7月1日、香港特別行政區は成立28周年を迎えた。要するに「祖國回歸28年(香港返還28周年)」。「一国両制」だの「50年不変」だのと言っても、「両制度」も「不変」も、その線引きをするのはあくまで中国政府なので、諸外国が思い描く理想とはかけ離れたものになっても仕方ない。1997年7月1日をもって、ここが中国の地になったとわかってて言ってるのか、知らずに騒いでるのかは知らんけど、どうもこの季節になると、香港の将来を危惧する人が増殖して、苦笑してしまうww。

▶ 李家超行政長官、特区成立28周年祝賀演説
李家超(ジョン・リー)行政長官は、香港特區政府の高官、中央人民政府駐香港特別行政區聯絡辦公室(中連弁)主任の周霽(チョウ・ジ)をはじめとする香港駐在の中央政府職員とともに、7月1日午前、灣仔(Wan Chai)の金紫荊廣場(ゴールデン・バウヒニア・スクエア)と會展(コンベンション&エキシビションセンター)での升旗禮(国旗掲揚式)とカクテルレセプションに出席した。曾蔭權(ドナルド・ツァン)、梁振英(CY・リョン)、林鄭月娥(キャリー・ラム)の歴代行政長官も出席したが、初代行政長官の董建華(C.H.トン)は昨年に引き続き5年連続で欠席した。
どうしてるんだろう、董建華。初代ということもあってか、終始右往左往している感じで、結局何もしなかった、という印象。SARSの時も、奥さんの方が目立ってたもんね(笑)。返還前の「初代長官は誰だ!?」てな時期から、実際の選出、就任と続き、「返還ってこういう段取りで進んでいくのか」というのを見せてもらえた人物の一人。長らく公の場に姿を見せていなのは心配だ。

特區成立28周年祝賀演説で、李行政長官は「今後、高いレベルの安全保障をもって品質の高い発展を支え、国家安全保障を堅持し、積極的に国家全体の発展に統合していく」と述べた。また「企業のアップグレードと変革を支援し、国内外の市場を拡大し、国際交流と協力を深めることで、単一市場への過度な依存による貿易リスクを相殺する」と述べた。さらに「北部都會區(新界北部大都市圏)の発展を加速させる上で、新たな概念と新たな方法を導入し、壁を取り除き、市場の力を結集し、スピードと効率を高める」と述べ、「政府は公共住宅の供給を加速し、入居待機時間をさらに短縮するなど、住宅、医療、教育、福祉の分野における民生の向上にも引き続き力を入れていくと」述べた。
北都も公営住宅も結局のところ、英領時代から綿々と続く「デベロッパー至上経済」ということで、「50年不変」どころか、その先も永遠に続きそうな勢いである(笑)。

国家、安全保障、国家安全保障…。以前の行政長官はこんなにも繰り返さなかったと思うが、李行政長官はこれでもかと繰り返す。これをずんずんと、時に強引すぎるのではと思うほどに推し進めるのが、李行政長官の「行政手腕」。相当なやり手。やはり「国安法」という後ろ盾があると強い。一旦、社会に歯止めが利かなくなると、最終的には、こうなるよな。

李長官はまた、清代の作家、彭端淑によって書かれた文章『為學一首示子侄』の有名な一節「天下事有難易乎?為之,則難者亦易矣;不為,則易者亦難矣=世の中の事には、難しいことと易しいこととがあるのだろうか? 行えば、難しいことでも易しくなる。 行わなければ、易しいことでも難しくなる。」を引用し、停滞や安穏といったものは存在しないと述べた。
なるほどね~。こういう古典の一節をスピーチに混ぜると、発言の厚みが増すよね。割と有名な一節ではあるけど、「ああ、この人、賢いわ~」って思わせる効果がある。反対派の人は、まったく逆のことを思うだろうけど(笑)。でも、ただ政策の自画自賛的なスピーチに終始するよりは、絶対こういうの入れる方が、小生は好きだな。
▶ 民主党創立メンバー、「民主派は歴史になった」
さて、カクテルレセプションには、今年も「民主派」からの唯一の参加者、李華明(フレッド・リー)の姿があった。泛民主派政党「民主党」と「社會民主連線(社民連)」が今年に入って、相次いで解散を表明した。民主党の創立メンバーで元立法会議員の李華明は、何を思うだろう。

