【睇戲】金手指

<とにかく金ピカな梁朝偉(トニー・レオン)。90年代のトニーを観ているような気がしたが、今年、彼は63歳! いやはや歳月とは何かと残酷でありますなぁ…>


さあ、今年2本目も期待の大きい港片。なんせ梁朝偉(トニー・レオン)、劉德華(アンディ・ラウ)の共演である。それも小生の好きな80年代香港が舞台でICACものだと言うじゃないか。これは見逃すわけにはいかないだろう。期待に胸を振らませ、ミナミのTOHOシネマズへ。さてこれが…。

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

金手指 題:ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件

港題『金手指』 英題『The Goldfinger』
邦題『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』
公開年:2023年 製作地:香港
言語:広東語 上映時間:126分
評価 ★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):莊文強(フェリックス・チョン)
監製(製作):黃斌(ロナルド・ウォン)
編劇(脚本):莊文強
攝影(撮影):潘耀明(HKSC)(アンソニー・プン)
剪接(編集):張叔平(ウィリアム・チャン)、彭正熙(カーレン・パン)

動作導演(アクション監督):錢嘉樂(チン・ガーロッ)
美術總監(プロダクション・デザイナー):林子僑(エリック・ラム)
造型總監(衣裳デザイナー):文念中(マン・リムチョン)
視覺特效總監(VFXスーパーバイザー):黃智力(リク・ウォン)、潘志恆(ベンソン・プーン)
聲音設計(サウンド・デザイナー):Nopawat Likitwong(ノパワット・リキットウィン)

原創音樂(オリジナル楽曲):戴偉(デイ・タイ)

領銜主演(主演):梁朝偉(トニー・レオン)、劉德華(アンディ・ラウ)、蔡卓妍(阿Sa、シャーリーン・チョイ)
主演(出演):任達華(サイモン・ヤム)、方中信(アレックス・フォン)、陳家樂(カルロス・チェン)、白只(マイケル・ニン)、姜皓文(フィリップ・キョン)、太保(タイ・ポー)、錢嘉樂、周家怡(キャサリン・チャウ)、洪卓立(ケン・ホン)、吳浩康(ディープ・ン)、岑珈其(カーキ・サム)、胡子彤(トニー・ウー)、柯煒林(ウィル・オー)、林耀聲(シン・ラム)、李凱賢(ジュリアス・ブライアン・シスウォジョ)、吳肇軒(ン・シウヒン)、朱鑑然(ケビン・チュウ)
友情演出(友情出演):袁詠儀(アニタ・ユン)

《作品概要》

イギリスによる植民地支配の終焉が近づく香港。身ひとつで入国した野心家の男、チン・ヤッイン(トニー・レオン)は、悪質な違法取引を通じて徐々に香港に足場を築いていく。そして80年代株式市場ブームの波に乗ると、資産100億ドルの嘉文世紀グループ立ち上げに成功、時代のレジェンドとなる。一方、汚職対策独立委員会(ICAC)のエリート捜査官ラウ・カイユン(アンディ・ラウ)は、チンの陰謀に目を付け、その後15年間にも及ぶ粘り強い捜査への道のりを歩み始めていた。人命も価値を失うほどの大金が動く、マネーゲームの代償を負うのは果たして誰なのか。そしてチンとラウの駆け引きの行方はいかに—。<引用:映画『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』公式サイト>.

期待していた割には、星の数が平凡なものとなってしまった。決してマズい作品ではなく、面白くはあったんだけど…。う~ん…。やっぱり『九龍城寨之圍城』を観た後では、かなり損をしている。この二つの作品、関係性はまったくないんだけど、時代背景はある意味「パラレルワールド」になっているだけに、『九龍城寨~』のあまりにも強烈な印象がどうしても残像として頭の中をウロウロしていただけに、「割を食ってしまった」という感じ。香港での公開は、本作の方が『九龍城寨~』より先だったので、その残像に邪魔されることはなかったんだろう。そういう意味では、本作はもっと早く日本で公開されるべきだった。

「無間道」以来の競演というか共演(どっちでもええねんけどw)。で、ありながらかなりの消化不良に終わった

無間道III終極無間(邦:インファナル・アフェアIII 終極無間)』以来となる、影帝二人の競演。さらに監督の莊文強(フェリックス・チョン)は『無間道』シリーズの脚本家ということで、期待感を持たせるに十分だったんだが、これもまあ、なんだかなぁ…、って感じで終わってしまった。

本作は1983年に発覚した香港史上最も巨額の企業事件「佳寧案」をベースとしている。マレーシア華僑の陳松青(ジョージ・タン)と、彼が率いる企業グループ・佳寧集團(キャリアングループ)の上級経営陣が関与した巨額の詐欺、汚職、殺人事件などが次々と明るみになる事件である。梁朝偉が演じた程一言(チン・ヤッイン)が陳松青をモデルにしているのは言うまでもない。恐らく、50歳代以上の香港人なら「ああ、あの事件のあいつのことか」とパッと浮かぶんじゃないだろうか。まあ我々は、佳寧案の記憶も知識もないわけで、一編の物語としてこの映画を楽しめばいいかなと。

