筋」だけでは向上するはずはありません。相当な稽古を積んでいる証しを聴かせてくれましたね。5年後、10年後にどんな音を聴かせてくれるのか、そんなワクワク感を持てる若手です。
■清丈` 、清志郎はすでに安心の領域に来てはいますが、それだけでは不満です。下から凄い奴が追い上げています。この辺の頑張り次第で、三味線陣は面白くなりそうです!
■人形では、光秀を遣った玉佳の出来が印象的です。豪壮な所作とともに、子を失い、自らの早まった行為で母の命を奪ってしまったという、やり場のない感情がひしひしと伝わってきました。スケールの大きさと繊細さ、この日の最大の収穫と言ってもいいかもしれません。

③『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』
「野崎村の段」
中 太夫:靖大夫(H16年7月)三味線:龍爾(H14年7月)
前 太夫:睦大夫(H10年7月)三味線:喜一朗(H元年7月)
後 太夫:靖大夫 三味線:清馗(H11年9月)ツレ/清公(H18年7月)
人形:紋臣(H元年4月)、簑一郎(S57年10月)、勘市(S60年4月)、幸助(S56年4月)、簑次(H12年4月)、簑紫郎(H3年4月)、勘介(H22年4月)、玉路(H23年4月)、玉誉、勘次郎(H18年4月)
■2日前に、NHKのEテレで4月公演の同様の場面が放映されました。住大夫の病気回復復帰後、文楽劇場での2度目の公演でもあり、ご本人も非常に気合を入れて臨まれた場面でもあります。意地悪な人はこのときと比較したりするかもわかりませんが、靖大夫はしっかと実力を発揮しました。小生なんかは「靖大夫、一世一代の野崎!」なんて言っちゃいますが、いかがなもんでしょう?非常に頼もしく見え、彼の存在が小生の中で、急激に大きくなった瞬間でもありました。本来なら、相子大夫の持ち場でしたが、相子の病気休演により、靖に出番が回ってきたわけですが、結果として、それは靖をスケールアップさせることになった、と言うと相子が気の毒ではありますが…。
■人形では、幸助あたりはもはや「若手」とは言いにくい立場になっていますが、その分、舞台を引き締める存在感が際立っていました。このメンバーで彼が久作を遣ったのは、非常に適役だったと思います。昔は「似てない親子やな~」なんて思ってましたが、このところ急に父であり師匠であった故・玉幸師に表情が似て来ました。 お染の簑紫郎もよかった。

重鎮やベテランクラス抜きで、この内容。これがたった2日間の2公演のみというのが、非常にもったいない気がしてなりません。「若手会」の公演数を増やすには、乗り越えねばならない壁がいくつもあることは何気にわかってはいますが、「鑑賞教室」とともに、文楽入門の間口を拡大する意味でも、年に2回程度は開催してもええんじゃないかと思います。

この後は、夏休み公演やら素浄瑠璃の会やら若手の素浄瑠璃の会があって、9月の東京公演、そして文楽劇場の秋の公演は、久方ぶりの『伊賀越道中双六』の大序からの通し上演です。この大作に「若手」たちがどう挑んでいくのか?これは楽しみじゃないですか!

(平成25年6月23日観劇)

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