<江戸時代には芝居小屋が立ち並び、「木挽町へ行く」と言えば「芝居見物に出かける」ことを意味するほどにぎわった木挽町。現在は木挽町という町は無いが、通りの通称名にその名を残し、歌舞伎座が往時の名残として鎮座する。 (photo AC)>
「これは売れるで!」と、題名に一目惚れしてから、幾星霜…。ワーワー言うてますうちに、えらいまあ世の中で評判になってるし、直木賞に山本周五郎賞ダブル受賞って…。ようやく読み終えましたでござんすよ(笑)。実にカッコええやん、題名が。それに仇討ちものとあっては、こいつは読まねぇワケにはいきますまい…。って、え?「あだ討ち」なんかぇ? 「仇討ち」の話ではないのか…。帯にも「このあだ討ちの『真実』を、見破れますか?」とある。ささっ、いかなる「仕掛け」があるのやら。
『木挽町のあだ討ち』 永井紗耶子
新潮社 ¥1,870
2023年1月20日 発行
2023年6月25日 四刷
令和6年10月29日読了
※価格は令和6年10月30日時点税込
【第169回直木三十五賞受賞作】【第36回山本周五郎賞受賞作】
初版が昨年1月。半年で四刷ってのは、この本の売れない時代にあって、えらい売れ行きではないか? と言うか、お前さん、去年の夏に買った本を今まで放置していたのか、積んでいたのか。と、各方面からお叱りを受けるかもしれないが、次々と色々出てくるでしょ、面白い本が。どうしても、初読み作家さんは後回しになってしまうという傾向が。しかし、去年の夏以降、この本、ますます勢いづくのですよ、今は何刷が出回ってるのかは知らないけど、未だに書店によっては、いいポジションで売られてるもんねぇ。
何刷目かの帯に、ざっくりとしたあらすじがあったので、下記に。
そう。この作品はれっきとしたミステリーなのである。非常に見応えのある芝居でもある。こんな芝居なら、ご観劇料は決して惜しまない。いつもは「歌舞伎は高すぎる!」とぼやきまくっているのにね(笑)。
冒頭に、枠囲みで『鬼笑巷談帖』なる巷の話題集(きっと架空w)から、「木挽町の仇討」のエピソードが。これがまあ、短文ながらよくできた内容で…。って一番最初にクライマックスのシーンを持ってくるんかえ!と、ちょっとびっくりしたが、謎解きという意味では、このスタイルもまた良き。
「見応えある芝居」という点では、最初の登場人物に、木挽町は森田座の木戸芸者、一八をもってきたのがよく利いていて、どんな仇討劇が始まるんだろうという期待感を抱かせるのに成功している。この一八を皮切りに、森田座の「裏方さん」たちが次々と登場して、美少年菊之助による仇討劇を語るのである。と同時に、彼ら彼女らは自らの生い立ちや、何故、森田座に行き着いたのかなどを語る。このそれぞれの「身の上話」に、「木挽町の仇討」の真相の伏線が張り巡らされているというのが、読み進めるうちに「はは~ん」と気づくことになる。さらに「仇討ち」なのに、なぜ本のタイトルが「あだ討ち」と仮名になっているのかという謎が解けていく筋立ては、さすが時代小説の手練の書き手だなと感心するばかり。
元幇間で現在は木戸芸者の一八 彼の口調に一気に世界に引き込まれた。さすがだな。二人目は殺陣師の与三郎。次に楽屋の衣装係ほたる。小道具担当の久蔵夫婦。そして元旗本次男、戯作者篠田金治。この人がいたからこそ、仇討劇が成立したとも言える。彼はまた、菊之助の両親とも縁のある人物なのだ。
小生は、久蔵夫婦の段で、菅秀才の首実検の話が出た時に「おお、これはもしや?」と思った。え?遅い? どん臭くてごめんなさい(笑)。
ここに登場する森田座の面々の話を聞きだすのは、この仇討の顛末を知りたいと森田座を訪れてきた十八歳になる若武者であるが、彼が一体何者で、なぜ顛末を知りたがっているのか、なぜ森田座の面々の身の上話に耳を傾けるのか…。それがわかるのが、最終章「国元屋敷の場」。ここに至っても、彼の「肉声」を聴くことはなかったが、一方で木挽町では仇討を前に、思い詰めた空気をまとっていた菊之助のご陽気なことと言ったらもう…(笑)。その菊之助が仇討に至った経緯ももちろん書かれているんだが、そういうもんなのかね、そこまでやらなきゃならんのかね、菊之助のお父上よ…。という感じで、このへんは時代小説にありがちな「現代の感覚では…」というところかな。
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さて、本書の舞台となった木挽町。菊之助が見事に仇討ならぬ「あだ討ち」を果たした当時、江戸には、幕府の許可を得た芝居小屋が三つあった。堺町の中村座、葺屋町の市村座、木挽町の森田座。この三つの芝居小屋を「江戸三座」と称する。これを語り出すと、それこそ一冊の研究書が仕上がると思うので、これ以上は語らないし語れない(笑)。
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「やっぱり俺の目に狂いはなかった、この面白さよ!」なんて、後からなんぼでも言えるわけだが、実に面白い、読ませる作品であったのは事実。時代小説というだけで倦厭する人も多いが、この作品を読めば、一気に時代物に傾くんじゃないだろうか。正月休み、「なんぞ本でも読んでみようか」という方には、ぜひおススメしたい一冊である。
直木賞受賞第一作となるこちの本も気になる一冊! |
在大阪香港永久居民。
頑張らなくていい日々を模索して生きています。