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この日は一気に2本観たよ! 明日の『破・地獄』を仕事休んででも観たいが、まあそうはいかない。というわけで、小生にとって香港映画祭2024最終日。久々に「香港映画らしい」作品2本に出会えた。これはかなりいいよ!
「睇戲」と書いて「たいへい」。広東語で、映画を見ること。
武替道 邦題:スタントマン <日本プレミア上映>
港題『武替道』
英題『Stuntman』 邦題『スタントマン』
公開年:2024年 製作地 香港
言語:広東語 上映時間:114分
評価 ★★★★★(★5つで満点 ☆は0.5点)
導演(監督):梁冠堯(アルバート・レオン)、梁冠舜(ハーバート・レオン)
編劇(脚本):曾憲寧(アナスタシア・ツァン)、葉偉平(オリバー・イップ)
監製(製作):陳羅超(アンガス・チャン)
動作指導(アクション指導):江道海(ベンツ・コン)、梁博恩(トミー・リョン)
攝影(撮影):張大偉(レイ・チョン)
剪接(編集):梁冠堯、梁冠舜
配樂(音楽):趙增熹(チウ・ツァンヘイ)、張人傑(アンディ・チョン)
領銜主演(主演):劉俊謙(テレンス・ラウ)、董瑋(トン・ワイ)
主演(出演):伍允龍(フィリップ・ン)、蔡思韵(セシリア・チョイ)、張達倫(マックス・チョン)、杜燕歌(トー・インゴー)、林耀聲(シン・ラム)、梁雍婷(レイチェル・リョン)、鄒文正(テリー・ゾウ)、車婉婉(ステファニー・チェ)
《作品概要》
香港アクション映画に不可欠なスタントマンたちの血と汗と涙の物語を、共にアクション俳優であるアルバート・レオン&ハーバート・レオンの二人が初監督。『トワイライト・ウォリアーズ』で人気が爆発したテレンス・ラウ、フィリップ・ンが競演するほか、『燃えよドラゴン』(1973)にも出演した俳優で、現在はベテランアクション監督として知られるアクション界のレジェンド、トン・ワイの久々の映画出演も大きな話題となっている。<引用「香港映画祭 Making Waves – Navigators of Hong Kong Cinema」公式サイト>
もうねえ、アナタ、オープニングから涙もので、キュンキュンしてしまって「これはまた、えらいことを…」と。成龍(ジャッキー・チェン)の『警察故事』の永安廣場でのアクション・シーンそのもの。質感、色合い、スタッフ紹介の文字の書体…。すべてがあの時代へといざなってくれるのだ。反則技やで、これはホンマに。「ああ、そういう時代のそういう映画なんやね」と、わかっていても背筋が伸びる。「なんで一観客のお前が背筋伸ばさなあかんねんww」というところだが、そこはもう李小龍(ブルース・リー)時代から香港映画に魅了されている方々なら、わかってくれると思う。
そこへもってきて董瑋(トン・ワイ)が出てるでしょ、これだけで「おお!」ってなもんだが、人気急上昇の劉俊謙(テレンス・ラウ)、安定の伍允龍(フィリップ・ン)、蔡思韵(セシリア・チョイ)、車婉婉(ステファニー・チェ)と、キャストもエエ顔ぶれが揃っているので、余計に期待ができる。
そしてこの作品も、例の「首部劇情電影計劃」の第六回プロフェッショナル部門受賞作品。
しかし昨日今日と、ちょっとした劉俊謙祭りの様相。まあ売れっ子だしね。
それはさておき。
「俳優を観る」という点からすれば、劉俊謙や伍允龍なんだろうけど、やっぱり注目すべきは董瑋だろう、と小生は思う。董瑋は80 ~90 年代に香港の各映画賞で輝かしい受賞歴を持つ、「武術及動作指導」のレジェンド。その董瑋が本作で演じた李森(リー・セン 劇中では「森哥/サム兄貴」と呼ばれていた)は、型破りな古き映画人。故に、常に対立や軋轢をはらむ。これらをすべて乗り越えることはできないまでも、お互いの理解が芽生え始めるという展開が、まあ、映画らしい展開だわな。近年はカメラの前に立つことがめっきり減った董瑋だが、終盤のシーンなんかは、董瑋が全部持って行った、という感じ。「董瑋、健在なり!」というところじゃないだろうか。