李氏によれば「民主党は既に清算人を見つけており、党本部も売却している」という。李氏は、民主党員が返還記念日のレセプションに出席するのはこれが最後だと考えている。先日の社民連の解散について問われると、「社民連は民主党よりも前衛的で急進的であり、解散は想定内だ」と答えた。同じく出席していた行政会議メンバーで立法会議員の林健鋒(ジェフリー・ラム:香港經濟民生聯盟)は、「香港は自由で開かれた社会であり、政治団体が表舞台に出たり消えたりするのは普通のことだ」と語った。そうそう、普通のことよ。
民主党と社民連は、それぞれ今年2月と回帰日2日前の6月29日に解散を発表した。前者は依然として関連手続き中だが、後者は即時解散となった。最も政府に激しく抵抗した反対勢力だと思っていた社民連だが、なんともあっけない解散劇だった。
太平紳士(=治安判事)として祝賀レセプションに招かれた李華明は「民主派はもはや過去のものとなった」と言う。「現在、立法会には『非建制派』の人物がいるが、彼らは伝統民主派とはみなされないだろう。年末の立法会選挙で民主派が『ゼロからの突破』を成し遂げることは絶対にないだろう」と予想す一方で、「民主派ではない非建制派政治団体が積極的に候補者を送り出す」と見ている。しかし、現時点で、こうした団体が選挙戦への参入を許可されたという報道はない。「もし彼らが出馬できなければ、議会は「画一化」してしまい、健全ではない」と李氏は危惧する。
▶「香港八大学」など教育現場でも国旗掲揚式典
香港特別行政区成立28周年を祝し、複数の大学や教育機関で国旗掲揚式典が行われた。大学で参加したのは、補助金を受けている8大学、複数の専門教育機関、そして香港教育工作者聯會(教連会)など。香港科技大學では、キャンパスで国旗を掲揚する学生主導の組織「國旗護衛隊」が、昨日デビューした。葉玉如(ナンシー・イップ)学長は、「今年の國旗護衛隊結成は、若者の国家への帰属意識を強め、強い国家への誇りと愛国心を育むことを目的としている」と述べた。葉学長はまた、「より多くの学生の参加を期待している」と語った。

科技大の「國旗護衛隊」は、香港と中国本土の学部生と大学院生24名で構成されている。彼らは5月から香港青少年軍總會から専門的な国旗掲揚訓練を受けていた。参加した学生たちは、香港と国家の発展に貢献したいという希望を表明した。
香港大學、香港中文大學、香港科技大學、香港城市大學、香港理工大學、香港浸會大學、嶺南大學、香港教育大學、さらに香港都會大學(補助金対象外)は国旗掲揚式典を開催し、各大学の理事会や大学委員会の委員長が、国家安全保障について言及した。香港教育大學評議会の黃友嘉(デヴィッド・ウォン)議長は、「今年は香港の祖国復帰28周年、そして国家安全維持法施行5周年に当たる。キャンパスで教職員や学生と共に国旗掲揚式典の神聖な瞬間を共有したことは、彼らの愛国心と香港愛を強め、国家意識と国民アイデンティティを育むことになるだろう」と述べた。いやもう、大学生も変わったね…。
香港教育工作者聯會(教連会)も、愛國教育支援中心(愛国教育支援センター)で香港升旗隊總會メンバーによる国旗掲揚式典を行った。式典に出席した教育局長の蔡若蓮(クリスティン・チョイ)は、「国旗掲揚式典は国家への敬意を表するだけでなく、香港が国家の一員であることへの誇りを人々に深く感じさせてくれるものだ」と述べた。教育界が様々な教育資源を有効に活用し、若い世代が国家の発展過程と文化的成果をより深く理解できるよう支援することを期待すると述べた。

教育界での国旗掲揚式典が定着したのは、ここ5、6年のことだと思う。拙ブログでも何度か触れている。回帰日だけでなく、国慶節や元日など「吉書の日」に、大学だけでなく小中学校から幼稚園まで、式典が行われている。やってるところは返還前からやってたので、びっくりすることでもないし、気にするような話ではなかったんだが、やっぱりメディアはどうしても「国安法以前、以後」で語りたがるから、そんな報道が目立ってしまう。繰り返すが、1997年7月1日を以て、香港は特別行政区とは言え、中華人民共和国になったんだから、国旗掲揚の式典があっても全然不思議じゃないでしょ。と、小生は思うんだが…。思いたくないのは勝手だが、現実を見よ!歴史を見よ!と言いたいね、そこは。
▶「七一優惠」が好調。飲食業界、交通機関、博物館などが参画
香港返還28周年を記念し、様々な分野で「七一優惠(7月1日プロモーション)」が開始された。3日間、路面電車がタダになったり、3,800店以上のレストランでは「七一折=29%引き」となったりと、あっちもこっちもタダの大安売りである(笑)。かかる状況なもんだから、ショッピングモール、レストラン、交通機関は「安い話を見逃すな!」と飛びついた市民や、「なんかラッキー!」と引き寄せられた観光客でごった返した。香港餐飲聯業協會(香港飲食連合会)会長の黃家和(サイモン・ウォン)氏によると、今年は例年よりも多くのレストランが割引を実施し、客足も好調なことから、飲食業界全体の売上は、昨年比10%増を見込んでいると言う。

