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本日の2本目にして、この映画祭で観ることができる最後の作品は、今年の農暦新年(旧正月)映画。ポスターこそ一目で「賀歲片」とわかる赤を基調としたデザインで、笑いどころの多い典型的なコメディだったのだが、わりとシリアスな犯罪アクション映画という一面も持っていた。でもまあ、郭富城(アーロン・クォック)が出っ歯の強盗犯を演じる時点で笑っちゃうわけでして(笑)。
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
臨時劫案 邦題:臨時強盗 <日本プレミア上映>
港題『臨時劫案』
英題『Rob N Roll』 邦題『臨時強盗』
公開年:2024年 製作地 香港
言語:広東語、普通話、潮州語 上映時間:98分
評価 ★★★★☆(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):麥啟光(アルバート・マック)
編劇(脚本):麥啟光、陳偉斌(ライカー・チャン)、萬芫澄(マン・ウェンチン)
監製(製作):爾冬陞(イー・トンシン)
動作指導(アクション指導):黃偉亮(ジャック・ウォン)
攝影(撮影):鄒連友(デイビー・ツォウ)
剪接(編集):張家傑(ジェフ・チェン)
配樂(音楽):區樂恆(ハンズ・アウ)、廖頴琛(アイリス・リウ)
領銜主演(主演):郭富城(アーロン・クォック)、林家棟(ラム・カートン)、任賢齊(リッチー・レン)、張可頤(マギー・チョン)
主演(出演):林雪(ラム・シュー)、盧海鵬(ロー・ホイパン)、梁仲恆(ビング・リョン)、鮑起靜(パウ・ヘイチン)、孫佳君(ポーリー・ソン)、曾比特(マイク・ツァン)、符家浚(カルバート・フー)、張松枝(デオン・チョン)、姜卓文(ジョン・チャン)、陳毅燊(アンソン・チャン/Ansonbean)、王頌茵(キャシー・ウォン)
友情演出(友情出演):姜大衛(デビッド・チャン)、王敏德(マイケル・ウォン)
特別演出(特別出演):胡定欣(ナンシー・ウー)
《作品概要》
身重の妻と母親の嫁姑問題や住宅事情に悩まされるタクシー運転手(ラム・カートン)と、老人ホームを営むシングルファーザーのファイ(リッチー・レン)の兄弟は、人生を変えるべく強盗を企む。だが、強盗用の拳銃の入手に失敗し、さらに元レスリング選手のプロの強盗(アーロン・クォック)が奪った大金を兄弟が手違いで手に入れてしまったことから、3人は思いがけずチームを組む羽目に……。今年2024年の旧正月に公開された軽妙な犯罪アクション。<引用「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema」公式サイト>
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完全無欠の賀歳片、申し分なし。出っ歯の郭富城だけで「賀歳片、かくあるべし」を表現している。なんだけど、ほんのりと切なさも感じる。う~ん。面白かったね。アクションシーンに関しては、案外とオープニングが一番激しくて、その後は「心をくすぐる」ような展開になっていくのだ。このくすぐり方が絶妙で、思わず吹いてしまうシーンが散りばめられていた。
とにかく、アーロンのこのキャラには驚くばかりなんだが、結構、本人もノリノリで思いっきり作り込んでいたとか、いないとか…。どうしても「出っ歯キャラ」が注目されるんだが、役柄が世界の頂点にも立ったレスリング選手という経歴の持ち主だけに、ちゃんと耳が「カリフラワー」になっているのを発見して「ほ~」と感心。
で、このアーロン演じる梅藍天なるギャング。いきなり無人のスクールバス乗っ取って派手に強盗を仕掛ける。激しい銃撃戦もあり、「これ、どんな展開になるんやろ」とワクワクしさせてくれる。なんでも、早朝の廟街を封鎖しての一発撮りだったとかで、そういう緊張感もなんとなくスクリーンから伝わってくるのが、なんか懐かしの香港映画って感じでいい。「ええやん、ええやん、このノリ」と気分よく観ていたら、警察との銃撃戦で負傷してバスに戻ってきた仲間をバーンと撃ち殺してしまう!「仲間が苦しんでいるのを見るのは辛いから…」って。「うぉ!結構シリアスな映画かも」と、それはそれで期待してしまう。なんか上手いねと思っていたら、脚本メンバーの一人、陳偉斌(ライカー・チャン)はバリバリの杜琪峯(ジョニー・トー)一門。ああ、なるほどね、というところ。
この強盗劇の一部始終を窓越しに見ていたのは、老人ホームを運営するソーシャルワーカーの慕容輝(演:任賢齊/リッチー・レン)。それはもう恐ろしいものを見たという雰囲気を存分に醸し出しながらね。