80年代と言えば、小生が大学生生活をのほほ~んと謳歌し、「バブル入社」と揶揄されながらも、某メディアで丁稚奉公を始めた頃。ああ、良き時代、良きバブル時代!劇中に流れるBoys town gangの「CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU(君の瞳に恋してる)」にホロっときてしまう…。

なんとか香港にたどり着いた程一言は落ちぶれ果てていたのだが…。個人的は、金ピカ成り上がり野郎のトニーさんより、こっちのトニーさんの方が断然好みではあるんだがww

警察とまだ設立されて間もないころのICAC(廉政公署=汚職捜査機関)の衝突「警廉衝突」の緊張したシーンが冒頭に。警察側の大いなる不満から、「警察の威厳を守るためにICACを打倒したい」と叫ぶ警察官らが、ICACを取り囲む。ICAC設立により、警察に限らず利益を得てきた勢力は不満を抱いており、不満の矛先となるICACは危機的状況にあった。警察側で大きな声を上げて攻撃の旗振りしているのが、後に香港皇家警察警長に大出世する陳偉榮(演:錢嘉樂/チン・ガーロッ)。いかに当時の警察が汚職の温床だったかがわかる。その先頭に立っていた奴が、後には警察のトップになってるんだから、そこは「おい!お前!」ってツッコミ入れたかった(笑)。

ICACの面々。よく見ると若手注目株の俳優が揃ってない?

この警廉衝突を初めに持ってきて、ICACの苦難のスタートを描くのは上手いことやったなぁと思う。で、そのころの程一言(演:梁朝偉)は…、というスタート。船で香港に到着する東南アジア出身の建築家、程一言。埋め立てが急速に進む以前のビクトリアハーバーや、高層ビルが林立していない香港島など、80年代の香港の風景を見事に再現できたのは、映像にコンピューターを用いて特殊効果を加える技術「VFX(ブイエフエックス)」によるもの。昨年の金像獎では「最佳視覺效果(最優秀視覚効果賞)」をVFXスーパーバイザーの黃智力(リク・ウォン)、潘志恆(ベンソン・プーン)の二人が受賞しているのも、頷ける。

程一言の敏腕秘書、張嘉文を演じた阿Saのファッションが話題に。わかるわ~、このいかにもな80年代香港ファッション

特殊効果のみならず、装飾や衣装、小道具なども、1980年代に日本より一足早く訪れたバブル期の香港のゴージャスな雰囲気を再現している。このようなエフェクトの表現が非常に優れていて、80年代に公開された香港映画を観ているかのような錯覚すら覚える。ええ仕事してはる!

程一言は香港に到着すると、曾建橋(演:任達華/サイモン・ヤム)に評価され、株式市場に参入する。彼は自らの努力で、秘書の張嘉文(演:蔡卓妍)の助けを借りていくつも会社を設立し、徐々に株式市場に上場させ、株価も急上昇し、一躍、時の人となる。しかし、その異常とも言える「程一言ブーム」はICACの捜査官、劉啟源(演:劉德華/アンディ・ラウ)の目にとまるところとなり、劉啟源は程一言をICACに連行して調査を試みようとする。これが延々と15年も続く二人の知恵比べの始まりだった。

最初はこんな「籠民」として最下層の生活をしていた程一言だが、あれよのうちに巨万の富を手にする…。賢い人とはそういうもんなんだ、と自分のアホさを嘆く小生であったww

まあ、その知恵比べだが、せっかく二人が共演したというわりには、スリリングさを欠くと感じた。いや、これが別の若いあんちゃんの俳優同士なら「おお、ここまでやれるか!」と目を細めたと思うんだが、なんせそこは「影帝」と呼ばれるお二人なんだから、「どうしてこうなった?」と思ってしまうのだ。「そういう役どころ」と言えばそうかもしれないけど、終始、声のトーンを抑えて、笑顔を見せるような場面が劉德華には無かったのは、ウハウハの梁朝偉とは、実に対照的だった。はっきり言って、熱量不足なのだ。

ず~っとこんな感じだった劉德華。まあ、ゲラゲラ笑う立場じゃないんだろうけど

事程左様に、この映画はトニー演じる程一言を中心に展開される。トニーはこの役を難なく演じているだけでなく、非常にリラックスした態度で、傲慢さも漂わせており、演技の幅の広さ、引き出しの多さを改めて見せつけた。一方のアンディ・ラウ演じる劉啟源の立ち位置は脇役のようで、劉啟源という役柄は『無間道』の劉建明を思い起こさせる。