路面電車の「3日間タダ」、天星小輪(Star Ferry)の尖沙咀(Tim Sha Tsui)ー灣仔(Wan Chai)のタダ含む様々な公共交通機関で無料運転が実施され、一日中多くの市民がタダ乗りを堪能した。港鐵(MTR)では、3つのプロモーションを実施。7月1日は、71,000枚のMTR全線タダ券の抽選会を行ったほか、小童八達通(子どもオクトパス)を所有する3歳から11歳の子供さんは、8月31日まで機場快線(Airport Express)がタダに、来年1月4日まで樂悠咭(長老パス)所有の60歳以上の人は機場快線が半額になるキャンペーンを実施する。そうそう!小生も早く樂悠咭の申請をしないと(笑)。
入境處の統計によると、回帰日(祝日)前日の6月30日の出境者は、48万6,000人だった。そのうち香港在住者は35万3,000人で、昨年より約13万人減少した。一方、入境者数は43万9,000人で、そのうち中国本土からの来訪者は8万8,000人で、昨年とほぼ同数だった。七一優惠は、とどまることなき香港市民の「北上消費」に、この日だけは歯止めをかけたと、好意的に見ておこう(笑)。
七一優惠に参画している多くのレストランでは、朝から長蛇の列となった。中でも、太興集團(TAI HING GROUP)傘下のレストランは、一日中店内飲食の全メニューを七一折(29%割引)とした。深水埗(Sham Shui Po)のショッピングモール「V Walk」にある太興グループの台湾式軽食喫茶「茶木(Tea Wood)」も大行列となった。同じV Walkにある美心集團(Maxim’s Group)の「美心FOOD2」も、一部メニューを七一折で提供しており、ほぼ満席となった。もうとにかく、なりふり構わず、業界あげての「香港市民引き留め工作」に必死。

また、大手デベロッパー、信和集團(Sino Group)では、傘下のショッピングモールで正午から2万8千食のアイスクリームとポップコーンを無料配布。ちびっ子たちにはパンダのバルーンを配布した。「奧海城商場(Olympian City)」では、タダのアイスやバルーンをゲットしようと、多くの家族連れが行列を作った。

美術館や博物館も入場無料となった。香港特区政府の康樂及文化事務署(Leisure and Cultural Services Department)は、香港藝術館や香港文化博物館など、いくつかの施設を無料開放した。通常は有料の施設も、一部がタダで観覧できるため、多くの博物館や美術館は、開館時間前から長蛇の列となった。また、7日まで、中環(Cetral)の大館(Tai Kwun)では、無料の一般向けガイドツアーと、館内の店舗で100香港ドル以上の消費で記念品がもらえるなど、政府の文化・レジャー部門も、祝日の北上消費阻止に必死だ。

かつては、50万人デモやら100万人デモに繰り出し、政府に向けて怒りの拳を振り上げていた香港市民の皆さんだが、今では、飲食店の割引きに殺到し、タダで交通機関を乗り回す。そしてタダ見できる博物館に押し寄せる。この豹変ぶりときたら、もうねぇ。

小生的には、長毛が棺桶担いでた、数千人から1万人程度の規模の民主派デモが行われていた時代が、ある意味、「健全」な時代だったと思う。2019年のような「民主化デモ」の皮をかぶった暴力破壊行動の7月1日は当然「不健全」だし、今日のような「何もさせない」7月1日も、これまた「不健全」だ。一つ言えるのは、以前のような「不健全」な7月1日は、もう戻ってこないということだ。本来「不変」であるはずのものを、変えてしまった2019年の暴力破壊行動の狂気は、民主化どころか、かくも不幸な結果をもたらしたことは、しっかり記憶にとどめておくべきだろう。

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在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。