董瑋演じる元・動作導演(アクション監督)の李森の若き日の回想シーンから、映画は始まる。ちなみに、その若き日を演じたのは、林耀聲(シン・ラム)。強引に董瑋を若作りさせていないところに、なんだかこの映画の「良心」のようなものを感じる、とか言ったらちょっと大げさか(笑)。
深夜の撮影現場。「ああ、80年代の撮影現場って、こんな感じだったんやろな」と、なぜか容易に察しはつく。深夜とは言え、道路を封鎖した限られた時間での危険なアクションシーンの撮影で、結果を求めるあまりに、替身(スタントマン)の安全を無視したアクションを要求し、事故が起こってしまう。非難された李森は、後に映画界を追われる…。
時は流れ、2020 年代。映画界から引退していた李森は、日本で言うところの「骨接ぎ」のような「跌打(でぃっだー)」を開業している。久々に武術員のパーティーに参加した李森だが、身の置き所が無いといった様相で、程なくして会場を出る。そこへ、かつての盟友、楚導(演:杜燕歌/トー・インゴー)から自分の引退前の最後の映画で、動作導演(アクション監督)をやってほしいと持ち掛けられる。
主演は今や大スターとなった威哥(ワイ兄貴)こと梁志威(演:伍允龍)だという。これは因縁の関係。かつて李森が映画界を追われることになった事故に大いにかかわる人物。ま、これは映画を観て「ほぉ~」と思ってね(笑)。
李森はアシスタント兼スタントとして、なかなか出世のチャンスに恵まれない、アクション映画大好き青年、龍仔(演:劉俊謙)をアシスタントとして副動作導演に招き入れる。
ま、こうなるよな、ってな展開。過去の出来事も大いに影響している李森と威哥の関係。いざ、映画の撮影が始まると、両者はたちまち対立することになる。その板挟みでイライラが募るばかりの龍仔。でもね、彼は動作導演としてもスタントとしても、潜在能力があって、そこは李森はもちろん、威哥もよく見ているわけですわな。李森は「こいつを後継者に!」と思ったかどうかはわからんが、ラストシーンなんか見ると、多分そう思ってたんだと思う。知らんけど…(笑)。
撮影現場での威哥との軋轢と同時に、李森は娘のチェリー(演:蔡思韵/セシリア・チョイ)の結婚を機に、関係修復に苦心する。かつて、妻子よりも仕事を優先した結果、妻(演:梁雍婷/レイチェル・リョン)は娘と共に、李森の元を去って行ったという経緯があり、娘との関係は相当冷えている。が、やはりそこは親子というもんで、お互い、一番気になる存在ではあるようだが…。
家族との関係という点では、龍仔もまた問題を抱える。大した儲けにならないばかりか、命の危険さえあるスタントなんて辞めて、自分が経営している運送会社で働けと強く勧める兄(演:張達倫/マックス・チョン)。龍仔も一時は、足を洗うつもりで運送の仕事を手伝っていたのだが、李森のスカウトに心が揺らぎ、やはり自分は映画で生きていくと。こうなると修復は難しいね、実際に兄である俺はそう思うよ…。
李森という人物は、仕事本位で生きてきて、周囲を巻き込んできた人物だなと思うのは、冒頭の事故シーンや龍仔兄弟、娘を見ればよくわかる。その事故の犠牲となったのが、今は妻と茶餐廳を営む阿金(演:吳瑞庭/キース・ン)。営む、と言っても彼は下半身が不自由の様子。李森は事故以来、毎月彼に償いとして送金してきたが、阿金の妻(演:車婉婉/ステファニー・チェ)は未だ李森が許せない。ついにこの日、溜まりに溜まった怒りが爆発し、「これまでの送金には一切手を付けていない!」と言って、通帳を突き返す。この車婉婉、すごくイイ! ちなみに、この阿金のモデルは、西城秀樹と李賽鳳(ムーン・リー)が主演した『天使行動』で負傷した陳強だと言われているが…。
空前の大ヒットとなった『九龍城寨之圍城(邦:トワイライト・ウォリアーズ 決戦! 九龍城砦)』でも、共演した劉俊謙(テレンス・ラウ)と伍允龍(フィリップ・ン)。小生的には、本作では伍允龍の存在感の方が大きく感じられたなぁ…。劉俊謙がいきなりアクション映画に出たもんで、ちょっと戸惑いを感じてしまったのかもしれない。その点、香港では『九龍城寨之圍城』が先に公開されているから、その順番通りに観ていたら、全く違う感想を持ったかもしれない。早く『九龍城寨之圍城』を観たい!
