【睇戲】九龍城寨之圍城

<ここから凧を上げるシーンがある。実際の九龍城塞に、こんな空間があったかどうかはわからないが、心に残るシーンだった。息詰まるアクションだけでなく、セットのリアル感にも圧倒される>


今年最初の映画鑑賞で、いきなり「真打登場」みたいなことになった。待望の『九龍城寨之圍城』である。そもそも、今年に一発目は『盜月者』の予定だったんだが、新年早々、いきなりやらかしてしまった(笑)。そう、例によって、ぼ~っとゴロ寝の正月を満喫しているうちに上映終了してしまった(笑)。3月にシネ・ヌーヴォで上映とのことなので、そちらは忘れないように(笑)。ということで、一発目が『九龍城寨之圍城』と相成った。もうねぇ、おなか一杯どころか、今年観る映画はこれだけで十分というくらいに満足した。観た人、みんなそう思ってるでしょ?

「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。

九龍城寨之圍城 題:トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦

港題『九龍城寨之圍城』
英題『Twilight of the Warriors: Walled In』
邦題『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』

公開年:2024年 製作地 香港
言語:広東語 上映時間:126分
評価 ★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)

導演(監督):鄭保瑞(ソイ・チェン)
原著(原作):『九龍城寨』 余兒(ユー・イー)

監製(製作):莊澄(ジョン・チョン)、葉偉信(ウィルソン・イップ)
編劇(脚本):歐健兒(アウ・キンイー)、陳大利(チャン・タイリー)、岑君茜(サム・クァンシン)、黎俊(ジャック・ライチュン)
剪接(編集):張嘉輝(チョン・ガーファイ) 
攝影(撮影):鄭兆強(チャン・シウキョン)
配樂(音楽):川井憲次 動作指導(アクション監督):谷垣健治
服裝指導(衣裳):葉嘉茵(カレン・イップ) 美術總監(美術):麥國強(マック・コッキョン)
造型設計(造形):余家安(ブルース・ユー)

領銜主演(主演):古天樂(ルイス・クー)、林峯(レイモンド・ラム)、劉俊謙(テレンス・ラウ)、伍允龍(フィリップ・ン)、胡子彤(トニー・ウー)、張文傑(ジャーマン・チョン)
主演(出演):任賢齊(リッチー・レン)、黃德斌(ケニー・ウォン)、廖子妤(フィッシュ・リウ)、朱栢康(ジュー・パクホン)、蔡思韵(セシリア・チョイ)、劉偉明(ラウ・ワイミン)
友情演出(友情出演):洪金寶(サモ・ハン)
特別演出(特別出演):郭富城(アーロン・クオック)

《作品概要》

九龍城砦(きゅうりゅうじょうさい)――かつて無数の黒社会が野望を燃やし、覇権を争っていた。80年代、香港へ密入国した若者、陳洛軍(チャン・ロッグワン)は、黒社会の掟に逆らったことで組織に追われ、運命に導かれるように九龍城砦へ逃げ込む。そこで住民たちに受け入れられ、絆を深めながら仲間と出会い、友情を育んでいく。やがて、九龍城砦を巻き込んだ争いが激化する中、陳洛軍たちはそれぞれの信念を胸に、命を懸けた最後の戦いに挑む――。<引用:『トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦』公式サイト

よもや数年後に香港に住むことになるなんて、想像もしていなかった80年代末から90年初頭、単なる一介の旅行者だった小生だが、持って生まれた野次馬根性丸出しで、年に4、5回、香港を訪れる度に「住民の退去はどれくらい進んでるかな?」と、九龍城砦まで行って「定点観察」していたのだから、物好きにも程があると言うもんだ(笑)。

MTRの樂富(Lok Fu)の駅をでると、丁度「香港カーブ」を曲がり切った飛行機が、あとは着陸するだけとばかりに、手を伸ばせばさわれるんじゃないかってくらい高度を下げて、啓德空港を目指して最終態勢に入るのを見ながら坂道を下って行くと、九龍城砦にたどり着く。いくつもある「出入口」から入ってはみるものの、数十メートル進んでは「迷い込んで出られなくなったらどうしよう」なんてチキンな野郎だったから、ほんの入り口しか知らない。あの時、もっと深入りしておけばよかったなぁ…。ただ、もっとチキンなお連れさんがハラハラしながら外で待っているので…、って人のせいにする(笑)。実に懐かしい思い出である。