「冇用輝=役立たずのファイ」などという、なんともかわいそうなニックネームの慕容輝。老人ホームの経営が行き詰まっている状況を打破するには「強盗」しかないだろうと、一連の銃撃戦を観て思いつく。なんか発想が突飛すぎるんだけど(笑)。
この白昼の強盗劇で犯人を逮捕したい一心で、梅藍天らと激しい銃撃戦を繰り広げる刑事の姜灝雯(演:張可頤/マギー・チョン)。警察勤務が長い割には、大きな事件での犯人逮捕がないことに負い目を感じており、「チャンス到来!」とばかりに張り切るのだが、結局、逃してしまう。TVBのドラマで散々見てきた顔だが、こうして映画でちゃんと見るのは案外これが最初かも。
一方で、この捕り物と同時進行で両替店で強盗事件も発生していた。映画の展開としては、こちらのシーンの方が先だった。犯人は姜卓文(ジョン・チャン)演じる阿南(アナン)という若者。実はこれ、仕組まれた強盗で、襲った両替店の女性店員、冰冰(ピンピン 演:王頌茵/キャシー・ウォン)との結婚資金を作るための襲撃だった。
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姜卓文は映画の後半に出てくる大御所の姜大衛(デビッド・チャン)の実子。ということは、本作のプロデューサー、爾冬陞(イー・トンシン)の甥っ子。『梅艷芳』で映画デビュー。これが2作目。とりあえず今は「親の七光り、叔父の七光り」という状態かな。演技は悪くはなかった。王頌茵はViuTVではおなじみの顔のようだが、映画はこれが初めて。この二人をここに据えたキャスティングはよかったね。
さて、もう一人の領銜主演(主演)、林家棟(ラム・カートン)が演じるのは、嫁姑問題を抱え、金も無くて生活に汲々としているタクシー運転手、笠水。老人ホームの慕容輝とは「難兄難弟」の間柄。難兄難弟の意味を説するのは難しいので割愛するが(笑)、きわめて簡単に言うと、兄弟のような関係の友人同士というところかな。なので、慕容輝の強盗画策には賛成!でも、武器はどうしよう…。そんな折も折…。
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梅藍天の手下、金毛菊(演:符家浚/カルバート・フー)は奪った金をタイヤ交換中のタクシーのトランクに入れて逃走。このタクシーの運転手が笠水だったのが、激しく入り込むストーリーの始まりと言っていいだろう。その一方で、両替店で奪った金と梅藍天たちが奪った金を、タイヤ交換中のタクシーからまんまとすり替えた阿南は李鄭屋游泳池(Lei Cheng Uk Swimming Pool)の更衣室に隠す。それを見つけた大頭(演:曾比特/マイク・ツァン)の運命やいかに。このあたりに林雪(ラム・シュー)も絡んでくるので面白いし展開もめまぐるしい。事態が大きく動く李鄭屋游泳池での登場人物たちの行動からも目が離せない!
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とまあ、序盤だけでこんなに長くなってしまうほど、あれやこれやが詰まっている作品。こういうのを「クライム」って呼ぶのかな。知らんけど(笑)。ネット漁れば、完全版に出くわすはずなので興味あればどうぞ。もちろん、日本語字幕なしやけど(笑)。
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アーロンの濃いキャラを筆頭に、まるで漫画のような現実離れした展開なんだが、そこまで振り切っているのが好感度抜群。大爆笑というのではなく、「共感」できる笑いとでもいうのか、「ジワる」ってやつか…。上手く言えないけど、なんかすごく上手に作ってるなと感じた。それでいて、とっ散らかった感のあるストーリーが最後には、やや強引さもあったけど収まるところに収まって「めでたしめでたし」という「賀歳片」らしいエンディングとなる不思議。「何なんだろ、これ」と思いながら席を立ったわけだが、もし、香港の映画館で観ていたら、他の観客と色んなことを共有できた満足感を得られたんじゃないだろうか、そんな気もした。
2024年の賀歳片の興行成績では『飯戲攻心2』、『盜月者』に後れを取ったようだが、決して悪い成績でもなかった。しかしながら、日本で劇場公開となるのは難しい作品かもね…。(←個人の感想ですww)
《受賞など》—————————————–
■第31屆香港電影評論學會大獎
・最優秀脚本賞:陳偉斌、麥啟光、萬芫澄
・推薦作品賞:『臨時劫案』
他3部門でノミネート
*2025年2月1日更新
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《臨時劫案》正式預告
(令和6年11月10日 テアトル梅田)
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。