実際にスタントマン上がりのアクション俳優でもある伍允龍。まさに「叩き上げ」の彼が本作で演じた威哥は、何度も記したように、撮影現場で李森と対立するが、このアクション界の「新旧」の対立は、小生のようなプロレスマニアは1980年代の長州力を核とした「世代闘争」のように映って、なかなか興味深いものがあった。一方で、劉俊謙が演じた龍仔にも鼻であしらうように接する威哥だが、苦労して今の地位をつかんだからこそ、龍仔の一途さやセンス、頑張りも認めていて、けっこう「いい奴」な面も見せる。基本的には「いい奴」なんだろうよ。
まあそんなこんながあって、ラスト(笑)。ここはもう、董瑋の独壇場なんだが…。
「だから長男は素晴らしい!」と長男の小生が「ホレ見たか!」と意気に感じたのが、龍仔の兄貴の行動。ビルの屋上からの飛び降りシーンに、着地点に積み上げる安全のための段ボールが足りない。そこで龍仔が電話したのが…。なるほど、龍仔の兄貴が運送屋をやってるというのは伏線で、ここで見ごとに回収されるわけだ。段ボール運んできた時の兄貴の表情がカッコイイのだ。
展開からして森哥が飛ぶのは容易に読めたが、いやいや、実際に董瑋が飛んだとは、驚き以外の何物でもない。そりゃ、若いころには董瑋もこんなシーンは山ほどこなしてきたと思うんだが、70歳の爺さまがまさか飛ぶとは…。これは、香港映画にかつてはよくあった、エンドロール前のNG集やらメーキングフィルムのおいしいとこ集みたいなので、我々は知ることになるんだけど。そんなわけで、これはもう完全に「董瑋の映画」なんだなあ、と。なんだか嬉しいね。
武師、替身への敬意。そして時間と予算に追われながらも、最高の娯楽作品を作るんだ、と燃えていた時代への敬意。一方でそのために、多くの犠牲もあったという「光と影」。これらが、ちょうどよいさじ加減で混ざり合って、香港電影迷の心を揺さぶってやまない作品に仕上がっていた。何よりも感動するのは、香港映画への愛が満ち溢れていたということ。これに尽きるな。
そんな「ええ仕事」をしはった監督の双子さん、梁冠堯(アルバート・レオン)、梁冠舜(ハーバート・レオン)が舞台挨拶&質疑応答。この二人もまた、武師である。だからこそのこの作品。
《受賞など》==================================
■第61屆金馬獎
1部門でノミネート
■第37屆中國電影金雞獎
・今年度期待の華語作品賞:『武替道』
※令和7年1月25日情報更新
2024年下期の作品ということで、ノミネートはこれからだろうけど、『九龍城寨之圍城』が独占状態なるのは目に見えている。そこは残念だな…。
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【正式預告】《武替道》
(令和6年11月10日 テアトル梅田)
「なんじゃこれ?」と陳果に落胆した『九龍不敗(邦:無敵のドラゴン)』の動作導演は董瑋。確かにアクションシーンはよかった。が、いかんせんストーリーが…。 |
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。