↑↑この写真は、まだ人が住んでいた時代の九龍城砦。窓には「生活の灯」が輝く。周辺をぎっしり埋め尽くした掘立小屋群が撤去されたことで、九龍城砦の威容が現れたと言っていい。同時に、立ち退き問題がクローズアップされ、成龍(ジャッキー・チェン)の『重案組(邦:新ポリス・ストーリー)』でロケ地に使われたことなどで「魔窟」としてのイメージが作り上げられたのだと思う。なお、城塞の成立や歴史に関しては、ご自分でお調べください(笑)。

やたらと歯医者が多かった記憶が。この歯医者の大群はどこへ行ってしまったんだろう…

さて、映画本題だが、いやもう大満足過ぎるだろ、これ。よく作ってくれました、感謝感激雨あられ!ってところだ。今日現在で公開からの興収1億円突破も時間の問題という大ヒット。香港映画でここまで伸びるのって、いつ以来だろう…。最近増えてる「哀香港」な映画とは違って「超々娯楽巨編で遊んでちょうだい!」というサービス精神の塊! まあ、それでもどうしても「哀香港」に持って行きたい人もいるようだけど、そんなの放っといて、腹の底から楽しめ!

何と言ってもアクションな。香港在住開始したころからの友人、谷垣健治が大きな仕事をやってのけているのが、嬉しい。『るろうに剣心』シリーズでもアクション監督やってた健治君だが、本作では「るろうに~」で確立させた「谷垣のアクション」をカンフーアクションに移植してさらに昇華させたという感じ。そこに大ボスの洪金寶(サモ・ハン)やベテランの古天樂(ルイス・クー)が乗っかってくれて、中堅や若手がそこに続いてくれたという感じか。とにかく、アクションシーンにかかわる俳優はもちろん、スタントや撮影スタッフまで、非常に献身的に動いているというのが伝わってくる。こういうのは観ていて実に気持ちいいし、なによりも我々を嫌でも映画の中に引きずり込んでくれのだ。

この表情で棍棒を巧みに操る大哥大(映画界の大ボス)。元気すぎる73歳である

しかしまあ、洪金寶のキレッキレの動きには驚くばかりだ。御年73歳。きっと骨粗鬆症とは一生無縁だろうな(笑)。

監督の鄭保瑞(ソイ・チェン)は、最近では『西遊記之大閙天宮(邦:モンキー・マジック 孫悟空誕生)』に始まる「西遊記シリーズ三部作」をはじめ、『智齒(邦:リンボ)』、『命案(邦:マッド・フェイト)』などヒット作、話題作を次々と生み出しているので、知らない名前ではない。本作『九龍城寨之圍城』は余兒が書いた同名の小説とそれを元にした司徒劍僑(アンディ・シット)の同名の漫画を脚色し、様々な世代の俳優を起用して、過去の香港の風景を伝えると同時に、アクションシーンや登場人物の人間性を、実にうまい配分で表現することに成功している。

「城寨四少」と呼ばれる四人の若者たちの大立ち回りに目がついて行けなくなるほど!

物語はベトナムから密航してきた陳洛軍(演:林峯飾/レイモンド・ラム)が、偽造の香港身分証を買うための賞金稼ぎで、地下格闘技戦で試合に勝ち、洪金寶演じる黒社会の大物「大老闆」から買おうとするが…。騙されていたことに絶望した陳洛軍は、大老闆から麻薬の袋を奪い、逃走中に九龍城寨に迷い込んでしまう。追手の王九(演:伍允龍/フィリップ・ン)との激しい格闘。もうここからは目が離せない。城寨側の若者、信一(演:劉俊謙/リウ・ジュンチエン)も加わって、呼吸すら許してくれないようなアクションの連続に、何度も身を乗り出す。両側の席の見ず知らずのおっさんも、見事にシンクロしてるのが微笑ましい(笑)。

一撃必倒で王九をぶっ飛ばす龍捲風。この流れがまるで漫画のようで、とても痛快。てか、めっさオモロイねん!