証券取引場で胴上げまでされるトニー演じる程一言。まさに頂点を極めた瞬間

他のキャストについては、阿Saが演じたの張嘉文は、典型的な「あげまん」。彼女を雇ってからの程一言の運気は急上昇していく。特殊効果とメイクアップ、衣裳の各スタッフ「全力投球」で張嘉文というキャラクターを作り上げている。程一言の企業集団の名称「嘉文集團」は、張嘉文の名前からとっているほど重用したのだが、虚しい最期を迎えることになる。気の毒に…。

阿Saも大人になったもんだ…。と、遠い目をする小生w

任達華(サイモン・ヤム)演じる曾劍橋も、程一言の人生を大きく左右した人物。彼の多額の出資がなければ程一言の事業の成功はなかったはず。なのに、彼もまた、殺(や)られてしまう。気の毒に…。

このスーツの柄、幅広の襟、ワイシャツの色といい、襟の長さといい、ループタイに眼鏡のデザイン…。80年代香港やな~と思う。皺ひとつない任達華の顔も特殊効果によるものか

印象深いのは証券会社の「場立ち」の任沖を演じた白只(マイケル・ニン)。最近の香港映画で引っ張りだこの売れっ子。まだ取引が電子化されていない時代ならではの株価操作で嘉文集團の株価を押し上げていく。あの赤いベストが懐かしい。小生が住み始めた90年代でもまだ場立ちの時代だったので、よくニュースなどであの光景を目にしたものだ。

「252」のベストが任沖。「頭のキレるワル」という雰囲気を上手に演じていた

粘り強く捜査を続ける劉啟源に手を引かせるために程一言が選んだ手段は、劉啟源の家族の命を危険にさらすことだった。九死に一生を得た劉啟源一家。そこへ現れた療養中の程一言に思いっきり平手打ちをかます、劉啟源の妻、孫慧を演じた周家怡(キャサリン・チャウ)もよかった。

「この人でなし野郎!」と平手打ちをかまされても、人喰ったような表情を崩さない程一言

ほかに方中信(アレックス・フォン)、姜皓文(フィリップ・キョン)、太保(タイ・ポー)、陳家樂(カルロス・チェン)といった脇役陣も、それぞれの立ち位置をしっかり演じていて、見ごたえるシーンを作っていた。

姜皓文(フィリップ・キョン)

では、小生はなぜに★3つにしてしまったのか…。

シーンを優先させたいのか、登場人物を優先させたいのかが不明瞭で、筋書きも断片的なので、物語を理解するのが難しかった。先述のVFXなどの視覚効果を得るために映画自体の完成度が犠牲になってしまったのか、雑然とした印象が強かった。

さらに致命的だと感じたのは、トニーとアンディの関係で感じたように、俳優間の相互作用が良好とは言えなかった点。そういう構成なんだと言われたら、「ああそうですか」と言うしかないんだが、そこを敢えて言えば、俳優同士のやり取りが制限され、時々俳優たちが別々に演技しているように見える場面がいくつもあった。香港映画史上最高額の3億5千万香港ドルを投じ、80年代を再現し、一流どころをずらっと揃えたのに、残念に感じた。

まあ、最後に袁詠儀(アニタ・ユン)演じる裁判官がスカッとさせてくれたので、不満は吹き飛びましたけどね(笑)。

■ 受賞など ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

○第30屆香港電影評論學會大獎
・推薦電影:『金手指』
他3部門でノミネート

○第26回ウーディネ極東映画祭
1部門でノミネート

○2023年度香港專業電影攝影師學會
・最優秀撮影賞:潘耀明

○第17屆亞洲電影大獎
・最優秀衣裳デザイン賞:文念中
・最優秀美術指導賞:林子僑
他1部門でノミネート

○2023年度香港電影編劇家協會大獎
1部門でノミネート

○2023年度香港電影導演會年度大獎
・最優秀主演男優賞:梁朝偉

○第42屆香港電影金像獎
・最優秀主演男優賞:梁朝偉
・最優秀撮影賞:潘耀明
・最優秀美術指導賞:林子僑
・最優秀衣裳デザイン&メイク賞:文念中
・最優秀音響効果賞:Nopawat Likitwong
・最優秀視覚効果賞:黃智力、潘志恆
他6部門でノミネート

○第19屆中國長春電影節金鹿獎
2部門でノミネート

凄まじい受賞、ノミネートの数。「ほかに何か無かったんかい!」と一瞬思うも、『毒舌大状』から『年少日記』、『白日之下』、『命案』、『填詞L』、『死屍死時四十四』などなど強敵ぞろいの中でのこの数。まあやっぱり、梁朝偉と劉德華の共演でヘタなもの作れないから、監督以下、必死こいたということでしょうかね(笑)。

■ 予告片 ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

(令和7年2月3日 TOHOシネマズ なんば 別館)

 

久々に『無間道』をご覧になってはどうでしょうか!


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