(photo AC)
「伊坂幸太郎の集大成!」と帯にある。大体、帯の宣伝文句には「集大成」だの「最高傑作」だの文句が並ぶので、「ああ、そうですか」程度にしか見ていない。が、事が伊坂幸太郎となれば「お!そうか!絶対に読まねば!」となってしまうのは、まさにファン心理が動くというもんだろう。本書『ペッパズ・ゴースト』は、世の中がコロナ禍に疲れ果てていた2021年9月に単行本が発行された。書店で早々に見つけてパラパラと立ち読みしてはいたが、伊坂本は文庫で買う主義なので、その時は購入していない。まあ正直なところ「単行本は高い!」からね(笑)。と、いうことで、コロナ禍のあの頃から3年が経過して、晴れて我が書棚に並ぶことと相成った。
『ペッパーズ・ゴースト』 伊坂幸太郎
朝日文庫 ¥946
2024年12月30日 第1刷発行
令和7年2月18日読了
※価格は令和7年2月20日時点税込
久野遥子のカバー装画がこの物語にピッタリだなぁと、読み終わった後に改めて眺めてみる。うん、確かに色々と物語っている装画だと感心。単行本のカバーの雰囲気とは全く違うポップなものになっている。書店で平積みになっているのを見かけた方も多いだろう。ちなみに、紀伊國屋書店とTSUTAYAではオリジナルバージョンのカバーのものも同時に販売されている。ああ、これ3パターンとも買う人いるよな、絶対に(笑)。小生ですか?まさか(笑)。単行本買うのに躊躇しているうちに文庫化されていた、なんてのが日常茶飯事な野郎が、同じ本を3冊も買うわけないでしょ(笑)。
さらに、書店店頭にはお持ち帰り自由の販促リーフレットも用意されている。4コマ漫画で面白くあらすじが紹介されていて、これはこれで楽しい。とにもかくにも、この一冊にかける朝日新聞出版の熱量の凄まじさよ!
カバーには次のような簡単な「あらすじ」がある。まあ、これを見て「おもしろそうだな、読んでみよう」などと思う人は、実際にはそれほどいないと思うけど(笑)、購入の一つのきっかけにはなるかもしれない。
中学教師の檀は、猫を愛する妙な二人組の小説原稿を生徒から渡される。さらに他人の未来を観る力を持つことから謎の集団とも関わり始め……。苦い過去を乗り越えて檀先生は、世界を、自分を救えるのか!? 毎ページすべてが楽しく愛おしい、一大エンターテイメント!《解説・大矢博子》
主人公の中学教師の檀千郷(だん・ちさと)先生、最初は女先生だと思っていたら、男先生だった(笑)。この先生の教え子の布藤鞠子(ふとう・まりこ)が創作した小説の内容が、ちょっと物騒なストーリー。猫の虐待を許せない二人組「ネコジゴ・ハンター」が、猫を虐待した人物に報復する。ただ、二人の会話のやり取りが軽妙で憎めない。それこそ「伊坂ワールド」な二人、ロシアンブルとアメショー。檀先生が主人公なんだけど、この作品、ネコジゴ・ハンターの二人の人気が非常に高い。実際、小生もこの二人の物語として読んでしまった(笑)。
最初は、布藤鞠子の書いた小説は、あくまで彼女の創作物、「作中作」という体(てい)で物語が進んでいったのが、檀先生がかなり物騒でシリアスな事件に巻き込まれてしまった時、突如、ネコジゴ・ハンターの二人が現実として檀先生の前に現れる瞬間が、お気に入りの場面。「アメショー、ハラショー、松尾芭蕉!」と言って現れるアメショーの姿を想像してみたが、上述の販促リーフレットを入手してみて、納得。かなりチャラい野郎に描かれている(笑)。
檀先生が事件に巻き込まれてしまったのは、檀先生の特異な体質が原因でもある。「飛沫感染」で他人の未来が少し見えてしまうのだ。彼はこれを「先行上映」と呼ぶんだが、その先行上映のために、出会わなくていい人と出会ってしまったり、その人のために事件に巻き込まれてしまい、およそ世間の中学教師としてはありえない経験をしてしまう…。でも勇気あるよな、檀先生!と思ってしまう。
「先行上映」のために、テロ事件に巻き込まれる檀先生。しかもテロを寸前のところで食い止めるなんて、「お前、中学教師かよ?」ってな展開はかなり無理やりなんだけど、そこがまた伊坂作品ならではの面白いところで、そこに至る展開も含め人はこれを「伊坂ワールド全開」と呼ぶ。小生的には全開一歩前っていうところかな、この作品の場合は。もっともっと全開している伊坂作品はほかにあると思うよ。
そしてこのテロ事件。天下国家の転覆を狙うテロではなく、ある無差別爆破事件の死者の遺族が、無責任な発言をするテレビのMCや世間への怨恨が引き金となっていて、テロ計画者たちには同情も覚えたりして、一方的に「テロリスト」扱いしたり断罪したりはできないよなぁ…と思う。で、ここに檀先生が巻き込まれるんだけど、この「なんで俺がここにいるの?」的な主人公も伊坂作品にはよく登場なさる(笑)。
伊坂もなんだかんだで仙台の人なんで、今作にも楽天イーグルスらしき球団が、屋根のない未来の(?)後楽園球場で試合している、なんてシーンがあって、そこが一番のクライマックスという設定に「仙台愛」を感じてしまう。まことに微笑ましい(笑)。
その後楽園球場の「テロ寸前」状態の中、深手を負ってしまったネコジゴ・ハンターのロシアンブル。「え、ロシアンブル死ぬんか?」と心配になる…。というところで、二人が主人公の「作中作」は終わりとなる。現実世界の出来事であっても、二人が登場する場面はあくまで「作中作」となっている。ああ、なるほどこれぞまさしく「ペッパーズ・ゴースト」か。
さて、「死ぬんか?」とめっちゃ心配してしまったロシアンブルだが…。ある日の檀先生の「先行上映」では、「おや?もしやアナタは…」。この終わり方がすごく「伊坂ワールド」してるなぁと感じる。「ま、そこは読者の皆さんの好きなように続きを想像してくださいね」というエンディング。きっちり「オチ」をつけるより、小生はこういうエンディングが好きだな。伊坂にはこういうエンディングが多いような気がするが、違うか?
振り返ってみれば、かなり奇想天外でかつ物騒極まりない物語だったけど、それを感じさせないのは、軽妙な会話のキャッチボールや悪いことしてるのに憎めないキャラの登場などで、楽しませてくれる。というわけで、今回もまた「伊坂マジック」とかいうやつで、見事に手のひらで転がされていたチョロい読者であった(笑)。
ネコジゴ・ハンターの二人、またどこかに現れてほしいな。「アメショー、ハラショー、松尾芭蕉!」。これこの作品だけで終わらせちゃ、あまりにも勿体ないですよ、先生!
★特設サイトもあるよ~ん!
https://publications.asahi.com/feature/peppers_ghost/
伊坂幸太郎デビュー25周年記念書き下ろし作品。まだ読んでません(笑)。 |
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。