【毒書の時間】『めでたし、めでたし』 大森兄弟

<岡山駅前の桃太郎像。犬、猿、雉をお供に、鬼ヶ島へ鬼退治に向かいます (photoAC)>


螺旋プロジェクト」の一環で読んだ『ウナノハテノガタ』以来の大森兄弟。『ウナノハテノガタ』が描く時代は原始時代ということもあってか、同プロジェクト8冊の中では一番ページ数が少なく、かつ字数も少ないのは助かった(笑)んだけど、時代が時代だけに「はて、これはどう理解するべきか…」なシーンも多く、結構な難物であった。この作品だけで「大森兄弟、気が合わん!」とばかりに「お付き合い」をやめるのは簡単だが、プロジェクトのくくりと描く時代を考慮して「もう一つくらいは読んでみないとわからんよな」と思ってたところに、今回読んだ『めでたし、めでたし』の発刊である。「どれどれ…」と読み始めたのだが…。

『めでたし、めでたし』 大森兄弟

中央公論新社 ¥1,980
2024年7月10日 初版発行
令和6年11月19日読了
※価格は令和6年11月20時点税込

兄弟で物を書くって、どんな感じなんだろう。うちのような仲の悪い兄弟には絶対無理。まずはグリム兄弟が思い浮かぶけど、この大森兄弟の書く物語は、グリム兄弟のようなわけにはいかないよ。

しかし…。う~ん、困りましたね(笑)。一体、どういう感想を述べればいいのやら…。「大人のおとぎ話やろ」と思って手にしたら、さにあらず、実に奇想天外摩訶不思議な物語でありました、とさ。とでもしておけばいいのか…。まあそれでは、このブログを上げる意味もないんだろうし、そこはなんとかやるけどね、やるけどねと…。何せ「伊坂幸太郎、激賞」の作品だけに、伊坂ラブな小生、読まにゃならんでしょ(笑)。しかし、伊坂も変わってるね~(笑)。

やあやあ我こそは日本一の快男児桃次郎。

と威勢よく鬼の城に切り込み、名刀鬼切丸で鬼をばったばったと切り倒し、金銀財宝を奪い返した快男児桃次郎。今度は、

宝物の元の持ち主は名乗り出でよ。

とのおふれが国中を駆け巡り、屋敷には長蛇の列。で、ここから話はこんがらがってしまい、小生の読解力をもってして、「降参します」と桃次郎に白旗を挙げざるを得ない展開に(笑)。桃次郎はどういうわけか、鬼ヶ島から持ち帰った財宝を元の持ち主に返そうとしない。ますます屋敷には人が押し寄せる。それを「さあさあ、きちんと並んでくださいよ」整理するのは犬で、「その方が返してほしい宝物は何か?」と、御白州で桃次郎の補佐をするのは猿。と言っても、桃次郎は一向に持ち主に宝物を返還しようとはしない。まあねえ「名乗り出でよ!」と言っただけで、「返してやるぞ!」とは言ってないしね(笑)。

降参したストーリーだけど、「ふふ~ん」と思ったのは、お供の犬、猿、雉の性格。キャンキャンと元気でとにかく従順な、それだけが取り柄ともいえる犬、人間並みに賢い一方で、これまた人間並みの観察眼で、斜に構えて桃次郎を見ることもある猿、桃次郎の命により、島に飛んで鬼の残党と闘うも、「三歩歩く」と忘れてしまう満身創痍の雉。こやつらが人間の言葉をしゃべるのはご愛敬として、「人物造形」ならぬ「動物造形」が面白いなぁと感じながら、読む。もう、そこくらいしか楽しめませんわ、いやホンマに(笑)。

満身創痍の雉を毎夜、介抱するのは屋敷の下女、佳代。そしていつの間にか雉と佳代の間には恋が芽生えるのだが、なんせ「三歩歩く」と忘れてしまう「鳥頭」なんで、佳代の一方的な思いがなんか意地らしい…。って、おお、結構のめりこんでるやん、俺(笑)。いやいや、そんなわけじゃ決してないよ(笑)。

あと、何気に気になったのは、桃次郎が鬼ヶ島へ乗り込んだ際、名刀鬼切丸でズバッと一閃した鬼の総大将「温羅」の首級。桃次郎はこの首級をなぜか大事にする。生首のくせに(笑)、生きてるんよな、こいつ…。もしかして、結構イケメンな「温羅」に桃次郎は惚れたのか、とさえ思う。え?そういう物語なん?これでまた作品は凡人の理解及ばぬ深海へ…。

各章に1ページの挿絵がある。文章の理解の助けになるのが挿絵だと、小生は思っているんだが、この物語に限っては、それはどうでもよく、ちょっと一息つけるページ、それが挿絵の存在意義だった(笑)。「桃から生まれた桃太郎」ならぬ「マラフグリから生まれた桃次郎」、川を流れてくる「マラフグリ」にボカシが入っていたのは愉快ではあった(笑)。

多分、しばらくはこの兄弟ユニット作家の作品を読むことはないと思うけど、本当にこの理解不可能な世界が大森兄弟の作風なのかどうかは、まだ判断するには早いとは思う。なにせ2作しか読んでないんだから。でも、3作目を読んだとて、「ああ、やっぱりね」と思うんじゃないだろうか…。とりあえず、文字が大きいので老眼鏡いらずだったのは、よかった。それこそ「めでたし、めでたし」じゃないか(笑)。

 


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