「何を騒いでんや!」とばかりに登場したのが、城寨側のドン「龍捲風」(演:古天樂/ルイス・クー)。陳洛軍が大老闆から奪った麻薬の換金を申し出るも、きっぱりと拒否。龍捲風は麻薬を大老闆に渡し、陳洛軍には当面の生活の面倒を見るということで、借用書に署名させる。ということで、陳洛軍は借金を返済するために九龍城寨で働き始める。

時代は80年代。この頃、大量のベトナムボートピープルが香港に流れ着いているのを、日本のニュースは連日のように報じていたのを思い出す。そして在住中のいつだったか失念したが「最後のベトナム難民収容施設が閉鎖」というニュースを見た記憶が…。

「なあ、ほんであいつの始末どうするのよ」と、漫画を読みながら龍捲風に問いかける大老闆。こういう漫画本から大ヒット映画が生まれることもあるね

陳洛軍は城寨に住む信一、十二少(演:胡子彤/トニー・ウー)、四仔(張文傑/ジャーマン・チョン)の助けを借りながら城寨での生活や仕事になじんでいく。こうして「城寨四少」の絆が生まれていく。

陳洛軍が働く魚蛋工場。とてもよくできたセット。写真集などで必ず出てくる「家内制手工業」の様子が見ごとに再現されている! 

しかし、龍捲風と生死を共にしてきた陳占(演:任賢齊/リッチー・レン)は、かつて殺人王として名を馳せた陳占(演:郭富城/アーロン・クオック)に妻子を殺害された恨みは消えず、生き残っている陳占の息子への復讐を考えていた。「ああ、『陳』という苗字は、あああ、なるほど!」なんて感じで、「さてこの後、陳洛軍の運命やいかに!」って構えていたんだが、まあそれどころではなくなってくる展開に。

妻子を目の前で殺害された陳占。陳占への恨みの矛先はその息子へ

陳占と龍捲風が死闘を繰り広げる回想シーンも、これまた迫力満点。今年還暦のアーロンも鎌を振り回してよく動く。

恐るべき殺人王を演じたアーロン。登場シーンはここだけの特別出演だったが、十二分に存在感を発揮した

九龍城寨の立ち退き、取り壊しが政府の注目を集めるにつれ、城寨の内外で血の嵐が差し迫ってくる…。とまあ、映画の展開に関しては、これから観る人がたくさんいるだろうから、ここらでおいておくとして(笑)。

本作のウリは、往年の九龍城寨の風景、アクションシーン、登場人物の関係性の3つだろう。作中で描かれる九龍城寨の風景は、かなり詳細。パンフでプロデューサーの莊澄(ジョン・チョンが語っていたが、意外にも香港では九龍城寨の公式記録や資料が非常に乏しく、そのため日本や欧米の研究書や資料、写真集などが非常に役に立ったようである。入口あたりをうろついただけで深く潜入したことがない小生が、既視感を感じたのはそのせいだろう。

九龍城寨の極めて複雑な構造、そこに暮らす人々の衣装にまでこだわった演出で、九龍城寨の荒廃と混沌を忠実に再現していると言える。荒廃と混沌の中で空を見上げるシーンが時々現れたのは印象深い。あの塊の中で、空が見える空間があったとは思えないのだが、そのシーンによって我々は、城寨の外側にも別の世界があるのを感じ取ることができる。それは冒頭にあげた凧あげのシーンであり、城寨四少がビルの軒先から当時の啓徳空港に着陸する飛行機を眺めるシーンでもある。

我々は今や伝説となった九龍城寨や激しいアクションシーンに期待を抱くのだが、運命的な再会を果たした主人公の陳洛軍と龍捲風をはじめとして、登場人物それぞれのストーリーにも引き込まれてゆく。この辺のまとめ方が実に単純明快でわかりやすくまとまっている。

俳優陣については、総じて高いレベルでの演技、そしてアクション。特に陳洛軍を演じた林峯飾(レイモンド・ラム)が「お!ここまでやれるのか!」という演技を見せた。小生はTVBのドラマにチョイ役で出ていた頃しか知らなかったし、むしろ歌手というイメージだったんだが、いやもう恐れ入った。アクションは言うに及ばず、セリフの解釈、表情の微妙な変化など、彼の俳優のストーリーに一つの金字塔を建てたんじゃないだろうか。

城寨では理髪店を営むかたわら、「城寨保安護衛委員會」でもある龍捲風を演じる古天樂(ルイス・クー)はますます熟練の境地に。80年代の香港のおっさんファッションもなかなか板についていた(笑)。序盤、城寨に逃げ込んだ陳洛軍を追ってきた王九を「ぶぃ~ん!」と一撃でぶっ飛ばした竜巻のような拳はなんていう拳なんでしょうね(笑)。本作は、ああいう漫画チックなシーンも散りばめられていて、ひと時も飽きさせない。

忘れてはならないのが、ってか、絶対忘れられないのが、龍捲風を殺し城寨に乗り込んできた王九を演じた伍允龍(フィリップ・ン)。伍允龍は、実際にすごいアクションの使い手だし、昨年観た『武替道(邦:スタントマン)』での演技もすごくよかった。なかなか大きな役が付かず、下積みが長く続いたけど、本作でようやく脚光を浴びることになったのはよかった。狂気じみた、そして残酷な王九のキャラを自然にこなすあたりは、長い下積みに裏付けされた確かなものだったと言える。

硬氣功と大力金剛指の使い手。いざとなったら体を硬直させ、相手の攻撃をはねのけるw あれはずるいわ~ww

ほとんど「変態仮面」状態だった四仔を演じた張文傑(ジャーマン・チョン)も、「変態仮面のクセにすごいやん、こいつ!」と唸らせる高いスキル。終盤、顔が見られて安心した。シュッとした人でした(笑)。

信一の劉俊謙(テレンス・ラウ)、十二少の胡子彤(トニー・ウー)は、アクションという印象はなかった俳優だけど、まあ歴戦のツワモノたちについて行ってよく奮闘していた。まさに全力投球。終盤、信一がバイクで颯爽と登場するシーンはこれもまた漫画チックなシーンだったけど、「おお、カッコええ!」って思った。恐らく、本作でアクションのイロハを彼なりに体得して、『武替道』に生かしていったんだと思うな。

劉俊謙と胡子彤。右奥には「仮面」を脱いだ張文傑。ここから城寨四少の見せ場が始まる!

音楽についても少し触れておきたい。映画音楽の巨匠、川井憲次の仕事っぷりは言うまでもなく申し分なく、情感を揺さぶる音作り。そこへもってきて、とても懐かしいヒット曲が流れる。わが青春のアイドル、陳慧嫻(プリシラ・チャン)が歌う荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」のカバー曲「跳舞街」、張國榮(レスリー・チャン)が歌う吉川晃司「MONICA」の同名タイトルの広東語カバーバージョン。この2曲が作品の描く時代を思い起こさせる。

そして小物。フルタのハイエイトチョコレートと夜店で売ってるようなお面は、鑑賞の際にはお忘れなく。この遊び心も、なんか好き(笑)。

この前段階でハイエイトチョコ、ちょいと活躍しますww

そして叉焼飯。腹をすかした陳洛軍に龍捲風が叉焼飯を食わせてやるシーンがあるが、毎日でも叉焼飯を食いたい小生には酷なシーン(笑)。また陳洛軍が美味そうに食うんだわな…。

この天井が崩れたメシ屋も風情があった

とにかく斜に構えて「なんとかして文句つけてやろう」という嫌らしい根性で映画を観る小生ですら、平伏させてしまう本作は、鄭保瑞(ソイ・チェン)監督の最高傑作と言えるだろう。すでに本作の前日譚『九龍城寨之龍頭』と後日談『九龍城寨之終章』の製作も進んでいるというから楽しみだ。日本公開までは死なないようにしたい(笑)。

小生が号泣寸前になったシーン。どんな展開でこうなったかは映画を観てください! 劇場へ足を運んでください! 香港映画のチケットを買ってください!

ぜひとも、できるだけ大きな映画館の大きなスクリーンで、その世界に飲み込まれていただきたい! 香港映画はチケットを買って劇場で観ましょう!

■ 受賞など ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

○第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭
・最優秀監督賞:鄭保瑞
他1部門でノミネート

○第三屆澳淶塢五大洲電影節金莉花獎
2部門でノミネート

○第39屆華鼎獎
1部門でノミネート

○第31屆香港電影評論學會大獎
・ベスト作品賞:『九龍城寨之圍城』
他2部門でノミネート

○第29回サテライト賞
・最優秀アクション賞
他1部門でノミネート

○2024年度香港電影導演會年度大獎
・ベスト作品賞:『九龍城寨之圍城』
・最優秀監督賞:鄭保瑞

○第18回アジア・フィルム・アワード
・最優秀編集賞:張嘉輝
・最優秀美術賞:麥國強、周世鴻
他7部門でノミネート

○第43屆香港電影金像獎
14部門でノミネート

※2月28日情報更新:金像獎がえらいことになりそうだが、『破·地獄(邦:ラスト・ダンス)』、『爸爸』、『從今以後(邦・英:All Shall Be Well)』、『看我今天怎麼說(邦:私たちの話し方)』などなど、強敵揃いで面白くなりそう!

■ 定檔預告 ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・

(令和7年1月19日 T・ジョイ梅田)

数ある九龍城砦本では、これが一番良かった。城砦で暮らす人たちの息遣いを感じることができる写真集

 


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